華麗なる脱出劇
部屋からの脱出を決意したオレは、外へ繋がる扉の前に立って声をかけた。
「なぁ梓! ちょっといいかな?」
するとしばらくして……
「何? あと、気安く呼び捨てしないで」
ずいぶんと辛辣な返答だが、それはいい。
「あのさ、トイレにいきたいだけど?」
「いけば?」
「え?」
そう言われて試しに見回すも、この部屋にトイレは見当たらない。
「あの……スミマセン梓さん。できれば便器がある場所でことをすませたいのですが?」
オレは伺いを立てるように訴える。
「はぁ~、仕方ないわね」
どうやら下手に出たのが功を奏したらしく、彼女は嫌々ながらでも扉を開けてくれる。
「ど、どうも……」
一応は頭を軽く下げてみたが、まったく見向きされない。
「トイレはここを真っ直ぐいった突き当たりよ。変態さん」
「ハイハイ、了解しましたよ」
何か言い返したい気分はあるが、ここは堪えてトイレへ……ん?
気配を感じて背後に振り向く。するとそこには、梓がピッタリと張り付いていた!
「お、お前……もしかしてついてくるのか!?」
「見張りなんだから当然でしょ。あと当たり前のことを言うけど、さすがに中までは一緒に入らないからね」
「ハハハ……了解したよ」
あ、焦った……一瞬、見張りだから本気で一緒にトイレに入るかもと思ったよ。
――――っで、そんな下らないことしてる間にトイレの前へ到着。
「じゃあ私はここで待ってるから、さっさと済ませて」
「あの、そう急かされたら出るものも出ないんだけど?」
「……いいから、早くいきなさい!」
「ハイハイ」
ということでオレは一人トイレへ。
「さてと……梓に言われた訳じゃないけど、さっさと済ませるか」
まずは状況確認。
「ふんふん……便器の形は多少の細部が違っても、ほとんど元の世界にあった洋式のものと同じか。それにスペースは両腕を広げれば十分に壁まで届く。あとは天井なんだけど……イケそうだね」
そう、オレは例の閉じ込められた部屋からの脱出を諦め、このトイレから脱出に切り替えていた。
ちなみにトイレを選んだ理由は、単に狭い個室だろうと予想していたからだ。
「では、さっそく作戦開始だ!」
オレは蓋を閉めたままの便器に乗ると、両手両足を壁に突っ張らせる。
「よし、このまま上まで登れば……っと、その前にやることがあったな」
下手にもたついた場合に不審がられても困るので、カモフラージュを。
「あ~梓さん? 大の方もやるから、しばらく待っててくれるか?」
『……気持ち悪いことを言ってないで、早く済ませなさい!」
「は~い♪』
彼女の言う通り早く済ませよう。脱出を……
「――――っよ!ハッ!とっ……!」
突っ張らせた手足を器用に使い、天井付近にまでよじ登る。
「この板さえ外せば……やった!」
目論見通り、天井板を取り外すことには成功!
「あとはここから抜け出せば……」
そう安心した矢先だった!
『ちょっと、まだなの? こっちは待ちっぱなしでイラつくんですけど!』
梓だ。手間取り過ぎたか、それとも堪え性がないのかは不明だが、ついに催促が始まってしまう!
「くっ、もう少しだというのに!」
だが、焦りは禁物だ。ここは何か気の利いた返答で乗り切るしかない。
「ま、まだだ! 今、一番太いのが引っかかってなかなか出てこないんだ! 頼むから集中させてくれよ!」
『…………わ、わかったわよ。ゆっくりでいいから、お尻はちゃんと拭いてきてよね!』
「おう!了解だ!」
どうやら上手く誤魔化せたみたい……って、完全に脱出しない内は油断できない!
天井板を外したオレは素早く天井裏へ上がると、手探りでその場から移動する。
「慎重に……慎重に……でも、なるべく急がないと……」
落ち着きたいのか焦りたいのか、よくわからない感情のままに暗闇の中をさ迷っていたら……
「あれは?」
三メートル。いや、二メートルくらいに先に光の線みたいなものが見える。
「もしかして、月明かりが射し込んでいるのか!?」
兎にも角にも、それを希望の光と捉えたオレは急いで近づく……っが、この焦りがいけなかった。あろうことか、うっかり天井を踏み抜いて左足が下に飛び出てしまったのだ!
「まずい!」
幸いにとすぐに足を引き上げたおかげで誰にも気づかれなかったみたいだが、バレるのは時間の問題。
「ちっ、こうなったら強行突破するしかない!」
覚悟を決めたオレは月明かりが漏れる場所にまで一気に駆けると、目星をつけた屋根の付近を調べる!
「どこだ……どこかに脱出口がある!!」
必死になって探していたら……パカッ!
「開いた! ここから脱出できるぞ!」
勝機を見出だしたオレは、迷うことなく蓋になっていた部分を持ち上げて外へ……!?
「え?」
「え?」
ようやく外へ……そう思った次の瞬間。視界へ飛び込んできた光景は、月明かりの下でオレの登場に驚いて固まるネイさんの姿だった!




