ネイへの報せ
騎士団で過ごす深夜。アタシはいつまでも帰らない弟のシルベを部屋で心配して待ち続けていた……
……コンコン!
「シルベ!?」
部屋の扉を叩く音に素早く反応するアタシは、弟がようやく帰って来たかと期待して扉を開く!
「おかえりなさい。シルベ!」
しかし、そこに立っていたのは残念ながら……
「ど、どうも……」
バツの悪そうな顔をしているゲルトだったので、何とか場を取り繕って訪ねて来た理由を訊ねる。
「え、え~と……何か用なのかな?」
すると彼の口から飛び出したのは……
「あ、あの……テルミチくんがバーバラ元団長の手によって連れ去られました」
「なんですって!?」
まさかの驚愕の報せだった!
「そ、そんな……バーバラがシルベを!?」
突然の事態に頭を抱え困惑するなか、ゲルトは申し訳なさそうにして経緯の説明を開始する。
「じつはテルミチくん。彼は、午後からワイマンと一緒にモニカ劇団の公演を鑑賞したく噴水広場へ出かけていたんです」
「ワイマンと?」
さすがに護衛はつけていたのね。
「ハイ、それで現場では多少のトラブルがあったものの、公演自体は開催されたらしいんですが……」
「何かあったのね?」
「彼等は公演中に黒いフードの襲撃に合い、戦闘になりました」
「黒いフードと戦ったの!?」
「報告ではそうなります」
「そ、そんな……」
「ただ……その際はワイマンと数名の騎士達による活躍で事なき終えられたので、相手を取り逃がした以外は問題なかったとのことです」
「そう……でも、それだとバーバラがシルベを連れ去ったのは?」
「ハイ。現場での諸々の処理を済ませたワイマンは、テルミチくんと共に騎士団へ帰還……の途中で“暴れ馬”で休息。その後、再び騎士団へ向かいました」
「フンフン……それで?」
「……それでこれまた帰還途中になりますが、彼等はバーバラ元団長と遭遇。そして、やむを得ずそのまま彼女との戦闘が開始され……結果、ワイマンは敗北。テルミチくんが連れ去られるに至った訳です」
「なるほど……っで、それはどれくらい前の話になるの?」
「ワイマンからの報告によると、彼自身が戦闘後にしばらく気を失っていたので正確な時間はわかりませんが、状況から察するに少なくとも三十分は経過していたかと……」
「三十分か……となると、バーバラ達はまだそんなに遠くにまでは移動してないわね」
「そう思われます」
「よし……それなら」
アタシは、椅子の背もたれにかけっぱなしにしてあったマントを羽織って言う。
「とにかく急いで二人を探すしかないわ。ゲルト、悪いけど手伝ってくれる?」
そう彼に同意を求めて部屋から出ようとするが……
「申し訳ありませんが、それは出来かねます」
「え?」
「前にも言いましたが、アナタは我々に保護されるてる身。よって、そんな方を連れ歩く訳には到底いきません」
「で、でも、いつかの時は一緒に……」
「あの時と今とでは状況が明らかに違います! テルミチくんが行方不明なんですよ!!」
「そ、そんなことはわかってるわよ! だから彼を探すためにアタシはこうして……」
「それがダメなんです! いいですか? 相手がバーバラ元団長とはいえテルミチくんが連れ去られた以上、次に狙われるのはアナタかも知れないんですよ!」
「言われなくてもわかってるわよ! でも、だからといってこのままジっとしてるのは……」
「御気持ちはわかります。ですが、ここでアナタに下手に動かれては、無用の混乱を招く恐れがあるのです!」
「…………!」
悔しいけどゲルトの言ってることは正しい。アタシに何かあれば、騎士団にとっては余計に状況が悪くなるのだから。
「たけど……たけどねゲルト? それでもアタシは――――!」
「御免!」
「うっ!」
突如、鳩尾に走る激しい痛み。次の瞬間に目の前が真っ暗になったと思っていたら……
「――――ハッ!」
気がつくとゲルトは姿を消しており、アタシは部屋のベッドに寝かされていた。
「一体何が……つっ!」
この痛み……そうか。ゲルトは私を気絶させていってしまったのか。
「ハハハ……前に研究室で眠らせた時とは逆の立場になったわね」
自分の因果応報さを嘲笑して呆れるアタシは、ベッドに寝たまま考える。
「バーバラがシルベを連れていったということは、向かう先はおそらくあそこね……」
親友の突然の裏切りにはショックを受けるが、起きてしまったからには事実として受け入れるしかない。
それに、そもそも……彼女が裏切るキッカケを作ったのはアタシ自身。
「はぁ……別にいいわ。彼女がどんなに裏切ろうと、結局はアタシに従う道しかないんだから……」
胸に渦巻く嫌な感情。それがアタシを破滅の方向へ導こうとしているのは理解している。
理解しているけど……
「アタシはやらなければならない。アタシが欲する“家族”を取り戻すために!!」




