彼女はどこへ?
噴水広場から騎士団への帰路に着くオレとワイマンさんは、通り道になる飲み屋街をゆったりと歩いていた……
「あ~やっぱり時間が時間だな。あっちこっちで酔いどれ共がうろついてやがる……って、オイ!オッサン! そこはションベンしていい場所じゃねぇぞ!!」
喧騒で賑わう酔いどれ達の愚行を慌てて注意するワイマンさん。騎士としての責任と使命を全うしようと、街の環境美化のために奮闘する。
「ったく……飲むなら、ちったぁ行儀良くしろってんだ!」
ブツクサと文句を言う割に、きっちりと仕事をこなす姿には素直に感心を覚え……
「あ~あ、連中の楽しそうな姿を見てるとよ、何だかこっちまで飲みたくなってくるじゃねぇか!」
いや、やはり根が不真面目らしくて、すぐに悪い方へ流されてる。
「ダメですよワイマンさん。オレ達は騎士団へ戻るんでしよ!」
「オイオイ、何言ってんだよボウズ。ここはせっかくの飲み屋街なんだぜ? ちょっとくらいは気晴らしに……」
「ダメです!」
「わ、わぁたよ。まったく、ホントに頭が固いヤツだな」
「柔らかいヤツよりはマシでしょ!」
「ぬぅ……な、なら、せめて飯でも食っていこうぜ。どうせ今から戻っても晩飯にはありつけねぇだろ?」
「ま、まぁ、それはそうですが……」
確かにこのまま戻って、晩飯は抜きになるのは辛いな。
「フッ、どうやら決まりだな。じゃあさっそく、ダルっんトコに向かうぞ!」
「ダルって……暴れ馬ですか?」
「ああ! アイツんトコの飯はとにかく絶品だからな♪」
――――っという流れがあり、オレ達は暴れ馬に到着する。
「さぁて、何を注文するかな……ん? この店……こんなに静かだったか?」
「そういえば……前に来た時は、もうちょっと賑わっていたような気がしますね」
席に座っていつもと違う店内の雰囲気に戸惑っていると、そこへゆっくりと近づく影が?
「フフン……やぁ、ワイマンにテルミチくん。珍しい組み合わせだけど、どうしたんだい?」
「なぁにコイツのことは気晴らしのついでに面倒見てただけさ。それよりも……ずいぶんと客が少ねぇみたいだけど何かあったのか?」
「ああ……看板娘のバーバラを目当てにしている客が遠退いてるからだよ」
「バーバラを目当てにした客が遠退いている? アイツなら給仕をやってるはずだろ?」
この疑問に、ダルさんは少し言いにくそうな口調で答える。
「う~ん、本来はそうなんだけど……じつは彼女、最近ずっと店を休んでいるんだよ」
「ずっと……って、どれくらい休んでるんだ?」
「え~と、今日でちょうど一週間だね」
「一週間も? あの女が病気や怪我の類で休むとは到底思えねぇぞ?」
「それはボクも同感だ。だからこの間、理由を知りたくて彼女が間借りしてる部屋へ足を伸ばしてみたんだけど……」
「どうだったんだ?」
「留守だったよ。ちなみに近所にも聞いて回ったりもしたけど、それでも何もわからなかったね」
「わ、わからないって……まさか“行方不明”なのか!?」
思わぬ事実を聞かされて困惑するワイマンさん。何だかんだでバーバラさんが心配らしい。
「あの、オレからもいいですか?」
「どうぞ」
ダルさんに促され質問する。
「もしかしてですけど、彼女……誰かに連れ拐われたりとかはないですかね?」
これにはワイマンさんが呆れ気味に反応。
「あのなボウズ。オレ……現役の騎士を一方的に殴り倒す女が、そう簡単に連れ拐われると本気で思うか?」
「……思いません」
「だろ?」
言われてみれば確かにそうだ。それに、彼女はネイさんが黒いフードに拐われた際に一度不覚をとっている学んでいるはずだから油断してそうなるとは考えにくい。
となれば、他にバーバラさんが行方不明になる可能性は……失踪?
いや、それはないだろう。仮にも騎士団団長を務めた程の人間が今の仕事をほっぽり出すような無責任な真似をする訳がない。
考えれば考える程にわからなくなる彼女の行動。だが、肝心の本人がいない状況ではいくら考察しても答えが出ないのは明白なので……
「やめだやめだ! これ以上、いない者について語ってもしゃあねぇよ! それよりもダル。腹減ってんだから注文をいいか?」
「も、もちろん。今日は材料がたくさん余ってるからサービスさせてもらうよ!」
「おう、期待してるぜ!」
早々に話を打ち切って、空腹を満たす選択をするしかなかった。
――――一時間が過ぎた頃。ダルさんの美味しい料理によって満腹になったオレ達は、月明かりに照らされつつ再び騎士団への帰路に着いていた。
「ふぅ、食った食った! どうだボウズ。お前も満足したろ?」
「ハイ。ごちそうになりました!」
「……別に奢ったつもりはないんだが……まぁいいや。ところでよ……」
この瞬間、ワイマンさんの表情が険しくなる。
「赤鬼……バーバラの件をどう思った?」
「行方不明の話ですよね。正直、信じられらないってのが本音です」
「ボウズもそう思うか。まったく、どんな大層な事情があるのかは知らねぇが、人にいらん心配を……ん?」
「どうしました?」
「いや、あそこに立っているヤツは……」
商店街を抜けて人気のない路地に差し掛かった直後、ワイマンさんは視線の先に何かを発見する。
「どうしました?」
続いて彼の視線を追うと、そこには一人の赤髪の女性が腕組みをした状態で建物の壁にもたれかかる姿があった。
「あの人……まさか!?」
女性側もこちらの存在に気づいたらしく、ゆっくりと歩み寄って来て話しかける。
「アンタ達、こんな遅い時間まで呑気に芝居鑑賞だったのかい?」
何と現れたのは、オレ達がつい今まで噂をしていたバーバラさんその人だった!!




