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魔女っ子はつらいよ  作者: 黒辺あゆみ
2話 魔女っ子のライバルはたいていチート

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8/8

その4 音無類はかく語りき2

「梓、ウメさんのとこまで青梅もらいに行っておくれ」

ある日曜の朝食時、響の祖母が梓にそう頼みごとしていた。

「ぶぅえっほ!ぶへくしっ!」

がしかし、俺の正面で盛大にくしゃみ鼻水を撒き散らす梓には聞こえていないと思うがな。

「くしゃみは人のいない方へ向けてしろ。というか寝てろ」

「ぶへくしっ!」

嫌々と首を振りつつ、くしゃみをするもんだから、あたり一面に梓のくしゃみが撒き散らされる。

「病気をしたときに一人になると、猛烈に寂しいですしねぇ」

慶二がニコニコと梓の方をもつ。だがそうやって甘やかすから被害が俺に来ているのだと思われる。

「なんでもいいけど、青梅頼んだよ」

「ぶひぇくしょん!」

・・・この流れは、結局俺が行くパターンか?



というわけで、響のばあさんの使いで、ウメさん宅まで青梅をもらいに行った俺と梓。二人で袋一杯の青梅を両手に下げている。これなら近所だと思って歩いて行かずに、慶二に車を出してもらうんだった。

 そして俺の隣では。

「ずびっ、ずびびーーっ」

さっきから鼻水をすすっている梓がいた。結局寝ないで付いてきた。

 梓は先日から風邪を引いているようだが、どうやら悪化しているらしい。家で寝ていればいいものを、どうやらウメさんが作る手作り羊羹に釣られたらしい。こいつ食い意地で身を滅ぼすタイプだな。

 梓風邪っぴき事件の事の発端はというと、先日の球技大会で、俺たちのクラスの男子バスケットボールが優勝したことだ。そのめでたいときに梓は優勝の喜びに沸くクラスメイトをかき分け、俺の目の前まで来ると意味不明なことをわめき、走り去った。滅多に喋らない梓がわめいたことに、クラス一同きょとん顔だった。

 その後、梓は一晩中自宅裏山の滝に打たれていたらしい。何か鎮めたかった煩悩でもあったのかは定かではない。しかしそのせいで、今こうして風邪をひいているのだから、煩悩に打ち勝つどころではないと言っていいだろう。結局何がしたかったのか謎である。

こうして二人でヒイヒイ良いながら青梅を運んでいると、梓の携帯が鳴った。梓は一旦青梅を地面に下ろして携帯をとる。

「・・・。」

「何だって?」

鼻をずびずびさせながら携帯を耳に当てている梓に尋ねる。梓は嫌そうな顔をしている。どうやら出動の合図らしい。

「ほれ、どこだ?」

「・・・コマちゃんとこ。ぶへしっ!」

誰だそのコマちゃんとやらは。そしてそれはともかく、あの祖母さん孫使いが荒いな。



梓の案内で歩くこと三十分。地元の神社までやって来た。

 さすがに青梅を持ち歩くのは嫌だったので、通りすがりの家に預けて慶二に回収させることにする。三十分もあの荷物を運ぶなんて軽い拷問だ。

「ばうばう!」

「あぅんあぅん!」

そしてそんな俺たちの目の前の神社から、そんな動物の鳴き声が聞こえてきた。野犬・・・じゃないんだろうなぁ。そう考えていると。

 目の前に、神社から野犬ではなく、柴犬サイズの二匹の狛犬が飛び出してきた。

「ばうばう!」

「あぅんあぅん!」

デフォルメされている愛らしい姿で凄まれるが、正直怖くもなんともない。

 今回はこいつらを元の狛犬に戻せということらしい。

「今回あんまり難易度高くなさそうだな」

梓の怪異収拾現場に何度か居合わせたことのある俺は、軽い口調で振り向くと。

「ぶしっ!ぶひゃっ!ぶひぇくしょん!」

鼻水をたらしつつ猛烈にくしゃみをする梓がいた。女子高生だろう、もう少しおとなしめのくしゃみができないのか。おっさん臭い奴だな。どちらにしろ、今回はあまり使い物になりそうにない。

「仕方ないなぁ。今回だけだぞ」

どうやら俺がやらねばならないらしい。このド田舎に来て以来、のんびりライフを満喫していたので、この手の悪霊討伐は久しぶりだ。この狛犬が悪霊かは謎だが。

 パチン!

一つ指を鳴らすと、周囲の清浄な霊気が俺の中に溜まっていくのが分かる。梓はなにやらポーズと台詞が必要らしいが、俺の場合はこの指鳴らしだ。長ったらしい前口上をここまで省略できたのは、俺の修行の賜物だ。

 パチン!

そしてもう一つ指を鳴らすと、二つの光が天から狛犬めがけて落ちた。

「「きゃうーん!」」

間抜けな鳴き声をあげて、二匹はあっけなくもとの石造の狛犬に戻る。この場に二つの狛犬像が転がっているが、これを戻すのは誰だろうか。少なくともこんな重いものを俺は持てない。役所に連絡か?

「終わったぞ」

済んだからにはさっさと帰ろうと、梓を振り返る。

 すると、そこには顔を真っ赤にさせた梓がいた。なんだどうした。熱が上がったのか?

「ずるい!なんだそのスマートかつかっこいいやり方!私だってできればそれがいい!」

俺を指差して大声でわめき、そして後ろに仰向けに倒れる梓。

 一体どういう状況だろうかこれは。



あのまま気絶して意識のない梓を背負って家に帰ると、響のばあさんの茶飲み友達が集まっていた。お目当ては慶二の手料理だ。

 青梅回収済みの慶二がこちらに寄ってきた。

「あれ類、梓さんはどうしたんだ?」

「何か知らんが憤死した」

アレは間違いなく憤死と言っていいだろう。

 慶二に意味がわからないという顔をされるが、俺だって意味がわかっていない。

 梓の祖母への報告は後にして、仕方なく梓を部屋へ連れて行きベッドで寝かすことになった。

「こら梓、いいかげんおりろ」

「音無類ゆるすまじ~」

呪詛めいた声音でうめく梓をべりっと背中からはがす。たまに喋ると、いちいち言動が怖いんだよこいつは。



ちなみに神社から家まで梓を背負って、意外と梓の胸がでかいことを発見する。


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