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奇妙なお茶会

「そこにいるのですよね?」


 世にも奇妙な女性が見えない(幸運な)ジエネッタは不思議そうにアンバーに聞いた。


「いる。あ!今、欠伸した」

「私には透き通っている女性らしき人……くらいにしか見えない。でも居るのは分かるし声も聞こえる」


 くいっとデイブは眼鏡を上げた。どうもデイブの癖のようだ。


 アンバーは食堂のテラスでジエネッタとデイブと世にも奇妙な女性と四人でお茶をしている……まぁ側から見たら三人にしか見えないだろうけど。


「それで魅了の力だけど……まぁ凄いわ」


 アンバーは家で起きている出来事を包み隠さずに話した。

 因みにオブリンは今日も学園には来てないようだ。落第とかしないといいが。


「最後は部屋が歓喜に包まれてたわ、悪者の私は居た堪れなかったわよ」

「それが魅了の力よ!……でもおかしいわね、エルノーラならもっと影響力があるはずですのに」

「あれで影響が少ないですって」

「だってまだ正気ですもの。あのときは誰もがエルノーラの言いなりでしたわよ」

「言いなりですよ、うちの使用人達だって。善はエルノーラで悪は私みたいな雰囲気になってますもん」


 今の伯爵邸を回想する。オブリンには空気のような扱いを受け(仮にも婚約者なのに)父には邪魔者っぽい扱いを受けた。

 

「えっ、ドゥリー伯爵家そんな状況になってるの?」


 ジエネッタは訝しげな顔で、さっきから落ち着きがない。どうもホラー系は苦手ならしく、世にも奇妙な女性を警戒しているようだ。


「ワインを溢した、足をかけた、罵った?冤罪でもっか怯えられたり、軽蔑する視線を使用人達から投げかけられてるわ」

「冤罪……なのか?」

「ソコ疑いますか、デイブ様結構疑い深いのですね。神に違って冤罪です!そんな卑怯な真似しませんよ。いくら何でも、子供でもあるまいし」

「ふふふ、まだ、かわいらしいわね」

「どこがですか?冤罪かけられる身になってくださいよ……ただ、伯爵家に居る人達の考え方の歪み?洗脳されてるような違和感を感じますね」

「歪みや洗脳か、魅了の力とはそのような効果があるのか……恐ろしいな、それは」

 

 デイブが眼鏡をくいっと上げて、何かを考えているようだ。

 

「そうですわね、言いなりになるって洗脳されているのと、同じような状態なのかもしれませんわね」


 世にも奇妙な女性の優雅な所作。


 アンバーは公爵令嬢のソコロの所作ほど優雅な人はいないと、密かにソコロを尊敬しているのだが、世にも奇妙な女性、負けていない。それどころか、ソコロ以上かもしれない。他の人に見せられないのは非常に残念。


「ですが、まだまだですわ。もっと洗脳されていきますわよ」

「まだまだ……って恐ろしいこと言わないでくださいよ!今でも手一杯なんですから」

「だってアンバーを殺しなさいとエルノーラが命令しても、今のエルノーラの命令では誰も実行しないしでしょう?でもあのときは一言エルノーラが命令すれば、喜んで殺してまたわよ」


 ふふふっと笑って扇をふわりと仰ぐ、優雅な世にも奇妙な女性。


 アンバーもデイブも絶句。喜んで殺してたって恐るべし魅了の力。アンバーはつい手で自分の首を触る。まるで首がついているのを、確認するかのように。


 ジエネッタだけが一人ぽかんとしていた。


「ちょっと、何の話をしてるの?全く分からないんだけど」


 そりゃそうだ、ジエネッタからしたらアンバーが独り言を言っているようにしか見えないのだから。たまにアンバーの言葉にジエネッタやデイブが加わるくらいでアンバーほぼ独白状態。……周りからみたら。


「ごめん、手短に説明する」

  

 アンバーは早口で説明しだした。


 そんなとき、庭園に王太子が現れた。ジョイを伴って。


「あら、あの娘……あの娘はどれくらいの力があるかしらね。ふふ」

「ジョイ嬢も魅了の力があるというのか!」


 デイブはつい大声をだすが直ぐにはっと我に返り「すまん」と襟を正した。

 

「ふふ、魅了使いよ、あの娘。どのくらいの力を持ってるかは、わたくしには分からないけど」

「それじゃぁ命令一つで殺し……」

「可能性はあるわね。ふふ」

 

