結婚式
その日はよく晴れて雲一つない日だった。
婚約した時は短かった髪だが、今では結い上げるのに必要な長さにまで伸びている。純白のドレスはシンプルなものだが華奢な体に合わせて作られており、ドレスで飾らないぶん着ている人の魅力が一層際立つ。装飾は最低限だが相手の瞳の色を使っており、耳飾りが揺れるたびに光を反射して深いはちみつ色が輝いている。
結婚式の参加者は親族と、リリとマルセルの親しい友だちのみで行われた。リリから「ぜひ参加して欲しい」と言われたイザベラはもちろん、ジノも参加している。
「リリ、結婚おめでとう!!!」
誓いを終えると、教会の庭で参加者同士が話せるように軽食や飲み物が用意されていた。ちょっとしたパーティーのような感じだ。そこでイザベラはリリに話しかける。
「ありがとうございます」
「何か困ったことがあったら言ってね。必ず力になるから」
「大丈夫ですよ。マルセルがいますから」
リリがマルセルを見ると、マルセルは嬉しそうに破顔する。
「そうそう。俺たちのことより自分達の心配をしたら?喧嘩するたびにリリを頼られると困るんだけど」
痛いところをつかれる。
「ジノもイザベラを不安にさせちゃ駄目だよ」
「分かってるよ」
ジノは素直に返事をしている。マルセルの言うことはわりと素直に聞くのに、イザベラとは言い合いになってしまうのは納得いかない。
「それより、リリのドレス素敵ね」
「ありがとうございます。無理を言って安くすませました」
「結婚式くらいお金をかけても良いって言ったんだけど、無理だった」
「結婚した後もお金は必要ですから」
「そうなんだけどね」
二人が気軽にやり取りする姿を見て、微笑ましくなる。婚約したと聞いた時はどうなるかと思ったが、リリが幸せなら問題ない。
「イザベラのドレスも素敵ですね」
「へっ。そ、そう?」
イザベラのドレスに話題がうつり焦る。
「珍しい色を着ていると思ったけど、ジノの瞳の色だね」
「やっぱりへんかな?」
「良く似合ってますよ」
「イザベラらしくはないけど良いんじゃない」
らしくはないか。たしかにイザベラは赤のような暖色系の色や濃い緑などハッキリとした色のドレスを着ることが多い。しかし今回はせっかくだからジノの瞳の色にした。
「だから違う色にしとけって言ったろ」
「なによ、好きな人の色を着たいんだからしょうがないでしょ!」
「似合わなければ意味ないだろ」
「リリは似合うって言ってくれたじゃない」
「そりゃ、リリは優しいから。マルセルは言わなかっただろ」
「痴話喧嘩はよそでやってくれる?」
マルセルの一言で二人は大人しくなる。
「悪い」
「ごめんなさい」
「私は本当に似合っていると思いますよ」
「リリありがとう」
リリに慰められ少しだけ元気になる。今回のドレスはイザベラが勝手に用意したものだ。相手の色を纏うということに憧れのあったイザベラはジノから贈られた深緑色のドレスではなく、薄く赤みがかった青色のドレスを着てきた。それを見たジノが動揺したのは仕方ないことかも知れない。
「まあ、ジノも本当は嬉しいと思うよ。ただ恥ずかしいだけでさ」
「マルセル! 余計なこと言うな!」
「そうなの?」
「そうそう。ドレスや観劇なんてイザベラ好きそうだもんね」
「それ以上言うな!」
ジノがマルセルの口を塞ぐ。ドレスと観劇。どこかで聞いたような気がする。
「赤いドレスですか? とても似合ってましたね」
リリの言葉にハッとする。以前屋敷にドレスが届いたことがあった。
「あれってジノからだったの⁉︎」
「なんでバラすかな」
「観劇もイザベラが好きそうなのを選んでたもんね」
「あの、三人とも酷評だったやつ!」
「イザベラが気に入ったから良いんだよ」
観劇後は散々な言いぐさだったのに、そんな風に思っているとは知らなかった。ドレスも好みの物が届いた理由が分かった。イザベラが隠れ家で言った物を送って来たのだから当たり前だ。
「それにしても、良く私の好みだって分かったわね」
「そりゃ分かる。ずっと近くにいたんだから」
「そういえば二人は幼馴染だったね」
「腐れ縁よ」
「仲良いですよね」
「俺は好きで一緒にいたんだけどな」
ジノの突然の告白にイザベラは驚く。
「え! そうなの?」
「まったく気が付かないもんな」
「悪かったわね、鈍くて」
「二人が結婚するときは呼んでくださいね」
気の早いリリの言葉に顔が熱くなる。
「なに言ってんの。まだそんなんじゃないから」
「俺も呼んでよ! 近いうちにさ」
マルセルまで言うもんだから、流れに乗って返事をしてしまいそうになる。ジノの気持ちだってあるのだ。イザベラが勝手に分かったとは言えない。ジノをそっと伺うと満面の笑みを浮かべている。
「なら盛大にやるか。結婚式」
「え、ちょっとそんな簡単に答えていいの?」
「なんだよ? 俺と結婚するの嫌か?」
「嫌じゃないけど、家のこととかあるでしよ?」
騎士団に所属しているが、ジノは侯爵家の人間だ。二人だけで勝手に決めて良いわけがない。
「俺は構わないから安心していいぞ」
「ジノは良いかも知れないけど――」
「不安なら聞く。でも結婚しないって言うのはなしだ」
真面目な顔で言われると本当にどうにかしてくれそうな気になる。
「……ちゃんとプロポーズしたら、ね」
「まかせろ」
頼もしく言うジノにイザベラは微笑むのだった。
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