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10話 新居は徒歩五分に 2/2

「冒険者たるもの、拠点はしっかりと構えなければならないっ!」


 俺はそう意気込んでギルドへと向かっていた。

 昨日、宿に泊まれなかった俺は、ギルド解体所の倉庫で一晩を過ごしたわけだが、

 最悪だった!

 臭いわ、寒いわ、魔剣が魔物の素材に反応して煩いわ!

 な~にが、「竜の臭いがするぞ、狩りに行こう」だ! 夜中の3時だったぞ!?


 そして俺は昨日誓ったのだ――自分の部屋を借りると!



「部屋を借りたいんですがっ!」


 ギルドに入るなりそう受付嬢のセリカさんに言い放った。

 他の冒険者が「なんだ?」と俺の方を見ている気もするが、そんなもん構うか!

 徹夜で目がギンギン、鼻息荒いままセリカさんに詰め寄る。


「と、取り合えず落ち着きましょう。なるほど、昨日は宿に泊まれず解体所の倉庫で……」


 セリカさんは俺に引きながらも親身に話を聞いてくれた。

 途中魔剣が「いっそ野宿すればいい」なんて言っていたが、冗談じゃない。

 俺が話し終わると、セリカさんさんはこういった。


「それじゃあ、ここらへんの賃貸に詳しい方を紹介しますので、そこに行ってみましょう!」


 セリカさんに案内されたのは冒険者ギルドにほど近い建物だった。

 前面がガラス張りだが、ガラスには外から見えるように部屋の間取りが書かれた紙が貼られている。


「コチラの事務所に詳しい方がいらっしゃるんですよ」


 そういってセリカさんが建物の扉を開く。


「サダワさん、いらっしゃいますかー? 冒険者さんに賃貸を紹介していただきたいのですが」


「はひっ! セ、セリカさんっ! ようこそいらっしゃいました!」


 サワダと呼んでいた人だろうか、眼鏡をかけた若い男性が奥から急いで出てきた。


「ワタクシ、冒険者サマの住宅の手配を担当させていただいておりますサダワと申しマス!」


 えらい元気のいい奴が来たもんだ。

 反応を見るにセリカさんに好意持っているようだな。

 彼女を前にしてガチガチに緊張している。


「それじゃあ後はお願いします!」


 セリカさんは何やら紙をサダワさんに渡すと、直ぐにここから出て行ってしまった

 サダワさんは「あっ……」なんてリアクションを取っている。

 これは……敵わない恋の匂いがするな。

 サダワさんはしばらく間取りの紙と紙の間からサリカさんの後ろ姿を追っていた。


「そ、それじゃあ、よろしくお願いします……」


 セリカさんの姿が見えなくなってもいまだ外を見続けるサダワさんに声をかける。


「えっ? あ、あーっはいはい改めてワタクシ、サダワと申しマス。

 ええと、貴方様の冒険者ランクは……ああ……はい……そうですか」


 紙に書かれていたのか、俺の冒険者ランクを見たとたんやけにテンションが下がりやがった!

 まだ緊張しているのか、言葉も戻っていない。


「ええ……では、住居の方をご一緒に探していきマスが、

 あまり予算は無いという事でよろしいでしょうか?」


「あ、はい、最低限でかまわないっす」


 今、泊まっている安宿が一拍150オンスだから……1か月で4500オンスか。

 そう考えると割高なところに泊まっている気がする。


「えー、はい。それでは月1500オンスから案内できるところがございますね」


「本当ですか!」


 家賃が安いに越した事ない。1500オンスなんてあの安宿の10日分だ、安すぎる様な気もするが。


 サダワさんに案内されたのは……馬小屋?

 まず外と部屋が直通でガラスも無い。


「ギルドに近くて安い賃貸ですと、ここになりますかね?」


 サダワさんの口調もやっと元に戻った頃、

 俺は一つ目の物件を紹介されていた。


「いや、ここ家畜用では?」


 床にワラすら散らかっている。

 隣からなんか獣の鳴き声が聞こえるし。


「いえいえどちらかと言えば兼用、でしょうか」


 結局家畜も含まれてんじゃねぇか!


魔物使い(テイマー)の方がよく利用されますね。

 あっでも、もちろん人も可ですよ?」


「あの、できれば人専用でお願いします……」


「そうですか」とサワダさんは手元の資料で次の物件を確認する。

 初っ端がここって大丈夫だろうか?


