騎士団団長 ポール=グリドマン
「なるほど。黒いフードがネイ殿を……っで、こちらの少年は?」
モヒデブ……もとい、ネイさんが拐われた経緯を聞き終えた後、騎士団団長であるポールさんがオレへ視線を移す。
「ああ、紹介がまだだったわね。この子は……」
オレはバーバラさんに促される前に、自ら前に出て開口する。
「導 輝道です。その……一応でありますが、ネイさんの弟をやっています」
嘘はついてない。たぶん……
「おお! これはご挨拶を遅れて申し訳ないブゥ。我輩は騎士団団長のポール=グリドマンで……お、弟!? ネイ殿の弟君ですと!?」
「驚いたでしょ? 私も似たような反応をしたから、気持ちはわかるわ」
ついでにいうなら、この状況に慣れ始めたオレ自身も驚いていますけど?
「――――それでポール。ネイのことなんだけど……」
「そ、そうでしたブゥ。オイ、そこの者! 今の話は聞いていたなブゥ!?」
ポールさんは受付に立つ男へ向かって大声で呼びかける。
「ハッ! しかとこの耳で聞いておりました!」
間髪を入れずに返事をする男。どうやら、盗み聞きをしていたらしい。
「よし! では、速やかに皆へ黒いフードに関する調査を行うよう通達するブゥ!」
「ハッ!」
「それと、ネイ殿を拐った者達が潜伏してそうな場所の捜索も忘れるなブゥ!!」
「りょ、了解です!!」
指示を受けてどこかへ走り去る男を見届けた後、オレは二人が度々口にしていた例のアレについて訊ねる。
「ポールさん。ちょっといいですか?」
「ん、如何なされましたかな弟殿ブゥ?」
弟殿って……まぁ、そこはいいや。
「黒いフードとは、一体何者なんですか?」
ネイさんを拐ったヤツ等だ。さすがに詳細くらいは知っておきたい。
「ふむ。黒いフードは言うなれば、窃盗団にあたる存在になりますなブゥ」
「窃盗団?」
「左様。常にあるものに関連したものを狙い続けていますブゥ」
「あるものとは?」
「残念ながら、それについては教えられませんブゥ。ですが、ヤツ等が決して野放しにはしておけない連中であることは確実ですブゥ!!」
ポールさんはさらに続ける。
「ヤツ等の存在が本格的に確認されたのは約一年前くらい前。突如このレナトスの街で暗躍を始めたのがキッカケになりますブゥ」
「暗躍? ということは、例のあるものに関連するものが……」
「左様ですブゥ。しかもその手段は非常に大胆で狡猾……正直、我々としては手を妬いているのが現状ですブゥ」
「なるほど……それはさぞや悔しい思いをしてますね」
「ええ。ですから騎士団としては何としてもその屈辱を晴らすべく、日々試行錯誤を続けている訳になるのですブゥ!!」
こう熱い執念を語られる一方、オレには一つ気になることがあった。
「窃盗以外……人的な被害はあったりしたんですか?」
当然、それなりの数はあるはずだろうと質問をしてみたが?
「いえ。それについてはまったくありませんでしたブゥ」
「え? まったく……一人もですか?」
「ハイ」
ポールさんは頷く。
「じゃ、じゃあ……もしかしてネイさんが拐われたのが……」
「初めての人的被害になりますブゥ」
「バ、バカな!」
オレはあまりの腹立たしさ我慢できず、目の前にあった壁を殴りつける!
「くそっ、何だよ! 何でその初めてが、よりによってネイさんなんだよ!!」
再度壁を殴りつける!
「くそ!くそ!くそ……!」
何度も何度も殴りつける……こんなことをやっても、何一つ解決しないとわかっているのに何度も……
やがて、殴り続けた拳に血が滲みだした頃。
「そこまです弟殿……姉君を想い、憤るお気持ちは察します。ですが、ヤケはいけませんブゥ」
自暴自棄になったオレを宥めるポールさんは、傷ついた拳に包帯を巻く。
「ス、スミマセン。だけど……だけどオレは、ネイさんが……」
「朝飯は食べましたかなぁブゥ?」
「え、朝飯? それは……まだですけど……」
この人、急に何を言って……?
「じつは我輩もまだなのですブゥ。どうですか? 騎士団の食堂で御一緒にいただきませんかブゥ?」
「いや、オレは別に腹なんて……」
こんな状況で呑気に飯を食うだと?
場違いな気遣いが煩わしくて、適当な言い訳をして断ろうとするが……
「弟殿!!」
「!?」
突然の大声に、オレは肩をビクつかせる!
「いいですか弟殿? 飯は力の源。そして、力は大切な人を助けるための“活力”にもなり得る……違いますかブゥ?」
「…………」
「ですから、今のアナタがやるべきことは腹一杯に飯を食べて、ネイ殿を救うために必要な活力を存分に溜めておくことですブゥ」
「ポール……さん」
彼の助言を受け、オレはようやく冷静さを取り戻す。
「あの、ポールさん?」
「何でしょうかブゥ?」
「今日の朝食メニューは、どのようなものが?」
「ほぅ、なかなか話せますな弟殿」
ポールさんはニコリと笑顔を見せて言う。
「今日のメニューはシェフ自慢のポテトサンドと人参スープになりますブゥ」
「へぇ、それは楽しみですね!」
腹一杯に食べて、大切な人を助けるための活力にするか……言っていることは少し極端だが、まさにその通りだ。
そして、その通りだからこそ、オレは飯を食べなければいけない! ネイさんを救うためにも!!




