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衝撃冷めやらぬ中、コンコン。控えめに障子が叩かれた。
「悪いね雲雀、純。若い衆に夕食の支度を任せているんだが、ちょっと手間取っちまっててね。開けても構わないかい?」
「少し待ってくれ。(ごそごそ)―――入っていいぞ」
素肌に上着を羽織りつつも、胸板は露な姿。それでも流石極道の妻。眉一つ動かさず、腹ごなしにどうぞ、四人分のプリンと番茶の乗った盆を差し出した。客人達の感謝の言葉に、いえいえ、片手をぱたぱた。
「にしても二人共、随分派手にやられた物だねえ。そんなヤバい筋なのかい、お嬢ちゃんの事件」
「ああ、まぁな……そうだ、純」
自身の後頭部に手を回し、カチャカチャ。留め金を外し、十字架を少年の空の首へと提げた。
「一旦預けとくだけだぞ。あれは父さんの形見だ、絶対に奪還する」
女将。反論しかけた少年を無視し、現組長へ向き直る。
「俺等が留守の間、純を頼む。事が片付くまで目を離さないでやってくれ。特に電話は厳禁だ、他の連中にも用心するよう伝達頼む」
「承知。じゃ、私は下がらせてもらうよ。ごゆっくり」
障子が閉ざされ、遠ざかる摺り足の音。聞こえなくなった頃合を見計らい、あるんだな、心当たり、少年が鋭く指摘。
「まぁな、最悪な事に……どうするよ先生方?」
そう尋ねられても、困惑具合なら僕も良い勝負だ。仮に純君が遭遇したのがクラピト氏本人なら、彼の洗脳加減は少年の比ではない。何せ、十八年前に亡くなった奥方への面会だ。どう考えても頭突き程度で治療可能なレベルを突破してしまっている。
「取り敢えず、実際に面と向かわない事には始まらないかな」
「ですね。となりゃ、純の誘拐先がますます重要だが……待てよ。昨夜の目撃現場はローラン病院の敷地内。って事は、犯人のアジトもあの近辺に?」
「可能性は十二分にあるね。過去の『第六指事件』といい、最早一連の事項はあの場所を基点に回っている気すらしてくるよ」
畳に後ろ手を突き、不審者捜索の件もある、明日朝一で突撃しよう、背筋を反らす。提出案に無傷の肘を胡坐へ、更にその掌へ顎を乗せた彼は首肯した。
「だったら俺も連れて行ってくだせえ。あのアマには反吐しか出ねえが」チラッ。「―――真犯人に落とし前着けさせるためだ。俺もいい加減覚悟を決めねえとな」
「医者としては正直二、三日は絶対安静にしてて欲しいんだけどね」
傷口は面積こそ小さいが骨寸前まで達している。無理に動かせば確実に開くだろう。主治医の心配を余所に、休みなんざ事件解決までお預けっすよ、患者は快活に笑った。
「さーて、陰気な話はこれにて仕舞い!折角の女将の差し入れだ、茶が温くならない内に食いやしょう」
「賛成。―――おお、素晴らしく極普通のプリン」
学生に倣ってシールを捲り、すの若干浮いた表面にスプーンを差し込む。久し振りにスイーツを食べたせいか、今日は一段と甘く感じた。
一旦緑茶で舌を洗い流していると、斜め前に座った純君の素っ頓狂な叫び。一方彼の正面、だから、若頭は至極大真面目にプリンを掬った匙を突き出す。
「その右手じゃ食べられないだろ。偶には保護者らしい事させてくれよ」
「スプーン位左手で使える!大体俺は両利きだ、それ位知ってるだろ!?」
普段の沈着冷静さはどこへやら、耳介を真っ赤に激昂。ところが突然肩を竦めたかと思うと、だ、大体、困惑を露にそっぽを向く。
「雲雀兄の方が重傷、だろ……立場が逆だ」
「純」
「そんな顔するなよ、良い歳したオッサンの癖に」
言いつつ心持ち大きく開口し、羞恥から瞼を閉ざした。
「―――こう、か?」「おう」ぱくっ。




