世にも奇妙な女性 過去
ジエネッタはソコロが心配だからと、ソコロの元へ行ってしまったので、テラスには二人だけ(側からは一人)になった。
「えっちょっと、いつだか分からないけど、公爵令嬢だったんですか?」
「ええ、そうなの。うふふ、道理で気品があると思ったでしょ?」
「それ自分で言っちゃいますか?」
この世にも奇妙な女性、案外ずうずうしいのである。
「えー気をとりなして、あなたどうして幽霊なんですか?」
まさか今更名前が分からないとも『世にも奇妙な女性』などど(心の中で)呼んでるとも言えず、あなたとアンバーは呼んでみた。
まずい……どうやって名前聞きだそうか。アンバーちょっと嫌な汗がでる。
「さぁ?何故かしら?別にこの世に未練もないのに。」
うふふと楽しそうに笑ってる。
すでに揶揄われているレベルのうふふ笑いにアンバーは軽く殺意が沸く。
「エルノーラとはどんな関係なんですか?」
いきなりすっと真剣な顔をすると、世にも奇妙な女性はアンバーに向き直る。
「エルノーラとは因縁かしら」
「因縁ですか?」
「ええ……わたくし、当時、王太子殿下の幼い頃からの婚約者でしたの」
「えっ王太子の婚約者!」
「ふふ、わたくし公爵令嬢でしたのよ」
「あっ、そうでしたね。会ったときから幽霊でしたから、ついうっかり失念してましたよ。ついさっきソコロ様の血筋に連なる人だと聞たばかりなのに」
アンバーと世にも奇妙な女性はうっふふと笑いあう。
「この学園に入学して、王太子はエルノーラ男爵令嬢に出会った。そして恋をした。魅了付きだったけど」
「今ここで起きてますねソレ。しかも同じ男爵令嬢に魅了付きで」
「エルノーラに恋したのは王太子だけではなかった。その側近達も」
「それもココで起きてますね」
「ではこれも起きるかしら?卒業パーティーでわたくし婚約破棄されましたのよ。群衆の面前で」
えっとアンバーは絶句した。
卒業パーティーは一ヶ月後だ。
いつもにこにこしている、世にも奇妙な女性の顔が悲しげに歪むのを見て、デイブが世にも奇妙な女性を、透明で輪郭は分かるけど顔までは分からない。でも声は鮮明に聞こえると言っていたのを思い出し、この話を聞く役をデイブに替わって貰えば良かったと、次回は危険回避能力を磨いて全力で回避(押し付ける)するとアンバーは心に誓う。
誓いの握り拳は見なかったこてにしてくれ、アンバーの顔は晴れやかだった。
「婚約破棄の宣言されて……あなたはどどうしたんです?エルノーラに王太子取られて」
……あ、あなた呼び、どう見てもどう考えても、目上の人にあなた呼び。あーとても申し訳ない気持ちだわ。少しも早く名前が知りたい。アンバー心からの願い。
「わたくし、卒業パーティーで国外追放を言い渡されましたので、その日のうちに国外へ出ましたわ」
「そうですか。落ち込んだりしなかったんですか?」
「自分に心がない人を求めるのって、疲れますのよ。ですから黙って受け入れましたの。――不思議なのは、どうして群衆の面前で婚約破棄を、わたくしに宣言したのかは、未だに理解できませんわね」
「そうですね。もっと穏便にすます方法なんていくらでもありますよね。それをわざわざ群衆の面前でする必要なんて、何ででしょうかね?」
群衆の面前での婚約破棄の衝撃から気付かなかったが、言われてみればそうだ。別に群衆の面前で、わざわざ婚約破棄の宣言をする必要なんてないよね。王太子と婚約だなんて、確実に王命だから下手したらその王命を反故にしたと、王太子だって責任追求される可能性がある。
しかもモルガン公爵家を確実に敵に回すのだ。それってなんの利点もない。愚かすぎるよ王太子。アンバーにも理解できなかった。
「思案してみて閃いたのは、男爵令嬢という爵位の低い娘と王太子が婚姻するには、あえて『エルノーラ男爵令嬢と改めて婚約する』と、群衆の面前で宣言するしかなかったのかしらと。それでもモルガン公爵家を敵に回す枷を考えれば、悪手といかいいようがありませんですが」
アンバーも世にも奇妙な女性も黙り込む。しばし銘銘が思案していたが、世にも奇妙な女性が先に口を開いた。
「ふっ、もう昔の話ね、懐かしいわ。だけど、もう一つの方は現在進行形ね。」
「現在進行形ですね……群衆の面前での婚約破棄なんて、愚かなこと本当にするんですかね」
「さぁ、ただエルノーラがしたことをジョイでしたっけ?あの娘は模倣している気がするの……繋がりがあるのかしらね」
「ジョイ・リベラ男爵令嬢ですよ」
「あら、エルノーラ・リベラ男爵令嬢でしてよ。繋がってしまったわね」
「えっエルノーラの家ってまだ在るんですね!じゃぁエルノーラを返品できますね」
「ふふふ、エルノーラは死んだ人間よ。どうやって返品しますの?しかもこの時代に生きてきた人間でもないのに」
アンバーはエルノーラの返品先が見つかったと、輝くような笑顔を浮かべていたが、世にも奇妙な女性の言葉にみるみる萎んだ。
「そうでしたエルノーラは死んでましたね。実体化してるからうっかり死んでるの忘れてました。……しかしどうしてエルノーラは死んだんですかね」
アンバー、今頃になって、エルノーラの死因が気になりだす。今更過ぎたのか、世にも奇妙な女性にさらっと流される。
「……リベラ男爵家を調べてみたいですわね。ドゥリー伯爵家には間諜の者はいないのかしら?」
さらりと間諜と口にする世にも奇妙な女性に、公爵令嬢の片鱗をアンバーは見た。
公爵令嬢とはそういうもの。たぶん。
「伯爵でも何の影響力もない、高位貴族の最下位にいるようなうちに、そんなの常備してませんよ」
アンバー、間諜と置き薬を同列で語る。
「そうですの。ではあの眼鏡宰相に頼んでみますわ。幸運にもわたくしの声が聞こえるようですし」
それは幸運ではなくて、不運ではないかとアンバーは心の中で呟く。
ふわりと世にも奇妙な女性は浮くと、少しずつ消えていく。
「あっそうですわ。エルノーラですけど、あの娘は処刑されたようでしてよ。わたくしも聞いた話ですけど」
ふふふとにこやかに笑い、完全に姿がなくなる。
この世にも奇妙な女性、意地悪である。




