大男
ネイさんと共に訪れたレナトスの街。オレはそこで目にした圧倒的な光景に驚愕していた!
「す、すごいな、これは……」
軽く見回すだけでも確認できる舗装された石畳の地面の上を縦横無尽に行き交う多種多様な人々。
周囲の建造物は木材はおろか、石や煉瓦といった様々な材料を用いて造られた中世のヨーロッパを彷彿させる重厚な佇まい。
また道行く通りには幾つもの商店や露天が立ち並んで、そのどれもが客達によって賑わいをう見せていた。
「どう、シルベ? レナトスの街の感想は?」
「いやはや……すごいですね、ホント……」
「でしょ? 何せ総人口が五〇万人を越えてるからね」
「さ、五〇万!?」
それって、もはやちょっとした都市レベルじゃないか!
「さぁ、情報収集をする前に……まずは腹ごしらえをしましょか?」
「腹……そういえば、もうお昼でしたね」
ネイさんの提案に従い、オレ達はどこか食事が出来そうな場所を探し始める。
「――――そういえば、お姉さん……あれ?」
ほんの数秒間、目を離した時だった。オレは不覚にも一緒に歩いていた彼女の姿を見失ってしまった!
「ま、まずいぞ……まさか、こんな勝手も常識もわからない場所ではぐれるなんて!」
焦って辺りを見回していると、突然背中の方に強い衝撃が襲ってきた!
「邪魔や、あんちゃん!」
どうやら誰かにぶつかったらしい。そう思ってすぐに振り向くと、そこには身長二メートルをえる褐色のスキンヘッドの大男が立っていた!
「で、でかい!!」
いや、でかいだけじゃない! お手本のような強面の左側には目の上から頬にかけて大きな傷があり、さらに両耳には凶悪さを演出する髑髏のピアスをつけている!
「怖っ!超怖っ!」
まさに危険人物にしか見えない相手に怯えていると、向こうは冷静な口調で話しかけてくる。
「なぁ、あんちゃん。人にぶつかって、まず何か言うことがあるやろ?」
た、確かに、こんな時に言うべきセリフはある!
「お、お金なら持ってないです! か、勘弁してください!」
それは考えに考え抜いた末のベストな答えだった……っが?
「アホか!金なんかいらんわ! ワシは“謝れ”って言うとるんや!!」
「ア、ヤ、マ、ル?」
いかん! 答えの選択を間違えたか? しかも、相手が怖過ぎて言葉が片言になってしまっている!
「何やその反応は? 謝り方を知らんのか?」
「ア、ヤ、マ、リ、カ、タ?」
ダメだ! 片言喋りが一向に直らない!
「……あんちゃん。もしかして本当に謝り方を知らんのか?」
「シシシ、シッ、テ」
「知ってる」と言いたいのに、言葉が上手く発せられない!
「ふぅ……あのな、あんちゃん? こうゆう時は誠意を込めながら頭を下げて、ゴメンナサイって言うもんやで?」
大男は本当にオレが謝り方を知らないと思っているのか、妙なレクチャーまでやり始める。
「ええか? こうやってゴメンナサイ……ってぇーーー!! なんでワシが頭下げて謝らんといかんのや!!」
だが、大男は途中で己の行動に違和感を感じたか、勝手にボケて自分に突っ込みを入れてる!
「あ、あの、何だかわかりませんが、金なら本当に持ってないんです……」
「だーかーら! 金はいらんから“謝れ!”と言うとるんや!!」
「あ、謝れと言われても……」
どうする? この手の人間は一体どうすれば納得するというんだ?
「せやからな! こうして頭を下げて、誠意を込めてゴメンナサイ……って、何度もやらすなぁーーーー!!」
大男は飽きもせず、またもや自分に向かって突っ込む。
そして、そんな珍問答的な行動を繰り返しているとやがて……チャリーン!
「ん、足元に見慣れないコインが?」
オレは訳もわからずに咄嗟にそれを拾った。
「何や、あんちゃん? 人が話しとる時に金なんか拾うて?」
大男が不愉快そうに言っていると……チャリーン! チャリーン!
「なんや? ワシんトコにも転がってきおったで?」
チャリーン! チャリーン! チャリーン! チャリーン! チャリーン! チャリーン……
「な、なんや!? ぎょーさん金が転がって……オイ、あんちゃん! そっちに行ったで!」
チャリーン! チャリーン!
「え、ハイ? あ、そっちにも行きましたよ!」
足元を見るとコイン、コイン、コイン……いや、たくさんの硬貨が転がる!
「あ、あんちゃん! とにかく拾えるだけ拾とけ!」
そう言ってる大男は、既に自分が脱いだ服を風呂敷代わりにして器用に硬貨を集めている。
チャリーン! チャリーン!
だからオレも負けじと、学ランを風呂敷代わりにしてどんどん拾う。そしてついには……
何だ? 今度は目の前にヒラヒラとしたものが……って、お札かコレ!?
「一体どういうことなんだ?」
「一体どないなっとるんや?」
オレと大男が同じタイミングで言葉を発したその時だった!
パチパチパチパチパチ…………!!
聞こえるたくさんの拍手。一体誰が何に対して送ってるのかと見回すと……
「お前ら、おもしろかったぞー!」
「ワハハハハ!」
「サイコーだよ! キミ達!」
「明日もここでやってくれるのかー!?」
何と拍手はオレと大男を中心にする、たくさんの人々から送られたものだった!!
「こ、これって、もしや……」
どうやらこの拍手、オレと大男の一連のやり取りが漫才か何かと勘違いされたのが原因らしい。
チャリーン!
となると、この金は……おひねりか!?
「なぁ、あんちゃん……これは……」
大男の方も、何となくこの状況を把握したようで。
「ええ、たぶんオレもあなたと同じことを考えてると思いますよ」
相手の考えをわかり合う。これぞまさに以心伝心としか言い様がない。
「なぁ、あんちゃん……」
「大男さん……」
「……って誰が大男やねーーーーーーん!!!」
三度目の正直だろうか? 今度の突っ込みは大男自身ではなくオレに放たれた!
「ぐぎゃ!」
その威力はプロレスラーの逆水平チョップとでもいうべきくらいに凄まじいもので、受けたオレはおかしなうめき声と共に吹き飛ぶされる!
「スマーン! あんちゃーん!!」
薄れゆく意識の中で聞こえる大男の悲痛な叫びは彼の後悔と反省が入り交じって――――って、あれ? 川の向こうで手を振っているのは、去年亡くなったおばあちゃん?




