最終話:新しいページを、君と ~Change the Future!~
最終話:新しいページを、君と ~Change the Future!~
2026年、7月19日。
六畳一間の私のアパート。かつて就職活動に絶望し、山のような不採用通知を握りしめて独り泣き腫らした、あの狭い空間。
カーテンを隙間なく閉め切った暗い部屋の中で、今はデュアルモニターの青白い光だけが、私の顔を厳かに、そしてどこか冷徹に照らし出している。
画面の中では、金髪を揺らし、神秘的な紫の瞳を持つ――西園寺イブが、瞬きひとつせず、その開演の時を待っていた。
耳元のヘッドフォンからは、グループ通話で繋がった三人の鼓動までもが、電気信号を通じて直接私の脳に伝わってくるようだった。
《瑞希さん! ……大丈夫ですよ、深呼吸です! 瑞希さんなら、最高のスタートを切れます!》
ひよりちゃんの、弾けるような元気な声が鼓膜を震わせる。病室で流した彼女の震える涙を、そして家族を守るあの温かい背中を知った今、その底抜けの明るさは何よりも強固な盾となって私を守ってくれる。
《だって、瑞希さんと私が、この物語の主役なんですから! 行ってらっしゃい、瑞希さん!》
《そうよ。……世界中の視線を、一瞬で、鮮やかに盗み出してきなさい、瑞希ちゃん》
《私たちの『規律』は、もうあなたの手の中にあります。……信じていますよ、瑞希さん。自分を、信じて》
詩音さんと若菜さんの声が、背中を力強く、この上なく優しく押してくれる。
配信開始まで、あと1分。
私は、デスクの傍らに置いた『西園寺イブ』のオリジナル楽曲『Change the Future!』の歌詞カードを、震える指先でそっとなぞった。
『見えているはずなのに 迷いながら走ってる』
最初のサビのフレーズが、私のこれまでの人生を鮮烈に、そして残酷に映し出す。
かつての私は、常に「正解」が見えていた。大人たちが何を求め、どう笑えば彼らが満足し、どう泣けば「天才」という称号が維持できるのか。結末の分かっている台本をなぞるだけの日々。
けれど、結末が見えているからこそ、私の心の中の秒針は壊れていた。誰かの望む、決められた未来を走らされているだけの自分に、何の意味があるのか。
見えているはずの光が、私にとってはただの眩しすぎる檻でしかなかった。私はずっと、その用意された光の中で、出口のない迷路を彷徨い、怯えていた。
『見えているから 迷わないで走ってる もう一人じゃない』
続く2番のサビ。この数ヶ月間の情景が、胸の奥で走馬灯のように駆け巡る。雨の中で星乃社長に拾われ、3人の仲間と出会ったあの日。
ラーメン屋の立ち上る湯気の向こうで、もやしの山を囲みながら、自分たちの不器用な魂を誓い合ったあの夜。
ひよりちゃんの家で、賑やかな家族に囲まれて気づいた日常の愛おしさ。詩音さんとお出かけし、甘いものにハマってしまった驚きの事実。若菜さんと共に食べた、規律を破る高カロリーな背徳の味。
「この4人でトップを獲る」――。
そんな、誰かに笑われるような途方もない未来。だけど、その目標が『見えた』からこそ、私は初めて自分の足で、地面を蹴って、迷わずに走ることができる。彼女たちがいてくれたから、私は再び、如月瑞希という偽りの仮面を脱ぎ捨てて、マイクの前に立つ勇気を持つことができたから。
そして今。配信ソフトのカウントダウンが、画面上で赤く、激しく点滅を始める。私は、大サビの歌詞を、魂を削り出すような思いで強く、強く噛み締めた。
『見えているけど 新しいページへ向かってる 未来の秒針、壊して もう、迷わない』
かつての、正解に怯えていた「如月瑞希」は、もうどこにもいない。
今、この一畳にも満たないデスクの前に座っているのは、自分の意志で、この声で生きていくと決めた「西園寺イブ」だ。
たとえどんな理不尽な結末が予知できていたとしても、そんな決められた「未来日記」は今、この瞬間に私が、私の声で塗り替える。
誰かに用意された、美しいだけの正解なんていらない。
私が、私の意志で、泥だらけの希望を世界に届けるんだ。
壊れた秒針を、私は今、自らの手で粉々に砕き捨てた。そして、私だけの新しい時間を、この指で刻み始める。
「……Change the Future!」
私は小さく、けれど喉の奥に熱い決意を込めて呟いた。
『3……2……1……』
静まり返った一人きりのアパート。けれど、私の心には3人の絆が、火傷しそうなほど熱い電流となって確かに繋がっている。
私は震える指で『配信開始』のボタンをマウスでクリックした。
カチリ。
小さな、けれど決定的な音が、私の新しい人生の産声のように響く。そして、ずっと停滞していた私の時計の秒針が、今、確実に同じ時を刻み始めた。
オープニングが流れ始めると同時に、私の部屋に閉じ込められていた空気は、瞬時に全世界という名の大海原へと解き放たれる。
私は、画面の向こうにいる何万人もの、いや、これから出会う数えきれない「誰か」に向けて、不敵に、そして慈しむように微笑んだ。
もう、あらかじめ決まった未来を予知する必要なんてない。
この一歩の先に広がる、まだインクも付いていない真っ白な新しいページを、私は私自身の力で、希望という名の色で満たしていく。
『――今、この瞬間に、奇跡を創ろう』
「あ。聞こえてますか?……皆さま、初めまして。FmすたーらいぶFVSとしてデビューすることになりました西園寺イブです。……あたしの視る未来へ、ようこそ」
完
ご愛読ありがとうございました(*^^*)
この4人が本編に登場するのはもう少し先になると思いますが、これからもFmすたーらいぶ7期生ことFVSをよろしくお願いいたします
【追記】
ということで、FVSの物語の完結を記念して、各キャラクター4人のオリジナル楽曲、そしてオリジナルユニット楽曲を
https://www.youtube.com/@%E5%A4%95%E5%A7%AB-k6l
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