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シルベ=テルミチのチートナシ異世界ライフの物語  作者: なめなめ
第三章 レナトスの街
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大男とお茶

 気がつくとオレは見知らぬベッドで寝ていた。


「ここは……イタタ……」


 痛む体を何とか起こして最初に目に入ったのは背負っていたリュック。そして、辺りを見回すとここがどこかの部屋だということがわかる。


「ん、あれは?」


 部屋の片隅に置いてあるいくつもの大小の箱。それにその隣に放置されてるガラクタみたいなものは……もしかして物置小屋か?


 取り敢えずはちゃんと状況を確認したいので、ベッドから起きて部屋の中を探ってみる。


「え~と、この箱には何が入っているのかな?」


 適当にあった箱の中を覗くと、破れた服や穴の空いたズボン、ツバが取れかかった帽子などがあるだけ。


「何だこれ? どれもこれもボロボロだけど……雑巾(ぞうきん)でも作るつもりか?」


 とにかく、一見すると価値のないものばかりなので次の箱へ……


「起きて早々に人ん家を物色か?」

「どぅわわわ!?」


 背後からの急なドス声に慌てて振り向くと、そこには見覚えがある大男がお盆にティーセットを乗せた状態で立っていた。


「……まぁ何をやっとたかは知らんが、一応は大丈夫みたいやな」

「え? 大丈夫って……」


 オレは大男に訊いた。


「覚えてへんのか? あんちゃんはワシとおかしなやり取りをしとる時に倒れたんやで?」

「オレが倒れた?」


 吹き飛ばされた記憶は、うっすらと残ってるが……


「コラ、何が急に倒れたよ! あなたがシルベを吹き飛ばしたのが原因でしょ!? ちゃんと謝りなさい!」

「あ、こ、これはネイはん。ワシはただ……」

「ただでも有料でも、ちゃんと謝りなさい!!」

「うう……すまんやった、あんちゃん」


 そう言って大男は大きな身体を無理矢理に縮込ませて謝罪する……って、今の声は?


「シルベ、大丈夫だった? 心配してたんだよ」

「心配って、ネイさ……お姉さん!?」


 どうやら大男の体つきがブラインドになっていたせいで、彼女の姿が隠れていたようだ。


「まったく、急にいなくなったと思ったら、いつの間にかこの子と注目の的になっていたからびっくりしたわ」

「あの、ひとまず“注目の的”と“びっくり”はおいて……“この子”とは誰のことです?」

「え? それなら、あなたの目の前にいる人だけど?」

「目の前……」


 でも、言われた目の前にいるのは、悪人面をした大男がいるだけ。


「あの……まさか、()()が……子?」


 オレは改めて大男を見上げる。


「コ、コレとは失礼やな。ワシはこう見えても、モニカ劇団では花形(はながた)の役者を務めてるんやで!」

「役者?」


 そんなものをやってるとは、本当なら人は見かけによらないものだ。


「せやて! 何せワシは……」

「ハイ、そこまで! シルベが目が覚めたことだし、そろそろお(いとま)するわ」


 そう言って、ネイさんはオレの手を引っ張るが?


「ちょい待ってぇな、ネイはん。せっかく茶の用意もしてるんやさかい、少しくらいはゆっくりしていきぃや」


 大男はそう話しながら持っていたティーセットを使って器用に茶を煎れ始める。


「う~ん、それもそうね。ちなみに、お茶菓子は何?」

「ナッツのクッキーや。さっき焼いたばかりやで!」


 クッキーとは……意外に器用なんだなこの男。


「……決まりね。じゃあシルベ、遠慮なくいただきましょ♪」


 ――――ポリポリ……ズズ……静かな部屋にクッキーを(かじ)る音と茶を(すす)音が聞こえるなか、オレは二人の仲について訊ねてみた。


「あの、二人はけっこう親しくしてますが、どういった関係なんですか?」


 まさか恋人同士ではないと思うけど……


「ん、ワシとネイはんの関係か? 教え子と先生の関係やで」

「教え子と先生?」

「あ、ちなみにアタシが先生ね。この子には読み書きと簡単な計算を教えていたの」

「へぇ、ネイさんは学校の先生だったんですか?」

()()()? それはよくわからないど、錬金術の研究費を稼ぐために時々そんなことをやってるわね」


 要は塾の講師みたいなものか。


「ポリポリ……ところでアタシからもちょっと訊きたいんだけど、最近街で変わったことはなかった?」


 クッキーを噛るネイさんは大男へ切り出す。


「変わったことやて? 例えば?」

「そうね、例えば“いきなり、人が現れた”とか?」


 これは……さっそく例の情報収集だな。そう考えて大男の返答を待ち望むが?


「いきなり現れた……あ、そやったら!」

「もしかして心当たりがあるの!?」


 ネイさんが話に食いつく! もちろんオレも!


「じつはこの間、酒屋のガストンはんに新しい隠し子が現れて……」

「え!? ガストンって、また他所で子供を作って……いえ、もういいわ。ありがと」


 これは違うと、ネイさんは話を簡単に打ち切る。けど、ガストンさんの隠し子問題はともかく、大男が何も知らないのは確かみたいだ。


 でも、それなら……


「お姉さん? この街で人が集まるところはありますか? その……酒場みたいな場所とか?」

「酒場? シルベは、お酒が飲みたいの?」

「いやいやいや、そんな訳ないでしょ!」


 興味はあるが、あいにくオレは未成年だ。


「情報を集めるなら、人が集まるところでやるのが適切ではないかと思ったんですよ」


 ちなみにこのアイデアは、ゲームや漫画で学んだ知識。


「なるほど酒場かぁ。確かにあそこなら人が集まるわね……けど、まだ陽が高いからそんなに人はいないかもよ?」

「では、陽が沈んでからの夜に出向いては?」

「それもそうか。だったら、それまで街の観光でもしてみない?」

「観光? そんなことをしてていいんですか?」

「いいに決まってるじゃない。時間はたっぷりあるんだしさ♪」

「そ、そいうことでしたら……」


 こうしてオレとネイさんは、二人仲良くレナトスの街を巡るブラリ旅へ出発することになったのだった。

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