疑念
「オレがネイさんの弟?」
偽りの虚構がじつは真実だったとバーバラさんの口から告げられるが、それには明らかな矛盾があった。
「バーバラさん。今さらの話になって恐縮ですが、オレはいわゆる転移者なんです。だから、元々の存在する世界が違うオレとネイが姉弟であること絶対にあり得ません!」
そう、存在する世界が違えば当然この答えになるはず……なのにバーバラさんはというと?
「確かに、アナタが自分を転移者だと認識していることは理解できる。でもね、それでもアナタは私やネイと同じこっち側の人間なるのよ!」
オレが自分達と同じ世界の人間だと決めつける!
「で、では……仮にバーバラさんの言う通りだったとして、どうしてオレが転移者になるんですか!? そもそも転移者とは、別の世界からやってきた者であって……」
「だから、その発想自体が間違いなのよ。だいたいアナタが転移者になったのは……!」
そこまで言いかけていた時だ。コンコン……新たなる人物が部屋の扉を叩く。
『スミマセン。よろしいでしょうか?』
「喜多村? 入っていいわよ」
促されて部屋に現れたのは、この屋敷で一番最初に出会ったあの老紳士だ。
「お取込み中に失礼します。バーバラ様、そろそろ支度を……」
「え、もうそんな時間だったの!?」
老紳士の言葉に慌てるバーバラさんは、いそいそと部屋を出ていこうとする……?
「そうだ、アズサ。アナタにはテルミチの見張りをお願いするわね」
「ええーーー! 私がこんな変態の見張りをするの!?」
「文句を言わない。彼が大事な存在であることは、アナタも重々理解してるはずでしょ?」
「うう……わかった」
そんな不服そうに見張りを引き受ける梓を見届けた後、バーバラさんとキタムラと呼ばれる老紳士の二人は部屋から足早に立ち去る。そして、一方の残されたオレ達は?
「はぁ……聞いての通りよ変態さん。私は部屋の外で見張っているから、用がある時だけ声をかけてよ」
「いや、それはいいんだけどさ。その……いい加減に人を変態呼ばわりするのはやめてくれないか?」
「変態を変態と言って何が悪いのよ?」
梓はこれでもかっていう辛辣な言葉を吐き出すだけ吐き出すと、不機嫌極まりない足取りで部屋から出ていってしまった。
「……ったく、何だよあの人をバカにした態度は」
再び一人になったオレは彼女の悪態に憤りながら考える。
「――――さて、これから如何したものか……」
このまま部屋に閉じ込められるのは気に食わないが、この屋敷にいれば少なくとも父さんと母さん。それに梓みたいな他の転移者達の身近にいられるだろう。ただ……
「やっぱり閉じ込めるのは、やり過ぎないか?」
オレは椅子に座った体勢で、行儀悪く後ろ斜めに傾く。
「そういえば……バーバラさんが言ってたな。オレがネイさんの弟だって」
彼女が口にしていた妄想ともいえる絵空事。それが絶対にあり得ないのはわかっている。わかっているはずなのに……何故かオレの胸はざわついていた。
「もし仮に……本当にオレがネイさんの弟だったらどうなる? もし仮に……彼女が本当に嘘をついていたらどうなる?」
僅かに生じた疑念。その正体を確かめたくも、今の状況では到底……
「……って、オレは一体何を確かめたいんだ!?」
いつの間にか振り回されてる自分に気づいたオレは、ここままではいけないと考え始める。
「やっぱりここから脱出しよう。そして、ネイさんに……」
やるべき目的が決まり、改めて部屋の中を見回す……すると?
「あの天井……上手く板を外せば屋根に出られないかな?」
思い立ったオレは取り敢えずはやってみようと、部屋にあったテーブルと椅子を使って適当な足場に積み上げる……しかし!
「ダメだ、これでは天井には届きそうにない。それに、積み上げた椅子とテーブルも状態が不安定過ぎて、下手をすれば崩れた音で周りに気づかれる恐れがありそうだ」
ならば別の手はと考えてはみるが?
「そうだ! ヤモリみたいに壁に張りついてシャカシャカと……いやいや、いくらなんでもそれは無理か」
さすがに手に吸盤でもない限りは、爬虫類の真似なんてできる訳がない。
「う~ん。でも、これじゃどうやっても人知れずに部屋から脱出するなんてことは……待てよ?」
この瞬間、頭の中にある電球が目映く光った!
「何もわざわざ、この部屋から脱出にこだわる必要はないんじゃ?」
またもや思い立ったオレは、扉の向こうに控えてるであろう見張り役の彼女へ意気揚々と声をかける。
「なぁ梓。ちょっといいかな?」
これから実行する、華麗なる脱出のために!!




