オレを知っていたネイさん?
幸い(?)にも一人で暖かい湯船に浸かることができているオレは、先程のネイさんとのやり取りを思い出していた。
『何が“勘弁”よ! まったく、昔はあんなに素直な子だったのに、どうして今になって……』
あの謎めいたセリフを口にした直後、ネイさんは明らかに動揺していた。
それに、『昔はあんなに素直な子だったのに……』という部分は、どう考えても彼女がかなり以前からオレの存在を知っていたことに繋がる……っが、そうなると今度は、あの行き倒れになっていた彼女を救った出会いの方はどうなるというんだ?
考えれば考える程に頭が混乱するなか、やがては「ハッキリさせる必要がある」とする結論に至り、彼女との対峙を決意する……しかし、その肝心の彼女は既に就寝。よって話は明日以降へ持ち越しに。
「ふぅ、やることは決まったから……明日に備えて寝るか」
濡れた髪を適当に乾しながら、ゆっくりと寝室の方へ移動。そして、寝室の扉を開けるて中に入ると、そこには一つしかないベッドにネイさんが寝ていた。
「じゃあオレは床で……ん?」
ここでベッドよく見てみると、彼女は不自然に真ん中よりも端に寄って反対側のスペースを空けて寝ていることに気づく。
「なるほど。あの空いたところに寝ろということか」
好意に甘え、起こさないよう慎重にベッドへ……
「……シルベ?」
しまつた!気づかれた!
「スミマセン、起こしちゃいました?」
「ううん、目を瞑っていただけだから気にしないで」
「……そうですか」
…………二人の間に重い沈黙が流れる。
「……ねぇ?」
「ハイ?」
「浴室でのこと……怒ってる?」
「いえ、特には……」
「そう、だったら……」
「よしましょう、お姉さん」
オレは彼女の話を止めさせて言う。
「……シルベ?」
「今日はもう遅いです。話なら明日でもいいじゃないですか」
オレは彼女にそう伝えると、背中を向けて寝て無理矢理に目を瞑った。
――――翌朝。窓からの陽射しによって目覚ますと、隣に寝ていたはずのネイさんの姿はなかった。
「……朝飯でも用意してるのかな?」
起き抜けの冴えない頭を抱えてテーブルのある部屋へ向かうと、先に起きていたネイさんが三人分の朝食であるスープとパンを用意してる最中だった。
「おはよう、シルベ。」
「おはようございます、お姉さん」
挨拶を交わしてふと彼女の顔を見たら、目の回りには寝不足を表すクマが出来ていた。
「あの、ネイさ……」
彼女の状態を心配して声をかけようとした瞬間、どこからともなくドタドタと騒がしい足音が……
「申し訳ありません! いつの間にか寝てました!!」
謝罪共に勢いよく扉を開けて現れたのは、研究室で眠らされていたゲルトさん。思えばこの人、ずっと放ったらかしにしていたんだった。
「お、おはようゲルト。朝食ならできてるわよ」
しかし、その朝食を取ろうとした時、オレ達はある危機的状況を目の当たりにしてしまう!
「ごめん! そういえばウチ、椅子は二つしかなかったんだった」
思い出したかのように手を合わせて謝るネイさん。その後、少し考えた彼女からはある解決案がなされる。
「えっと、まず一つはお客様のゲルトに使ってもらうとして……」
この時オレは、二人に余計な気を遣わせないよう、自ら椅子を使わないで立ったまま食事すると口を出す。
「お姉さん。オレなら立ったまま食事しても大丈……」
あと少しで大丈夫”と言い切ろうとするよりも早く、ネイさんからは新たな……というよりも、とんちきな提案が続いた!
「シルベ、私達は半分づつお尻を乗せて同じ椅子を使うわよ」
一瞬、意味がわからずに思い切り混乱しかけるが、よくよく考えると二人で一つの椅子を使おうとしていることに気づいた。
「え、え~と……オレは無理に椅子を使わなくても大丈夫なので、お姉さん一人だけで座れば……」
レディファースト的な感じに勧めてみたが?
「何を言ってるのよ! 姉であるアタシが自分だけ座って、弟のアナタにに立ったまま食事させるなんておかしいじゃない!」
いや、二人で一つの椅子を使う方がよっぽどにおかしいだろ。
だがネイさんは、そんな正論にまったく関係なく自分のお尻左半分を椅子に乗せる。
「ほら、シルベも早く! アタシ一人じゃバランスが取りにくいわよ!」
「え、あ、ハイ、ただいま!」
言われてオレも、慌てて自分の右尻半分を椅子に乗せて座る。
「とっとと……ちょ、シルベ! 少し場所を取り過ぎじゃないの?」
「そ、そんな、こっちは間違いなく半分しか乗せてませんよ!」
事実、割れ目は椅子の外にある。
「う~ん、ならこの体勢のままで食事するしかないわね」
「ですね……ちょっと間抜けな感じもしますが……」
本当に間抜けに見えいたのだろう。ゲルトさんからは遠慮がちな申し出が……
「あ、あの、ボクは別に立って食事するのはぜんぜん平気ですので、ここはアナタ方が……」
ただ、この下手に出た言い方がまずかったのか、ネイさんは?
「何を気を遣ってるのゲルト! アナタは我が家のお客様だから胸を張って堂々と座ってなさい!!」
「はぁ……」
激しく一喝して高圧的に椅子へ釘付けにしてしまった。
「うんうん。これでやっと三人揃って食事ができるわね」
“やっと”というか“ついに”というか、こうしてオレ達の朝食はようやく始まりを迎えるのだった……




