梓、来襲!
未だ部屋に閉じ込められる状況のなか、オレは成河 梓という女の発言から、バーバラさんが黒いフードへ勧誘しようと企んでいたことを知る。
「あのバーバラさん。勧誘とは一体?」
オレは不信感を隠しつつ尋ねる。
「そうね。それを教える前に……アズサ?」
「何ですか?」
「アナタが言う通りにテルミチを勧誘するつもりだったけど、正直、話はまだそこに至ってないわ。そもそもこういった大事なことは然るべき手順というものを踏んで慎重に……」
「手順?慎重? そんなのは適当に無視して本題に入れば済む話じゃないんですか?」
「それはそうかもだけど……何て言えばいいのかなぁ~」
後頭部を掻いて言い淀むバーバラさん。どうやら、梓の直情的な意見に対しての答えがなかなか見つからないみたいだ。
「――――え~と……と、とにかくよ! 勧誘そのものはちゃんとやるつもりだから、そこは信用してもらうしかないわ」
「信用って……本当ですか?」
「本当よ。それとも転移者は異世界人の私を信用できないと言いたいの?」
「手放しではできません。だいたい今の私達がこうして苦しい想いをしてる原因は、その異世界人の我儘によってもたらされた結果なんですから!」
異世界人の我儘によってもたらされた結果? 異世界人というのがこの世界の人間を指してるのは察しがつくけど、“もたらされた”とはどういう意味だ?
会話の内容がまるでわからないオレは、二人の会話を黙って聞くしかなかった。
「あのねアズサ……アナタ達が苦しんでるのは私なりに気の毒に思ってる。でもね? その異世界人と協力しない限り、アナタ達が元の世界へ帰れない事実は知ってるはずでしょ?」
「そ、それは……わかったわよ」
意外にも素直に納得する梓。そして、彼女との会話を終わらせたバーバラさんは再びオレの方へ。
「テルミチ……いいかしら?」
「あ、ハイ」
まさか、今から黒いフードへ勧誘するつもりではあるまいな?
一応は身構えてると、話はまったく違う方向へ進む。
「ねぇテルミチ、アナタは自分の存在が不思議だと思ったことはなかった?」
「オレの存在……と言いますと?」
「私を含め、周りの人間がアナタをネイの弟だと信じた……それを不思議に思わなかったのかを訊いてるの」
「あ~そのことですか……まぁ単純に言えば、『簡単に信じてくれてるなぁ』という気持ちはありました」
改めて考えてみると、確かにみんな簡単に信じてくれていた。多少の困惑くらいはあったかもだが、この世界で出会った人達にはオレがネイさんの弟であることを何事もなく信じられてる。
「でも、何でいきなりそんなことを持ち出しすんですか?」
この率直な疑問に、バーバラさんは特に気にする様子もなく話を進めていく。
「テルミチ、大前提として言わせてもらうけど……みんながアナタをネイの弟だと信じた理由は、ネイには本当に弟がいるからなのよ」
「ネイさんに弟……え、じゃあ、その人は今どこに!?」
バーバラさんは一呼吸置いて答える。
「……私の目の前よ」
「め、目の前……ハッ!」
オレはこの場にいる一人の人物に視線を移す。
「成河 梓……」
「何よ?」
急に自分の名前を呼ばれて怪訝な顔をする彼女に尋ねる。
「お前が……ネイさんの弟なんだな?」
「ハァアアアアーーーー!?」
すっとんきょうな声をあげて驚いてるが、誤魔化される気はない!
「フン。上手く隠してたつもりみたいだけど、お前……じつは、近頃流行りの“男の娘”っヤツだろ?」
「お、おとこの……って、何よそれ!?」
「わざとらしくとぼけるな! いいから、さっさとその悪趣味な変装を解いて正体を……ぶぎゃ!」
なぜだかわからないが、梓の右ストレートがオレの顔面に飛んできた。
「ななななな何バカを言ってんのよアンタは!? 私がネイ=サンの弟ですって!? 妹ならいざ知らず、弟ですって!?」
無茶苦茶な激昂する梓。どうやらオレの推理は当たりらしい。
「フフフ、そうやって躍起になってるということは、やっぱりお前は……ごばっ!」
今度は左ストレートが飛んでくる。
「こ、この……さっきから調子に乗ってボカスカと……こうなったら、こっちだってやってやるさ!!」
相手の横暴さに腹を立てたオレは、もはやネイさんの弟であっても関係ないとばかりに拳を握る!
「歯ぁくいしばれ! この姉不幸ものがぁーーーー!!」
感情のおもむくままに殴りかかろうとしたその時だ!
「やめなさい二人共!!」
「…………!!」
「…………!!」
バーバラさんの一喝により、オレ達はピタリと動きを止める。
「はぁ~まったく、アナタ達は何をやって……」
呆れる彼女は面倒臭そうに話す。
「あのねテルミチ? どこをどう間違えてそんな発想になったかは知らないけど、アズサはネイの弟でもなければ、その……男のナントカでもないわよ」
「へっ?違うの?」
当にしていた推理が外れて呆気に取られていたら、梓がそれ見たことかと噛みつく。
「そんなの当たり前でしょ! っていうかアンタ、ちょっと頭がおかしくない!?」
「何っ!? だから、あんまり調子に乗ってると……!」
またもや罵り合いになりかけると、再びバーバラさんが吠える!
「いい加減にしなさいアナタ達!! いつまでもやってると本気で怒るわよ!!」
「「ハ、ハイーーーー!!」」
元騎士団団長に本気で怒られては絶対にかなわないので、オレと梓は揃って直立不動で固まる。
「ったく……とにかくテルミチ。ネイの弟だけど……」
「あ、そうだった。結局誰なんですか?」
「……アナタよ」
「え? 誰がネイさんの弟ですって?」
「アナタがネイの弟よ!」
「はいぃぃ~?」
「だ・か・ら!アナタがネイの弟なの! 正真正銘間違いなくね!!」
「はっ、はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!?? いくらなんでも、そんなのはあり得ないですよバーバラさん!!」
あり得ない程にあり得なさ過ぎる答えを打ち明けたバーバラさん。そんな彼女の目は、はっきりとその答えこそが真実だと訴えかけていた!!




