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9話 新居は徒歩五分に 1/2

「ふへぇー……」


 クロエが疲れた体をテーブルに預け、ぐったりとしている。

 今朝、村から帰って来てすぐギルドに報告しにいった。

 その足で解体所でキラーホーネットの毒針を売って、

 やっと飯にありついけたのは、もう昼になってから。

 昼飯を平らげて至る今、という訳だ。


 こんなに飯を食うのが遅くなった直接の原因はハンスだ。

 村から帰った俺たちはギルドの解体所で親方のハンスに、こっぴどく叱られた。


「キラーホーネットに手を出すなんて

 命捨ててるようなもんだぞ!」


 今回のクエスト『キラーホーネットの巣の偵察』の戦利品

 キラーホーネットの毒針を買い取ってもらおうとした結果、

 親方にキラーホーネットと戦った事がバレたのだった。


「でも、こうして生きて帰れたんだし……」


「運がよかっただけだ。確かにキラーホーネットは巣から遠く離れると追っては来ない。だがキラーホーネットは人間が走る速度よりずっと速く飛ぶ。逃げ切れた今回は奇跡だったと思えよ?」


 親方が俺のためを思って説教してくれてるんだろう。

 少なくとも「いや今回は魔剣が」なんて言える雰囲気じゃなかった。


「ともかく、今回はきちんと買い取るが、今度こんな危険な奴を持ってきたって買い取らねぇからな?

 お前等のためにもな。」


「そりゃないよ」とは思うが、俺も今回はヤバかったと思っている。

 人生の先輩にここまで叱られたんだ、行動を顧みなければいけないな。


 その後、ギルドの横にある飯屋に入った。

 昨日の夜は魔剣のせいで飯を食べてないし、朝は起きて直ぐに村を出たから猛烈に腹が減っていた訳だ。

 懐だけは温かいし、値段を気にせず腹一杯食えた。


「なんにせよこれで休めるな、おつかれさん」


 クロエは顔だけ上げて「あい」と返事をする。

 冒険者ランクは上とはいえ、今回のスケジュールはクロエにはきつ過ぎたかもしれない。


「でもごめんな、急に倒れちゃって」


「いえ、詳しい事は魔剣さんから聞きました。

 その……大変ですね?」


 俺はコクコクと頷く。理解者が居るだけでこんなに気が楽になるなんて……

 やべ、涙が出そうだ。


「あれ、ジンさんじゃないですか! それにクロエさんも」


 こめかみを抑えてグッと涙をこらえる俺を、誰かが呼んだ。

 振り返って声の方を見るが、俺の名を呼んだのは知らない女性だった。

 ワンピース姿の美人、俺にこんな知り合いは居ないはずだ。

 いや? なんだか見たことがあるような……


「セリカさんじゃないですか!」


 クロエが目の前の女性にそう反応した。

 そうだ、思い出した…受付嬢さんだ! 俺が冒険者登録してからというもの、

 いつもお世話になっているあの受付嬢だ。私服だから気付かなかった。


「今日は、休みを頂いていたんですよ」


 俺がワンピースをまじまじと見ていたの気付いて、セリカさんがそう補足してくれた。

 確かに、今日ギルドに行ったときは違う受付嬢だった。


「昨日クエストを受けられてましたが、早かったですね?」


 確かにこんなに巣を見つけるのが早いなんてと報告の時にも言われた。

 まさか「魔剣がキラーホーネットを挑発したおかげで……」なんて言えない。


「いやあ、運が良かっただけですよ。キラーホーネットにも襲われちゃいましたし」


「キラーホーネットを攻撃したんですか!? 