 デイブは絶句すると黙り込み、猛スピードで頭を働かせている様子で目が右へ左へと泳いでいる。


「一緒にいる男性は王太子なのよ」


 アンバーの言葉に、世にも奇妙な女性は小さい声でまぁ……と言ったきり黙り込んだ。


 四人(側からは三人)もいるのに沈黙が降り、誰もが王太子とジョイを見ている。  


 そこへ、ぴんと背筋を伸ばし美しく歩く女性が、王太子へ近づいて行くのが見えた。


「あっ……ソコロ様だわ」 


 ソコロ至上主義ジエネッタは嬉しそうだ。アンバーもソコロファンだが、ジエネッタには敵わない。


 王太子とソコロはどうも言い争って揉めているようで、珍しく王太子が興奮し、声を荒げている。話しの内容はここまでは届かない。

 ジョイは王太子の背中に隠れるようにして、体をぷるぷると震えさせている。


「やだ、同じ匂いを感じるわ。もしかしてジョイ嬢ってあざといタイプかしら」


 数日間、嫌と言うほど見せられた、エルノーラのあざとさを思い出す。

 そっくりだわとアンバーはジョイから目が離せないでいる。


「くすっ。あざとさもあの娘よりエルノーラのが上手いわね」


「そう言えば妙な噂があるのよね。ソコロ様がジョイ嬢を虐めていると、ソコロ様に限ってあり得ないのに」


 ジエネッタが言い争う二人を心配そうに見つめ、ハラハラとしているのが伝わってくる。


「えっ、ソコロ嬢が虐めを?それはないだろう。ソコロ嬢の性格からして。具体的にはどのような噂なんだ」


 デイブは目を細めて王太子とソコロを見ている。


 ……アンバーのことは虐めを疑ったのに、ソコロは即信じるなんてデイブ酷いわとアンバー、ちょっとやさぐれる。


「物を隠された、壊された、お茶会に呼ばないになんだっけ?あ、池に突き落とされた――下世話すぎて、話す気にもならなかったけど」

「幼稚な虐めだな。ソコロ嬢は公爵令嬢だぞ、嫌がらせするなら、もっと効果的な方法が幾らでもできるし、ソコロ嬢が直接手を下す必要もないだろ。目撃者はいるのか?」

「さぁそこまでは、私の耳にも聴こえてこないけど、王太子以下側近達がジョイの言葉を鵜呑みにして、ソコロ様の虐めを信じているらしいのよね」


 魅了の力を持つ人って思考能力まで似ているのかしら?と、アンバーは溜め息を吐いた。ソコロとアンバーが疑われた虐めは内容こそ違えど、その幼稚さといいセコさといい、同一水準の匂いがする。


 そして伯爵邸でも学園でも魅了持ちの人の言葉を鵜呑みですか。『願えば叶えなくてはならない』発動中ですね。厄介すぎる。

 ジエネッタとデイブのテンポのいい会話を耳にしながら庭園の三人へアンバーが視線を移したそのときだった。

 王太子は激昂し、突然ソコロの頬を叩いた。その勢いでソコロは吹き飛ばされて地面へ倒れこむ。


 がたんっと世にも奇妙な女性以外は、席を立ち上がってテラスの手すり部分まで走り寄る。


 「ちょっと信じられない女性に暴力振るうなんて!」


 ジエネッタは怒り心頭だ。


 ソコロは立ち上がって、制服についた埃を払っている。幸いにも怪我はなさそうだ。


 三人は安堵した。しかしその後も王太子はソコロに詰め寄っている。話し声が聞こえないのが非常に残念だ。


「ああこれはいくらなんでも……」 


 デイブも絶句している。


「まずいですね、公爵だって黙ってないでしょう。デイブ様、助けに行った方がいいかもしれません」

「ああそうだなアンバー嬢。行ってくる」


 デイブは軽々と手すりを乗り越え、ソコロの元へ向かった。


「あらあの娘、公爵令嬢なの?どちらの公爵家なのかしら」

「モルガン公爵家よ」

「あらまぁ。じゃぁわたくしの実家の子孫ですのね」


 この世にも奇妙な女性、笑顔で問題発言をするのが得意である。


 アンバーはこのとき優雅に扇を揺らす、世にも奇妙な女性に振り回される自分の未来を確信し、遠い目をして現実逃避を試みるのだった。


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