逃げ仰せた先では?
辛くも黒いフードのアジトになる屋敷から逃げ仰せたオレとネイさんは、途中で上手く強風に乗れた幸運のおかげで何とか安全そうな場所にたどり着けていた。
「――――ふぅ~! ここまでくればもう安心ね♪」
「みたいですね……でも、お姉さん。無事だったのはいいですけど、どこなんですかここは?」
夜が明け始めた薄暗闇の中で周囲を見回すと、自分達がどこかの町か村らしき場所に立っているのはわかるが、建物がある割りには何故か人の気配を感じることはなかった。
「ここはいわゆる無人の廃墟ってヤツよ。確か十年くらい前だったかな? この辺りにあった井戸がみんな枯れちゃって、それで住民がまとめて他所の土地に引っ越したらしいのよ」
「へぇ、じゃあその後は放ったらかしで?」
「いえ、騎士団がたまにだけど実戦向けの訓練の場として活用していたわ」
「いた? 今は訓練をやってないと?」
「……ええ、二年前に事件が起きた以来それっきりみたよ」
「事件? 一体どんな事件があったんですか?」
「それは……っと、その前に一旦休みましょか。さすがに夜通し動き続けたせいでい疲れてるでしょ!」
不自然に会話を打ち切るネイさん。不審な点はあるが、実際に疲れてることは事実なので休息に同意する。
――――その後、適当に見つけた空き家の寝室で二時間程の仮眠を終えたオレは、ネイさんからこれまでの経緯を伝えられるが……
「騎士団から黙って抜け出して来たぁ!?」
「う、うん……シルベが心配になって、つい……ね」
「“つい”って……原因になったオレが言うのも難ですが、それってかなり無茶なことですよね?」
「我ながら少しは反省してるわ。でも……」
「わかってます。わかってますけど……それでもし、お姉さんに何かあったらオレは……!」
「ごめん。心配かけて」
「あ、いえ、別に責めてる訳では……それよりも、これからどうします?」
「これからねぇ……さすがに今すぐには騎士団へ戻りにくいから……そうね、ほとぼりが冷めるまではどこか安全な場所で身を潜めて過ごすのはどうかな?」
「身を潜めるって……この廃墟にですか?」
この質問にネイさんは左右に首を軽く振って答える。
「まさか? ちゃんとした隠れ家を使うつもり♪」
「そんなものがあるんですか?」
「あるわよ。ここから五キロ程東へ進んだ森の中にね」
「なるほど。けど、その場所を誰かに知られていたりとかは?」
「それなら大丈夫。隠れ家のことはシルベに話したのが初めてだからね」
「オレが初めてって……バーバラさんにも話してないんですか?」
「もちろん……っというよりも、本来あの隠れ家は一人で集中したい時に使ってるから、邪魔されたくなくて誰にも伝えてないわ」
一人で集中かぁ……いわゆる完全なるプライベート空間といったところかな?
「わかりました。だったら急いで、その隠れ家へ移動しましょう!」
――――そこから休憩を挟みつつ、一時間と半分をかけて到着した先には、森の木々に隠れるように建てられたボロボロの物置小屋があった。
「もしかして……あれが隠れ家ですか?」
「そうよ。少しアレに見えるけど、中は十分に使えるから安心して」
そうは言うけど……ちょっとした強風でも吹けば、一発でバラバラになりそうな頼りなさしかない。
「さぁ、立ち止まってないで早く中へ入るわよ」
「ハ、ハイ! お邪魔します!」
軋む扉を開けて促されるように中へ入ると、そこにはあらゆる物が所狭しと詰め込まれていて……
「こう言っちゃあ悪いですけど、物置小屋っていうよりも単にガラクタ置き場って感じじゃありませんか?」
「う、うるさいわね! この方がアタシ的には集中できるの!」
「ハイハイ……じゃあ、とっと片付けて二人分のスペースを確保しますよ」
「わ、わかったわよ!」
ということで片付け開始。途中、実験やら何やらに使う道具が色々出てきたが、それ等はとにかく隅に押し込んだり積み上げたりで、何とか二人が手足を伸ばせるだけのスペースを作り上げた。
「――――ふぅ、これでようやく一息つけるわね」
空いた床に二人で腰を下ろして落ち着くと、今度は腹の虫が鳴る。
「そういえば、もうお昼頃ですかね?」
「あっ、それなら待ってて。片付けてる最中に見つけた保存食がちょうどここに……あったわ!」
出されたのは、見た目が茶色くてカリカリに乾いた……
「干し肉ですか?」
「そっ! この辺りで狩った獣でアタシが作ったの!」
「……ちなみに聞きますけど、これっていつ頃に作った……もがっ!」
「いいから黙って食べなさい!」
無理矢理に口に突っ込まれたが、噛み応えがあるものの、味は意外にもイケた。
「どぉ?」
「ガシガシ……はい、けっこういい味をしてますね。ちなみに何の肉を使ってるんですか?」
「聞きたい?」
素敵な笑顔で言われるが、何故か本能が知らない方がいいと訴えるので……
「い、いえ……それは、また今度教えてください」
真実は先送りにするいうことで事なき得た。
「――――ところで……」
食事が終わり、ネイさんがふと話し出す。
「ここに潜伏するにしても、食料をどうにかする必要があるよね?」
「そりゃそうですけど……この干し肉みたいな保存食は、あとどれくらい残ってるんですか?」
「残ってないわよ」
「…………え?」
「だから、今食べてのが最後だから何も残ってないわ」
「つ、つまりそれって……?」
「そういうこと! 今のアタシ達はこのままだと、明日からどころか、今日の晩御飯にすらもありつけない状態って訳よ♪」
本当に素敵な笑顔で言ってるが、口してる内容は明らかにこれから始まる潜伏生活のを圧倒的に不安視に思わせるものでしかなかったのだった……




