14.あちらに見えますのが
お越しくださりありがとうございます。
今日も、
行ってらっしゃい。
お疲れ様です。
お帰りなさい。
おやすみなさい。
ほのぼののんびり悪役令嬢(仮)生活始まります。
朝食が終わり、レンと庭を散歩することにしました。
目覚めてから初のお屋敷の外です。
絨毯とは違う硬い石畳の感触、踏んだら草の香りがふわっと漂う芝生、何もかも心が浮き立ちます。氷の女王のミュージカルアニメで、妹さんが外に出て歌い踊り出したくなった気持ちがよく分かります。
「まだ外は寒いからね。これ着て」
私の隣にはすでに王子様もいますしね。なんだか物語の中のお姫様になった気分です。
でも、正直暑いです。
少し外へ出るだけで心配したお母様と使用人たちにより、すでに着ぶくれした状態でした。今転んでもはねて起き上がれる気がします。
「ありがとうレン」
しかし私はできる令嬢なのです。殿方の行為をむやみに拒絶したりしませんわ。
暑いですけど。
「でも、セリーヌが風邪を引いた方が、まだ一緒にいられるかな。セリーヌが風邪をひいたら離れないで看病してあげられるのに……」
何やらぶつぶつ言い始めた言葉が少々怖いです。
私の婚約者様ヤンデレ枠?
……、……、……、……。
「お屋敷を外から見ますと大きいですわねー!」
レンのつぶやきは聞かなかったことにしますわ。
屋敷はエントランスを中心として、左右対称に建てられていました。
ロココ様式? ゴシック様式? 某千葉県テーマパーク式? よく分かりません。
全体的にオフホワイト調でまとめられていますが、区画によっては薄水色の壁や飾りタイルが使用され、どことなく南国の雰囲気が漂い、バカンスに来た気分です。
そういえばこのマクライン領は、南に位置するブレジール王国の中でも、特に温かい地域に位置しているんでしたっけ。風に乗ってかすかに海の香りがするのも南国っぽいです。
観光業など発展していそうですね。今度聞いてみましょう。
それにしても、窓どれだけあるんでしょう。温かい地域らしく、寒さ対策を気にすることなく、上がアーチ状になった大きな窓がいくつも並んでいます。奥にも建物は続いていますし、従業員や騎士の宿舎も入れると膨大な部屋が存在します。
まだ自分の部屋、食堂、図書室くらいしか行っていません。一生住んでも知らない部屋がありそうです。
もしかすると、ファンタジー小説の定番の、異空間に繋がっていたり、祖先が作った秘密の部屋などがあったりするのではないでしょうか?
是非、一度探検したいものですわ。
そんなことをついポロっと言ってしまったら、
「じゃあ僕と探検する? 実は子供の頃セリーヌと見つけた秘密の部屋があるんだよ」
「そんな部屋がありますの? 興味深いですわ。どんな部屋ですの?」
「体調が良くなったら行ってみようか。じゃあ父上に滞在を延長する旨の手紙を書かなくてはね」
そこに結びつくのですね。
先ほど庭へ出る際、誰にも聞こえないようお母様から耳打ちされました。
「セリーヌ、タレンツィオ君が残ると言っても承諾してはいけませんよ。将来公爵家の嫁になるからには、きちんと夫を管理できるところを向こうのご両親に見せなければ。分かりましたね」
正直、記憶の無い私にはその重要性がいまいち分からないのですが、記憶が戻ったセリーヌが困らないよう、今のセリーヌ頑張ることにいたします。
「レン、いえラジヴィオラ公爵子息。将来のお父様に私ができない嫁だと思われないためにも、今はお互い我慢しましょう」
『お互い』を強調して言います。あなただけではありませんよ~。私も寂しいですよ~。
「セリーヌーー!」
サラ=アンいつも支えてくれてありがとう。
でもあなた、どこに控えていたの?