「ではコチラはどうでしょうか、値段は少し高く、1800オンス程ですが兼用住宅ではございませんよ?」


 紹介されたのは……犬小屋?

 形容するなら犬小屋の集合住宅バージョン。俺が丸まってやっと入れるくらいだ。


「ここは小人族の住処として作られた建物です」


 でしょうね! だって扉が小さすぎるもの!


「で・す・が、もちろん小人族でなくても住めますよ」


 でしょうね! 俺に紹介してるんですもの!


「あの、もう少し俺のサイズにあったのをお願いします……」


「そうすると……この2000オンスの物件はどうでしょうか」


 そういって案内されたのは、普通の家のようだが……

 中を見せてもらっても普通の建物だ。

 いいじゃないか!少し暗いのが気に入らないが、文句は言えないな。

「ここにします」そう言いかけた時だった。


「いやーここね、前の入居者は自殺しちゃって」


 ちょっと待て!事故物件じゃねーか!


「その前の入居者も自殺ですし呪われてるんですかね?」


 サダワさん、いやサダワは笑っているが、笑い事じゃない。


「むっ、確かに呪いがかかっているな」


 魔剣もなにか感じ取ったようだ。

 魔剣が反応するってマジもんにヤバイ奴じゃねーか!


「ほ、他はありませんか?」


「えーと、他は……ありませんね」


「え?」


 サダワの顔を思わず見てしまった

 今、もうないとかなんとか?


「ギルドの近くにはもうありませんよ?」


 なんだって!?


「そもそも、ギルドの近くは街の中心でもありますからね、家賃の低い所がまず少ないんですよ」


 それに、とサダワは続ける。


「それに、冒険者さんは住居にこだわらない方が多いので、

 安いトコロはほとんど埋まってしまっているんですよ」


 サダワは「また後日になればあるいは」なんて言っているが、そんな待てる時間はない。

 その待っている間、倉庫で魔剣と生臭さとの共同生活はどうしても避けたい。


「なんとかいい物件を紹介して貰えないもんですかね?」


「そう言われましても……あ、安い所で一つ、郊外の貸し家がそう言えば昨日空いたんでした」


 なんてラッキーな!もうそこで……

 いやまて、取り合えず詳しい話を聞こう。


「それで、おいくらなんです?」


「なんでも安全になるまでは3000オンスで構わないと」


 う、今まででは一番高い……だが安宿よりは安い……か。

 っていうか家なら郊外でもかなり安いんじゃないのか?

 でも安全? 何か危険な事でもあるのか?


「とりあえず内見できますか?」


 案内されたのは街の本当に郊外、しかもギルドの解体所は街の中心を挟んで真反対という悪立地だ。

 だが、別に危険というような物は何もない。

 魔剣も「別に何も感じはしない」と言っている。


「安全になるまでって……なにか危ない事でもあるんですか?」


「なんでも人牛(ミノタウロス)がどうしたとか……」


 そう言われて昨日の親方(ハンス)との会話を思い出した

『最近『災禍』がここらに出没してるらしい』

 あれかーッ! やばいんじゃないか!?

 ……だが、だが今日も倉庫はイヤだ!


「ここで……お願いします」


 背に腹は代えられない。人牛が来ない事を祈ろう。

 最悪の場合は……うん。考えないようにしよう。

 キラーホーネットからも逃げ切れたんだ、人牛からも逃げ切れる事を祈ろう。


 その夜、俺は久しぶりに『部屋』というものを実感して夜を迎えることが出来た。

 昨日は倉庫だったし、その前は魔剣に気絶させられたしな。

 天井を見上げて横になる。


「………」


 ――取り合えず安くていいから、ベッドを買おう



 次の日、クロエと俺はギルドの横の飯屋で待ち合わせをしてギルドへと向かった。


「へえ、家を借りたんですか? 今度、その、遊びに行っても良いですか?」


「おう、別にいいぜ?」


 そんな会話をしながらギルドに入った俺達を待っていたのは大勢の冒険者だった。


「なんでこんなに人が?」


 ギルドはいつも冒険者で賑わっているが、ここまでの人数は異常だ。

 冒険者たちの目線の先には受付嬢――セリカさんが居る。なんだか顔が険しい。

 冒険者達の注目を受けたセリカさんは息を大きく吸うとこう叫んだ。


「みなさん『災禍』が来ます!」

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