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「っ!?がっ……畜生、何で手前が……」
咄嗟に急所の顔面を覆った事で、ナイフが半分沈んだ左腕。傷を利き手で庇いながら、犬歯を剥き出し唸る若頭。一般人なら失禁しかねない威嚇も、だが樹上よりの刺客には通用しなかった。
(そ、そんな……待て、今朝のキム君の発言……まさか君は、この事態すら予測していたのか……?)
貸与する腕の先に視線をやると、余所見は御法度だぜオッサン、異能者は冷静な忠告を寄越した。
「奴の目的は俺達の殲滅だ。油断せず構えとけ。ボサッと突っ立ってると、眉間に風穴開けられるぞ」
軍服姿の敵の武器は一見、下手に構える二本目のアーミーナイフのみ。ただ、纏った対塵ベストのポケットは所々下垂している。中身は三本目以降の刃物か銃器、或いは手榴弾……軍事物の映画の知識が脳内で幅を利かせ、最悪な想像が止まらない。
「おい聞いてんのか、純!?」「五月蝿い、この偽善者共め!」
半日行方知れずだった少年は咆哮を上げ、保護者の鼻先へ凶器を突き付ける。
「口では甘言を弄しても所詮、あんた等も俺を道具としか考えていないんだろう!?兵器が人の振りなぞ可笑しい、滑稽な奴だって!!」
違う!猿真似なんかじゃねえ、手前は本物の人間だ!!激痛を堪え、唾を飛ばし、怒鳴り返す保護者。
「一体何処のどいつに、んな下らねえ事吹き込まれた!?言え!俺が今すぐブッ飛ばして来てやらあ!!」
「ハッ。一極道者でしかないあんたじゃ、どう足掻いたって大佐には敵わない。そもそも、この場で俺に始末されるんだからな」
「大佐?ブレーメンの、か?馬鹿ぬかせ!?二年前、奴は確実にくたばった筈だ!影武者の形跡も」
ヒュッ!ベストに差し込まれた手が、三本目のナイフを投擲するまでの間、僅か〇・数秒。何て速度だ、中間動作が全く見えない!
ガキィンッ!「止めろ、純!騙されてるのは手前の方だ!!」「黙れ!!」
咄嗟に抜いたリボルバーで凶器を叩き落とす。その照準が幼き暗殺者を狙いかけた瞬間、駄目だ、鎮森の兄ちゃん!今度はキム君が怒号を放つ。
「あいつを撃ったが最後、犯人の思う壺だ!何か別の手段を考えろ!!」
「んな事言われても……クソッ!ええい、ままよ!!」
懐へ銃を収め、代わりに胸元のロザリオを構える。大声で少年の名を呼び、本職の手付きで十字を切る。流石にそれは効かないだろうと思った、次の瞬間。殺気立った刺客の様子が目に見えて変化した。
不可視の聖なる力に弾かれ、激しく身を捩り始める純君。その左手が胸を掻き毟ったかと思うと、ボタンの留まっていない首元が露になった。
「おいおい、祈りでこの効果かよ。一体何がどうなって……取り敢えず大丈夫」
「雲雀君、見て!純君の十字架が無い!!」
発育途上の鎖骨を示すと、遅ればせながら彼も聖具の不所持に気付いたようだ。同時に何か閃いたらしく、チッ、成程な、奥歯をキツく噛み締める。
「野郎、純の唯一の拠り所を奪った上で操ったって訳か―――だが甘えぜ!!」
苦痛を浮かべる少年の顔面、その鼻先スレスレにロザリオを突き付ける。
「―――天におわします我等が父よ。
どうかその御名において、この哀れな子羊の罪を御赦し下さい。我等に人を赦す勇気と、魂の平穏を与えられん事を。
そして、どうか弱き我等を、あらゆる悪魔より救いたまえ―――アーメン!」
絶叫。ナイフと共に殺意を取り落とした悪魔付きの眼に浮かぶは、凄まじき恐怖の色。その視線が射抜く先は尚も武器を拾い、戦おうと足掻く己が右腕だ。
「止まれ!止まりやがれっ!手前、持ち主の命令が聞けないのか!?」
「純!?」
保護者の制止も間に合わない。ガンッ!ガンッ!自由な左拳で以って、純君は手の甲を何度も何度も……血が滲み、真っ赤に腫れても進軍を止めぬ部位を殴打し続けた。
「もう俺は誰も、誰一人殺したくないんだ!なのに何で、どうして裏切るんだよ!?」「馬鹿野郎!」ガンッ!!「ったっ!!?」
渾身の頭突きを受け、ドサッ!勢いのまま尻餅を着く。額へ無意識に右掌を当て、あれ、はたと気付く。
「手が、動く……戻った、のか……?」
自由を取り戻し、安堵したのも束の間。すっかり脱力していた少年は、純!!逞しい両腕に軽々抱え込まれた。




