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世にも奇妙な女性

「で、その後はどうしたの?」


 アンバーの友人ジエネッタ・キャンベル子爵令嬢はさも愉快そうに、話の続きをせかした。


「え!実体化してるんだよ。普通に見た目は人間だよ、追い出せないでしょ。行くとこないのも分かってるし、だから部屋を用意した」

「まぁ、アンバーの性格からしたらそうなるか。でも侍女とかは見知らぬ娘が突然『お姉さま』とか言ってたら怪しむでしょう」

「だから遠縁の娘が突然やって来たで誤魔化した。お父様とミミルは私の特殊な事情を知ってるから、正直に話した」


 ジエネッタもアンバーの特殊な事情を知っている。でなければこんな話は出来ない。気が触れていると思われるだけだ。


 ジエネッタは入学以来学年首席の才女で、成績はど真ん中のアンバーとは何故か馬が合った。出会ったのは学園入学してからだが、親友と言って過言ではない間柄になっている。


「ふーん、幽霊って実体化するんだね」

「いや私にそう言われても。こっちも初めての出来事だし」

「今後はどうするの?」

「どうするも何も……どうしていいのやら、全く思いつかないのが現状。願うは成仏してくれること?かな」


 放課後の食堂のテラスでアンバーとジエネッタは話していたのだが、二人の目の前に広がる庭園に仲睦まじい男女の姿があった。


「わっ王太子だ。とジョイ嬢……あの噂は本当だったか」


 ジエネッタの言った噂とは、王太子がさる男爵令嬢と懇意にしているというものだ。


「ソコロ様はご存知なのかしらね」

  

 ソコロは王太子の婚約者で女生徒が憧れている公爵令嬢だ。公爵令嬢なのに分け隔てなく付き合う人柄も、淑女の鑑と言われる立ち振る舞いも、すべてが全女子生徒のお手本になるような人だった。それ故に同性のファンも多く、一部の女子生徒はジョイ・リベラ男爵令嬢を蛇蝎の如く嫌っていて、揉め事にならなければいいなとアンバーは憂う。


「王太子だけじゃないけどね、ジョイ嬢と懇意にしてるの。王太子の側近は全部じゃない?あっ眼鏡宰相は除いてか。」


 眼鏡宰相とは、デイブ・ルイスのことで侯爵家の次男だが、とても優秀で次期宰相候補との噂もある。ただとてもとっつき難い人物との評判だ。


「高位貴族が軒並みジョイ嬢の魅力に落ちるとは恐るべしジョイ嬢」

「元々庶民の生活をしていたらしいから、男性との距離も近いし貴族女性にない、くるくる変化する表情や誰とでも……男性限定だけど親しみ易いとこがいいのかもね」

「でもそれ貴族社会じゃ生きてけないよ?」

「……あーやっぱり我慢できない。ちょっと花摘み」


 ジエネッタは貴族の淑女らしからぬ早技で姿を消した。


 はいはい行ってらっしゃいとアンバーはジエネッタを見送り、庭園を見ると王太子とジョイは先程よりも更に距離が近くなっていた。


 頭にソコロを浮かべてジョイを見る。男と女の思考の違いなのか、どうして王太子がジョイの方がいいのか、まったくアンバーには理解できなかった。容姿は人の好みとしてもそれ以外では、ジョイがソコロに敵う要素は一つもないのに。


 ハニーピンクの髪にピンクの瞳に華奢な体つき。大口開けて笑ったり、口を尖らせて拗ねたり、頬を膨らませて怒ってみたり。うん。確かに貴族の令嬢にはない表情だ。

 そんなジョイを見る王太子も、普段より表情豊かだ。いつもは貴公子然として、その形を崩さない人なのに。冷めたお茶をアンバーは一口啜る。


「嫌ですわ。覗きなんて淑女のする行為ではなくてよ。」


 突然アンバーの背後からよそゆき言葉が聞こえてきた。

 ジエネッタたら何ふざけているのかしらと、アンバーは振り返って椅子から転げ落ちそうになる。


 そこには世にも奇妙な女性(幽霊)がいたからだ。


「ふふふ、そんなに驚かないで。貴方からエルノーラの匂いがしたから、出てきてみたのよ。」


 涼しい顔で女性は言うと、先ほどまでジエネッタが座っていた場所に、妙に綺麗な所作で座った。


「エルノーラ?」

「あら、聞き覚えなくて?」

「エルノーラ、えっとそのエルノーラとはふわふわハニープロンドにピンクの瞳だったりしますか?」

「ええ、大きな瞳に白い肌、薔薇色の頬で陶器の人形のような容姿ね。背はあなたくらいで、胸はあなたより大きいわ。ふふ」


 ええそのエルノーラに聞き覚えあります!確かに私より胸大きいです!とアンバーは大声で叫びたくなった。こんなところに救世主がいるとは!全く考えなかった。


「エルノーラはドゥリー伯爵家に居ますよ。つまりうちですが、しかも実体化しています!どうしたらいいでしょうか!」

「あら実体化……そんなことできますのね。知らなかったですわ」


 世にも奇妙な女性は、きょとんとしながらも扇で口元を隠す。


 あれ、これダメな感じ?とアンバーは気落ちする。救世主出現かと期待値が大きかった分、失望も大きい。机に突っ伏したいのを我慢しながら、引き攣った笑顔で、突然現れた世にも奇妙な女性を見る。

 見た目年齢二十代〜三十代くらいで、詳細に顔(幽霊だから)を判断はできないが、気品のある顔立ちをしてそうだ。所作の美しいところを見ると、生前は高位貴族だったに違いない。

 

 世にも奇妙な女性を見て世にも奇妙な少女を頭に浮かべる。うん。所作がまるで違う。世にも奇妙な少女は昨日半日一緒にいただけで、所作の稚拙さやマナーのなってなさは分かる。貴族というより豪商のお嬢様というところか。それもぎりぎり。片や高位貴族らしくて、一方ではぎりぎり庶民のお嬢様。知り合いらしき二人の接点はどこにあったのだろうかと、アンバーは首を傾げる。


「ふふふ、面白いですわ。世の中似たような方って沢山いらっしゃるのね」


 庭園を優雅に眺めていた世にも奇妙な女性は、それはそれは愉快そうな顔をして笑っている。


 はい、面白い?似たような人?それは誰と誰が似ていて、何が面白いの?とアンバーはまた首を傾げた。


「だってあの娘、エルノーラと一緒で魅了の力を使ってますもの」


 世にも奇妙な女性が指差した先にはジョイがいる。


 アンバーは聞いてはいけないことを、聞いたような気がした。

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