愚か
隼殺しのゴルドとの地獄飲み比べも無事に終わり、オレとネイさんは引き続き暴れ馬で楽しい一時を過ごしていた。
「グビグビ……ぷふぁ~!」
景気良く酒を飲み続けるネイさん。先程まで地獄飲み比べで飲んでいたのに大したものだ。別に褒めるつもりはないけど……
っで、その一方。オレはオレで適当に注文した魚料理に舌鼓を打っている。
「モグモグ……うん、ピリ辛のソースが効いてめちゃくちゃに美味いな!」
前に食べたパスタ料理でもそうだったが、ここの料理は本当に美味い! 正直、元の世界に持って帰りたいくらいだ。
元の世界に戻れたらだけど……
そんな不安を料理の味で誤魔化していると、オレ達のテーブルに近づく何者かの姿があった。
「お疲れ、ネイ。さっきの地獄飲み比べ、すごかったわね」
バーバラさんだ。髪を下ろしているところをみると、今日の仕事はあがりみたいだ。
「フフフ、バーバラもお仕事お疲れ様。何か飲む?」
そう言ってネイさんはメニューを渡すが……
「ううん、大丈夫。だって、私の分は……って、ほら」
気づくと彼女の背後からは、飲み物といくつかの料理が乗ったトレイを運ぶダルさんが。
「部分的、二人共お疲れ。あ、もちろんテルミチくんもね」
彼はオレを含んだ三人を労いつつ、落ち着いた手つきで飲み物と料理をテーブルに置いていく。
「あれ? 料理は私が頼んだよりも多いみたいだけど?」
「ああ、それは優秀な従業員に対しての心ばかりの賞与さ。あと、テルミチくんに手伝ってもらった時のお礼も兼ねてるよ」
ダルさん何気ない気遣いを見せてそう告げると、テーブルを離れてカウンターの奥へ消えていく。
「――――ところでだけど……ネイ、テルミチ。アンタ達、本当に真っ当な手段でここに来たんでしょうね?」
「「え!!」」
目の前の料理を口に運びながらオレ達を見据えるバーバラさん。どうやら疑っているらしい。
「あ、あのねバーバラ。店に入る前にも言ったけど、私とシルベはちゃんと正規の手続き経てこの場に……」
「だとしてもおかしいわね? なんの護衛もつけずにアナタ達二人だけを……しかも、こんな時間にこんな不特定多数の人間が集う場所へ来させるなんて……ねぇ?」
「あ、ああ……」
尋問を受けてタジタジになるネイさん。なのでここは、オレが口を挟む。
「待ってくださいバーバラさん。オレ達は本当にアナタから教えられた通り、三人の騎士から許可をもらっているんです! ですから……」
「許可に関しては別に疑ってないわ。私が不審に思ってるのは、何故アナタ達だけでこんな場所にいるのかよ」
「あ、ああ……」
オレもネイさんと同様にタジタジにされたところへ……
「その反応……やっぱり何か隠してるわね?」
「ギクッ!」
ダメだ! このまま追及され続けられては、とてもじゃないが……!
オレ達はこれ以上の隠匿は無駄だと悟り、仕方なくこれまでのあらましを全て白状する。
「――――呆れたぁ! アンタ達、それって誰がどう見ても騎士団に対する裏切り行為じゃないの!!」
「も、申し訳ありません……」
「ご、ごめんなさい……」
烈火の如く叱るバーバラさんに対し、オレとネイさんは床に正座して反省の言葉を口にする。
「まったくもう、外出する方法を教えた私にも落ち度はあるけど……どうしてそんな無茶なことを?」
「ハ、ハハハ……どうしてだろうね?」
「笑い事じゃない!!」
「ご、ごめん……!」
迫力に圧倒され、ネイさんは瞬時に謝る。
「あとね……」
「えっ、まだ何かあるの!?」
ネイさんはうんざりした表情で顔を上げる。
「すぐに家へ帰りなさい。そして、ゲルトを叩き起こしてから騎士団へ戻りな!」
「え! でもアタシ、まだぜんぜん飲み足りてなくて……」
「何が“飲み足りてなくて”よ! だいたい、アンタは自分の立場を蔑ろにした挙げ句にここにいるんでしょうが!!」
「うっ、それを言われると……ごめん」
親友からのこれでもかという正論と指摘と叱責に、ネイさんただひたすらに項垂れる。
「――――さて、次はテルミチだけど……」
「へっ?」
「“へっ?”じゃないわよ。言っておくけど、今回の件はアンタにも責任はあるからね!」
「せ、責任?」
「アンタはネイの弟でしょ! だったら、どうして姉の愚行を止めなかったの!?」
「あっ!」
「わかっていたはずよね? ネイの立場……彼女が黒いフードから狙われている立場であることを!!」
「!?」
そうだった。オレはどこでそれを失念していた!
「もし何かあったら、一体どうするつもりだった? また、何事もなく戻って来てくれるとでも考えていたの?」
「い、いえ……そ、そんなことは決して……」
くそっ、恥ずかしさと悔しさで全身がワナワナと震えてくる!
「ふぅ……とにかく、今日は二人共帰りなさい。これ以上はここにいても楽しめないでしょ?」
バーバラさんの言う通りだ。もはやぜんぜん楽しめる気分にはなれない。
「……わかりました。帰ります」
よって自らの意思を簡潔に告げると、ネイさんの手を引いてさっさと店を立ち去ろうとする。
「帰りますよ、お姉さん!」
「え、シルベ……?」
「帰りますよ!」
まるで八つ当たりでもするみたいに語気を荒げる姿は、あまりにも滑稽……だが、そんな滑稽な姿こそが今のオレには最も似合いの姿だったと自覚する。
そう……自覚しているのだ。自分の愚かしさを自覚してなかった自分自身の愚かしさを……だ!




