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 数分後。支給品のネックライトを装備し、僕等四人は旧館正面玄関から内部へ侵入した。蒼白い月光は差し込むものの、旧施設故か通路には非常灯が一切見当たらない。足元付近は、光源抜きでは窺えない程真っ暗だ。

「随分暗いっすね。一応上に画家の兄ちゃんがいるってのに、こいつぁ管理体制的に拙くないですかい?」

 ネックライトを左右に掲げ、先陣を切る雲雀君がボソリ。彼の真後ろに付いた僕も同意。

「ふむ、今の所敵の気配は無いな。お前等、奴の潜伏先に当てはあるのか?」

 突入隊の中央を行く最年長者へ、いえ、殿を勤める紅一点が応えた。

「ですが、まずは四階へ行きましょう。六月君の安全確保が最優先です」

「ロクツキ?変わった苗字だな、まあいい。じゃあそいつを手早く保護して、それからあの坊主の捜索だな」

 外れる寸前の案内板に従い、階段を昇って二階へ。頃合を見計らって、カンカン。手摺りをトンファーの端で以って打ち鳴らし、鎮森兄妹へ合図を出した。


「?何だ、エッセ先生。餓鬼みたいな真似し」カチッ、カチリ。「―――何の冗談だ、お前等。エイプリルフールは一月も前に終わったぞ?」


 己の額と太腿、二箇所を狙う前後の銃口を一瞥。その目には若輩者共に対する嘲笑こそあれ、死の恐怖は微塵も含まれていなかった。


「馬鹿な真似は止せ。冤罪だったとは言え、俺はお前等の恩人」「―――これはとある冬の日の出来事です」


「道端の池で溺れかけていた子犬を助けたのは、偶然通り掛かった一人の少年」

 漂う困惑と憤懣に気圧される事無く、その飼い主は偶々彼の同級生だった訳ですが、昔話を続ける。

「彼は礼としてその晩、彼女の家で夕食を御馳走になりました。しかし不思議な事に、何故か彼へは母娘と全く異なるメニューが出されたのです」

 一触即発の緊迫感を退けるため深呼吸、肩の力を抜く。

「彼女達はスコッチエッグとクロワッサン。一方、彼はポークステーキに白米でした。さて警部、何故だと思われますか?」

「知るか。そんな下らん謎掛けより先生、この馬鹿共にキツく言ってやってくれ。こいつは立派な命令違反だぞ!」

 でしょうね、答えられる筈が無い。何故なら、

「答えは至極簡単。少年、いえ。鎮森 純君が食べたのは、帰宅するかもしれない父親へ用意された食事だったから。そして特段夫婦仲が悪くも無いのに、二年間一度も家へ戻っていない当人は―――時折緊急搬送される程、重度の鶏卵アレルギーの持ち主だった」

「………は?」 

「彼の名は元リビド警察署所属刑事、ベン・リア。今から二年前、昇格と同時にヘルン署へ移籍した敏腕警部です」

 ところで、芝居がかった仕草で手を顎へ。

「つい先程、その純君から妙な話を聞きましてね。今御説明した通り、彼はほんの少量のアレルギー物質でも即蕁麻疹が現れる重症体質の筈。なのに一昨日、あなたは彼からパンを受け取ったそうですね。卵が使用されているかもしれないのに、丁度空腹だったと礼まで言った」

 一拍置き、それに彼は、と続ける。

「あなたが爆弾魔だとも教えてくれました。盲点でしたよ。身軽な純君ならいざ知らず、あの厳戒態勢だ。郵便物へも当然検閲が入る筈なのに、小包は無事寮まで届けられた。そんな芸当が可能なのは、警備のボディチェックをスルー出来る人物に絞られる」

「しかも手前、爆発直後にのこのこ現れたらしいな。そんなに不安だったのか、上手い事坊主が殺れたかがよ」

 あのクソ餓鬼め!醜悪に歯を剥き出す男へ、諦めるんや偽者、調べはとうに付いとるで、朱鷺さんが冷酷に言い放つ。

「全部『本物の』おっちゃんが教えてくれたわ。あんた、大昔に勘当された双子の弟なんやってな。性根の底からド悪党で、両手両足指で足りん位の前科持ちとか」

「!くそっ、妖術士め!?奴等の言う通り、油断している内にさっさと始末しときゃ良かったぜ!!」

 振り向き攻撃しようと拳を握り締める。やや薄毛のその後頭部へ、カチャッ。敬虔なヤクザがまだ冷たい銃口を押し当てる。

「さっきの台詞、そっくりそのまま手前に返すぜ」安全装置を外し、「―――脳漿ぶちまけたくねえなら指一本動かすな。この薄汚い殺人犯め」

「手っ前等!?」

「はいはい、自白は署でたっぷり聞かせてもらうわ。兄ぃ」

「おう」

 拳銃を構えつつ、手錠片手に正面へ回り込む女刑事。血縁者の意図を汲み、雲雀君は脹脛へと標的を変更した。が、銀色の輪が卑劣漢を縛す刹那。僕等の鼓膜に、下方からの夜闇を裂く複数の足音が届いた。




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