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シルベ=テルミチのチートナシ異世界ライフの物語  作者: なめなめ
第七章 二年前の彼
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城戸 進2

 謎の青い集団から辛くも逃げ延びたオレと春野 香(はるの かおり)の二人は、たまたま近くの森で見つけた物置小屋らしき場所に身を潜めていた。


「……どうやらここは大丈夫そうだな」


 扉の隙間から周囲の安全を確認すると、ようやくその場に腰を下ろして一息をつく。


「ふぅ、まったくどうなってんだろね。え~と……」


 隅で体育座りで震えてる彼女へ話しかけようとして、名前がわからずに困っていると。


「は、春野……香です……」


 こちらの考えを察してか、向こうから名乗ってくれる。


「あ、オレは城戸 進。その……キミが通う渚崎高校の二年生だよ」


 ここはあえて“通う”という言葉を言わせてもらった。


「二年生? じゃあ、私の先輩になるんですか?」

「まあね……といっても、こんな状況で先輩も後輩もない気はするけど」

「あ、いえ、そんなことは……」

「ハハハ、変に気を遣う必要はないよ。それと、春野さんだっけ? オレのことは好きに呼んでくれてかまわないよ」

「あ、それなら普通に城戸さんと呼ばせていただきますね」


 “城戸さん”か……まぁ悪くはない響きだ。


「よし、それじゃ春野さん。お互いに自己紹介が済んだところで、ここからは少し深刻な話になるけど……いいかな?」

「ハ、ハイ!」


 彼女は神妙な顔で返事している。


「いやね。この訳のわからない状況で、どう行動するべきかを考えてたいんだけど……一度この辺り一帯を探索(たんさく)してみないか?」

「探索?」

「まずは“習うより慣れろ”というヤツだよ」

「え? ()()って、そんな使い方でいいんでしたっけ?」

「違ったかな? まぁ別に言葉の意味なんてどうでもいいよ。ここは学校じゃないんだからさ」

「フフフ、それもそうですね」

「だね!」


 こうして今後の方針が決まったことで、オレ達は行動を開始する。


「――――じゃあいくよ、春野さん!」

「ハ、ハイ!」


 慎重に小屋の扉を開け、周囲をじっくり見回す。


「……どうやら問題なさそうだ。春野さんは後ろからついて来て」

「わかりました」


 安全を確認していよいよ小屋の外へ。


「さて、探索を始めるとして……何から調べようか?」

「あれ? もしかして具体的に何も決めてなかったんですか?」

「え、あ……そうそう! まずは現在地から確認しないとね!」

「…………」


 訝しげな目を向けられたが、オレは気づかないフリをしてポケットからスマホを取り出す。


「さ、さぁて、さっそくこの地図アプリで……あれ?」

「どうかしました?」

「おかしいな? アプリに何の反応もないんだ」

「え? なら電話はどうですか?」

「……ダメだ。電波が届いてなくてどうしようもない。キミのは?」

「あ、私はスマホを持ってないんです」

「そうなの? 今時の高校生にしては珍しいね」

「いえ、入学式が終わってからお母さんと一緒に買いにいく予定だったんです」

「そうか……それは残念だ」

「残念?」

「うん。キミみたいな可愛い女の子と電話番号を交換が出来ないことが……って、あくまでもはぐれた場合を想定しての話だからね!」

「ああ確かにこの状況なら、互いの連絡手段は欲しいですよね」

「うん、そうそう欲しいよね!」


 ふぅ、危うく自分の願望を口に出すところだったよ。


「ところで城戸さん。探索の話に戻りますけど、スマホが使えないなら自力で何とかするしかないですよね?」

「あ、ああ……そうなるな」


 ここで一旦手詰まりになって二人で考える。そして……


「提案なんですけど、もう一度あの集落に戻るのはどうでしょうか?」

「それ本気!?」


 オレは声をあげて訊ねた。


「ハイ。今の私達にはどこを調べれば欲しい情報が手に入るのがまるで見当がつきません。ですから可能性が低くても、かつて人が住んでいたと思われる場所を調べてみるのが順当だと思うんです」

「う~ん、言われたらそんな気もするけど……またあの青い服の連中に出くわすかもだよ?」


 正直、そんな危険なことは避けたい。彼女を連れてなら尚更……しかし?


「城戸さんの心配はお察しします。けれど、当てもなくあちこちをさ迷うよりはマシだと思うんです!」

「…………」


 言っていることは理解できるけど……


「ふぅ……やっぱりそれしかないか」

「ありがとうございます!」

「礼なんていいよ。それよりも絶対にオレから離れちゃダメだからね?」

「ハイ!」


 やれやれ、こんな状況なのに良い返事をしてくれる。


「じゃあ、すぐに集落に向かうとして……取り敢えずはコレを渡しておくよ」

「何ですか?」


 彼女に手渡そうとしてのは、先程の小屋で見つけていた刃渡り十センチくらいのナイフだった。


「これって?」

「おそらくは、ちょっとした作業なんかに使っていたヤツだと思うけど?」

「い、いえ、そうじゃなくて! こんな危険なものをどうして私に!?」

「護身用さ」

「え!?」

「さっきも言った通り、この先でまたあの青い集団の連中に出くわさないとも限らない。だから念のために……ね」

「そ、そんな! 私、刃物なんて扱えません!」


 受け取りを固辞されるが、それでもオレは続ける。


「あくまでも念のためだよ。それに、オレとしてはキミが()()を使う前にキミを守るつもりだ」


 ここまで言い聞かせると、彼女はさすがに納得してくれたようで……


「わ、わかりました……それなら城戸さんを信用して……」


 渋々ながらもどうにかナイフを受け取ってくれた。


 ただ、この時のオレは何も考えてなかった。この良かれと思った判断が彼女自身に如何なる結果をもたらしてしまうのか。


 愚かなオレは、本当に何も考えてなかったのだ……

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