狩りとその後
「シルベ! そっちに子兎がいったわよ!!」
「うおおおおーーー! 待てぇぇぇーーーー!!」
現在、オレとネイさんは今日の晩飯を確保するため、必死になって森の中を駆け回っていた!
「待て待て待てーーーー!! こちとら、今日の晩飯がかかってるんだ。絶対に捕まえて……とぉ!!」
ジャンプ一番で飛びかかるが、子兎は華麗なフットワークでオレの手をすり抜ける!
「くっ、くそっ! ちょこまかと逃げやがって!!」
激しく憤るも、失敗を気にする暇はないので再度追いかけ直す!
「うおおおーーー! 待ちやがれ晩飯ーーーー!!」
逃げる子兎を懸命に追い込んでいくと、その先には弓矢をかまえるネイさんの姿があった!
「もらったぁぁぁ!ーーー!!」
射られた矢は見事に子兎の胴体を貫く……ことはなく、側にあった石に跳ね返ってたオレの頬を掠めて後方に飛んでいく!
「ひ、ひえぇぇぇーーー!」
あまりにもギリギリのタイミングだったために、びびって尻餅を着くと、子兎はその間にどこかへ消えてしまった。
「あ~あ~! 逃げられたかぁ~」
一方、獲物を仕留め損ねてガッカリと肩を落とすネイさんは、気を取り直して言う。
「仕方ないわ。またイチからがんばって……動かないで!シルベ!!」
急に表情を青ざめさせるネイさん。その時は変化の理由に気づかなかったが、数秒後には嫌でも知ることになる。
「ブフォーーーー!!」
背後から聞こえる荒々しい呼吸音。気づいて振り向くとそこには!?
「ブフォォォーーーー!!」
全長二メートルにはなるかという猪が、鼻息を鳴らしてこちらへ近づいて来ていた!
「ひ、ひぇーーーー!」
オレは情けない声を上げるが、ネイさんは果敢にも弓をかまえて対抗しようとするが、しかし!
「やだ! 弦が切れてるじゃない!」
「マジ!?」
万事休すの状態に「詰んだ!」と思った次の瞬間、彼女は普段から携えてる短剣を抜いて言った。
「心配しないで! アタシには、まだこの伝説の魔剣が……」
「ま、魔剣って……それ、いつぞやのトカゲに使ったヤツじゃないですか!? 絶対に返り討ちに合いますって!」
「うっ、うるさいわよ! シルベはそこで黙って……ん?」
文句を言い合ってると、ネイさんが急に静かになる。
「ど、どうしまた?」
もしや、土壇場になって足がすくんだのかと思っていたら?
「…………!」
突然、猪が何も言わずにパタリと倒れてしまった。
「え、どういうこと!?」
様子を窺うもピクリと動かないので、おそるおそる状態を確認してると……?
「げっ! こ、これは……!?」
何と驚くことに、先程ネイさんが子兎に当て損ねた矢が流れ弾となって見事に猪の延髄部分に突き刺さって致命傷になっていたのだ!!
「ス、スゲーーー! 完全に奇跡じゃん!!」
思わぬ幸運に喜び興奮するオレ。これで今晩の食事は安心……そう思っていたら?
「それじゃあ、さっそく始めるわよ!」
「え? 始める?」
せっかく獲物を確保できたというのに、一体何をするというんだ?
「あの、お姉さん? これから何を?」
「何をって……そんなのは決まってるじゃない」
「と言いますと?」
「解体よ。まずは内臓を抜いて、その後は部位ごとに切り分けてから……」
淡々と説明するネイさん。それが終わると今度は?
「じゃあ、さっそくだけど……ハイ!」
「……え?」
いきなり短剣を手渡そうとしてきたので訊いてみる。
「あの、これは?」
「ん? 解体するのに必要でしょ?」
「解体……まさか、オレがこの猪を!?」
驚いているところへ彼女は真顔で続ける。
「もちろんよ。しばらくはこういった生活を続けていくつもりだから、当然シルベにもこれくらいのことはやってもらうわ」
「これくらい? オレは魚すら捌いたことがないですよ!」
「あら、そうだったの? なら、ちょうどいい練習台になっていいじゃない」
「れ、練習台って……そ、そんな……」
思わず萎縮するが、ネイさんはお構い無しにオレの手に短剣を握らせると……
「とにかく、アナタは今からこの猪を解体するの。ほら、まずはこうやって……」
「え、ちょ、やるなら自分のタイミングでやらせて……そんな、手を引っ張らないで!」
有無を言わさずに、強引その手を掴んで猪の腹へ突き刺す!
「うげぇ! ち、血が!!」
「うるさい! 早くやらないと日が暮れるわよ!」
「そ、それはわかってますけど……」
「わかってるなら、つべこべ言わずにさっさとやりなさい!!」
「ハ、ハイ!!」
伝わる感触には嫌な気持ちになるが、だからと言ってここで逃げるのはあまりにも甘えた発想になるのは明白。何より、ここで放り出しては彼女に対してあまりにも無責任過ぎる!
「こ、こうなりゃヤケだ! うおりゃあああーーーー!!」
オレは自らに気合いを入れると、ひと思いに猪の腹をかっぱ裂いた!
「……っく!」
切り口からみるみると溢れる真っ赤な内臓にたじろぎそうになるが、それでもオレは……オレは……
「うっぷ……こ、これくらい……!」
込み上げてくる吐き気と生きていたものを傷つける罪悪感に耐え、苛酷な作業に正面から向き合っていくのであった。