エントランスの前には、馬車が2台すれ違っても余裕ある大きな道が門までまっすぐに延びています。
門が遠いですわ~。
庭は思ったよりもシンプルで、芝生が敷き詰めてある広い敷地が広がっていました。
私の部屋から見える庭は草花の苗がおいしげり、その先にはプライベートビーチに繋がっている階段がありましたのに。
「正面は随分シンプルですのね」
「正面は有事の際に領民の避難場所になるからね。あとガーデンパーティをする際にも使用するし。裏が海のこの屋敷だと、正面からしか襲ってこられない。そんな時に兵を配置するにもこの空間は必要なんだ」
正面は機能的に。裏は生活に適した環境に。
なるほど、理に適っていますわね。
私たちは温室に向かっていました。裏庭からも屋敷の中からも温室へ行くことはできるのですが、私が屋敷を正面から見たいとレンにお願いし正面から行っています。
屋敷の両端にドーム状の建物があり、屋敷に向かって左にあるのが図書室で、右が温室です。ちなみに奥にもう一つ1番大きなドーム状の建物があり、ダンスホールとなります。
温室は、ガラスの壁を白い木枠で繋げた鳥籠のような形をしていました。
温室の扉を開くと、南国らしい大きく艶やかな花が咲き乱れ、モアっとした湿気の孕んだ空気と甘い香りが、これでもかと自己主張しながら襲いかかってきます。
わざと雑然としながらも計算された配置は、どこから見ても楽しめます。
足元には小川が流れ、金魚のような小魚が泳いでいました。
「素敵」
心からの感嘆のため息が漏れます。
中央は円形に小川で区切られていて、四方の小橋から行けるようになっています。
そこには二人掛けのラタンチェアと、マホガニーのテーブルがありました。周りの自然に良く溶け込んでいます。
テーブルの上にはお茶とお菓子がすでに用意されていました。
レンはラタンチェアに私を座らせ、当然私の横に腰掛けました。
「僕が紅茶を入れるよ」
レンは手慣れた手つきで、炎魔法石の上で沸騰しているお湯をポットに注ぎ、一度捨てました。そこにまたお湯を注ぐと、ティーコジーを被せ、砂時計をひっくり返しました。
なるほど、炎魔法石がコンロの役目をしているのですね。とても便利です。
ちなみに魔法石は、使用していない時は書かれている魔法陣の一部が消えており、使用する時にその部分を描き足すそうです。
「魔法陣の効果を止める時はこうするんだよ」
レンは炎魔法石の一部を、チョークの後ろに付いている布のような物でこすって消しました。
「使う時に描き足して、使い終わったら消す。簡単でしょう」
なるほど。魔法陣がスイッチの役割もしているのですね。
そういえば、使用人さん達、皆さんボールペンのような物をポケットに差していました。この世界でもポケットにボールペンあるのねと感心していましたが、あれは魔法陣用チョークだったのですね。
そうこうするうちに、砂時計の最後の砂が下に落ち切りました。
レンがおのずから紅茶を注いでくれます。
「とても美味しいわ、レン」
レンは驚いた顔をすると、飛び切り甘い笑顔になりました。
「いつもセリーヌは僕が入れた紅茶を飲むたびに『とても美味しいわ、レン』って必ず最初に言うんだ」
レンは自分も紅茶を口にしました。
「これからもセリーヌの為だけに紅茶を入れるから、ずっと「とても美味しいわ、レン」って言ってね」
私は俯いてうなづくことしかできませんでした。
レンはそんな私の髪を愛おし気に一房掬ってキスを落としました。
照れくさくはありますが、昨日よりは落ち着いて受け入れられている自分がいます。
きっと私の覚えていない以前のセリーヌも、よく髪にキスしてもらっていたのですわね。
もやっ。
ん?
なんだか胸の奥がモヤモヤします。
朝ごはん食べ過ぎてしまったのかもしれません。
お読みくださりありがとうございます。
お気に召してくださいましたら、評価お願いいたします。
昨日削った歯がまだ痛いです。
正露丸を歯に詰めると痛みが治まるって本当でしょうか。