 ダメですよ? そんな危ないことしちゃ」


「いやあ、ハンスさんにもこっぴどく叱られました」


 そんな会話をクロエが羨ましそうに見ている。

 そういえばコミュニケーションが苦手だったな。


「ほら、今回はクロエも居たんで、何とかなりました」


「クロエさんが!戦闘は苦手だとおっしゃっていたのにスゴイですね!」


 クロエは「エヘヘ」と照れ笑いしている。


「そんでも、なんでクロエは戦闘が苦手な割に冒険者ランクは高いんだ?鑑定の話は聞いたが」


「クロエさんの場合はちょっと特殊なんですよね、貴族の推薦で冒険者ランクが上がったので」


「はい、いつも私に仕事をくれる貴族の方がいるんです。

 その方の紹介で商人の方々にも仕事を頂いてるんですよ」


 へえ、冒険者なのにそんな稼ぎ方もあるのか。


「この前も噂でクロエさんの事を聞きつけた冒険者パーティの方々に紹介してほしいと言われまして。

 その時はタイミング悪く、紹介できませんでしたがダンジョンの中で鑑定できるなんて、

 どこのパーティでも引っ張りだこですからね」


 確かにダンジョンの中でアイテムの価値が分かるなら

「沢山持ち帰ってきたけどほんのちょっとの利益にしかならない」

 なんてことにもならないだろうしな。

 俺もワイルドボアの時に散々思い知らされた。


 それから少しの時間会話した後「それでは」とセリカさんが切り出した。


「それじゃ、この後は帰宅ですか?」


「私はそのつもりです」


「俺も帰って休むつもりです。って言っても俺は宿ですけどね」


 あの安宿からも早く脱出したいとは思っているがな。

 だが、クロエは俺の事を不思議そうな目で見ていた。


「ジンさん、部屋を借りたりもしてないんですか?」


 クロエは心配そうに俺を見ている。

 家賃も払えない位に俺が困窮していると思っているのだろうか。


「まあ、冒険で何日も帰ってこない様な方は宿で済ませる場合もありますからね?

 でもギルドで冒険者の方に物件を紹介することも出来ますので気軽に声をかけてください!」


 二人と店を出て、安宿へと戻る。

 安宿の主人とはすっかり顔なじみだ。


「今日も部屋をお願いします」


「……今日は満室だよ」


 ………は?

 ちょ、ちょっと待ってくれ、満室だって? 今まで満室になった事なんてなかったろう

 仕方ない、他の宿屋に行こう。


 …

 ……

 ………


「な、なんで…」


 あれから五軒は周ったが、どこも部屋が空いてない

 それに日もずいぶん傾いてきた。


「さあね、今日になって人がなだれ込んできたのさ。

 他の宿屋もおんなじだって聞いたけど」


 じゃあ、俺の運が悪いだけじゃないのか?

 宿屋を出て、放心状態で膝をつく。


「どうした、そんな絶望したような顔をして」


 いままで黙っていた魔剣が俺に話しかけてきた。


「ここのままじゃ野宿になっちまうんだよ……」


「いいじゃないか、私なんて長い間地中に埋まっていたんだぞ?」


 ……励ましてくれている様なのはありがたいが、励ましになってない。

 それにお前(無機物)と一緒にしてほしくない。俺には壁と屋根が必要なんだ。


 とぼとぼと街を歩く。

 いつぶりだろうか、野宿何て……いや、野宿してたわ、数日前に。

 魔剣に生命力を吸い取られて気絶したまま一晩過ごしたんだった。


 歩いてるうちに日が沈み、すっかり夜になった。

 当ても無く歩いていると、いつの間にか街の中心から随分と離れてしまった。


「おっ? にいちゃん、ここで何してんだ?」


 うなだれる俺に声をかけたのは親方(ハンス)だった。解体所まで来てしまったらしい。


「実は、泊まろうと思っていた部屋が満室で……泊る所がないんです」


 ……その言葉を聞いた瞬間、親方の顔が険しくなった。


「――? どうしたんです?」


「いやな、最近『災禍』がここらに出没してるらしい。

 普段野宿してるようなキャラバンなんかが冒険者の多いこの街に逃げ込んできたんだろうな」


「『災禍』が!?」


 災禍といえば、魔物の中でもとびきり危険なやつを指す名称だ。

 例えば、ダンジョンの深層に生息していた地龍であったり、火の精霊を喰って常に発火する(グール)

 なんかがそう呼ばれている。

 (グール)なんかは都市一つを燃やし尽くしたなんて話もある。


「どんな『災禍』なんです?」


「目撃した奴によると巨大な斧を持った人牛(ミノタウロス)だそうだ。

 他の――『業火屍(ごうかかばね)』や『鈍獣(ヘビィ)』なんかに比べると被害は小さいが、

 それでも――もう村が三つ程ヤられてるらしい」


 そんなヤバいのが近くに居るのか。しばらくはそれを避けて行動した方が良さそうだな。


「お前も野宿は控えた方が良い。そうだな……ウチの倉庫を使うといい、

 この街のすぐ外が危険な訳じゃねぇが、ウチの方が断然安全だろ」


 なんだって!?屋根と壁のある場所をタダで貸してくれるなんて、願ったり叶ったりだ。

 親方に倉庫へと案内してもらう。


「ほら、今日は少し寒い、毛布も貸してやるよ」


 それだけ言って親方は行ってしまった。

 だが、こんなとこでも泊めさせてもらえるだけありがたい。

 …

 ……

 ………生臭いっ!


 解体所って言われてまさかとは思ったが倉庫ってここ魔物の素材倉庫かよ!


 臭いでなかなか寝付けない俺は心に誓った。

「明日は部屋を探そう」と

長くなったので分けます

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