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シルベ=テルミチのチートナシ異世界ライフの物語  作者: なめなめ
第八章 家族
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騒動のあとは?

 謎の男こと、城戸 進(きど すすむ)による騒動で不本意な公演中止に追い込まれたモニカ劇団。今はどうにかその騒動が収まったことで、劇団員が一丸になって後片付けに勤しんでいた。


「ふぅ……しかし、舞台の片付けってヤツはけっこう大変なんだなぁ」


 尚、未だに臨時の手伝いから解放されてないオレも彼等に混じって黙々と作業を続けて……たのだが?


「オイ、ボウズ。そろそろ戻るぞ」


 いきなり登場したワイマンさんから提案。オレはその意味がわからずに思わず聞き返した。


「戻るって、どこにです?」

「はぁ……ンなもん、騎士団に決まってんじゃねぇか。一応、お前は保護対象者なんだからよ」

「ああ!」


 そういえばそんな設定があった気がする。


「……っで、どうすんだ?」

「どうすんだと言われましても……まだ片付けの途中ですよ?」

「なら、適当に済ませてさっさと抜け出してこいよ!」

「適当にって……みなさんがんばってるのに、そんないい加減な真似はできませんよ」

「何だよ。頭の固いヤツだな」

「ワイマンさんが柔らか過ぎるんですよ」

「ハハハ、言ってくれるぜ!」


 なんて下らない会話を交わしていると、そこへ……


「テルミチ、ちょっといいかい?」

「あ、モニカさん」

「アンタに話がある。ついてきな」

「え、ハイ?」


 突然の誘いには少し戸惑ったが、取り敢えずはワイマンさんをその場に放って彼女についていくことを承諾。そして、連れられた先は広場のどこかに設置された人気がないベンチの手前だった。


「悪いね、つきあってもらって」

「いえ。それよりも話とは何ですか?」

「それは……その前にまずは座ろうか」


 ということで、二人が目の前にあるベンチに腰を下ろす。すると、そこから一息の間を置いてモニカさんが神妙な口調で話し始めた。


「――――確か、二年くらい前になったかね。当時、モニカ劇団(ウチ)では役者希望者を募集していたことがあったんだよ」


 役者を募集? いわゆるオーディションやコンテスト的なものかな?


「それでね、その時に入団してきた者達の中にあの子……カオリが含まれていたのさ」

「春野さんが?」


 話が事実とするなら、二年前に大男が彼女に一目惚れした時期にも重なる……となれば、やはり彼女はオレよりも以前にこの世界へやって来ていた?


「最初の方は引っ込み思案な性格に多少の不安はあったんだけどね。稽古(けいこ)には人一倍熱心に励んでいたおかげで、三ヶ月も経つ頃には一人前(いっぱし)の役者として舞台へ立てるまでに演技が上達していたもんさ」

「三ヶ月……役者についてよくはわかりませんが、それってすごいことなんですか?」

「そりゃすごいね。普通の者だったら、ちょっとした端役をもらえるだけでも半年以上……セリフがある役だと丸二年は軽くかかるくらいだからね」

「そ、それは……すごいですね」

「だろ? 本当にすごい子なんだよ。あの子は……」


 そう話すモニカさんの目はどこか嬉しそう……だが?


「あっ、でも、春野さんはあの騒動に関わってたから……その……もしかして退団(クビ)に……」


 心配になって訊ねると、モニカさんは首を左右に振ってから答える。


「あの子には間違いなく才能がある。だから、そんなつまらないことでその未来を閉ざしてやるつもりは毛頭ないさ」

「そうですか……」


 オレは春野さんの身を案じて胸を撫で下ろすが……


「ただね……」

「ただ?」

「あれだけのことをやったんだから、説教のひとつでもかましてやらないとは考えてるよ」


 ニヤリと笑顔を浮かべて話すモニカさん。どうやら春野さんを見捨てる気は本当にないようだった。


「――――っで、話は変わるけどテルミチ。ひとつアンタに頼みたいことがあるんだけど……聞いてくれるかい?」

「頼み? オレにできることでしたら」


 この言葉を聞いた彼女は、こちらをジっと見て言う。


「……カオリを助けてくれないか?」

「春野さんを……助ける?」

「勝手なことを言っているのは重々に承知してる。けどね、私ではたぶん……あの子を助けられないと思う。だから……ね?」

「モニカさん……」


 悲痛な頼み……というよりは“願い”を聞いて、オレはゆっくりとベンチから立ち上がって言った。


「それなら大丈夫です。オレは元々そのつもりですから!」

「え?」

「春野さんは必ず助けます。何せ、オレと彼女は同じクラスメートですからね!」

「くらす……何だいそれは?」

「あ、え~と、簡単に説明すると……仲間や友達といった意味になりますかね?」

「友達……そうかい、友達ね……なら、改めてその友達のことを頼まれてくれるかい。テルミチ?」

「もちろん、任せてください!」


 胸を叩いて断言する姿に、モニカさんはどこか安心したような表情を浮かべる。


「フフフ、それじゃあ私からの話はこれで終いとして……今日は疲れただろからもう帰っていいよ」

「え? ええ……でも、まだ片付けの方が残って……」

「いいよいいよそんなのは。それにさっきの騎士さんも待たせてるじゃないのかい?」

「そ、それは……いいんですか?」

「問題ないさ。劇団長の私が言ってるんだから誰も文句を言わないよ!」

「わ、わかりました……それでは御厚意に甘えさせてもらいます」

「ああ、遠慮なく甘えな♪」


 こうしてモニカさんからのお墨付きをもらえたオレは、急いでワイマンさんの元へ向かう。


「――――すみませんワイマンさん。お待たせしました!」

「ああ、ホントに“お待たせ”したぜ……っで、もういいのか?」

「おかげさまで!」

「そうか。なら、とっとと騎士団へ戻るぞ」 

「ハイ!」


 こうして春野さんとの予想外の再会を果たしたオレは、騎士団への帰路に着くのであった。

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