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ふたたび宿舎裏

 仲間に伝えられた時間より早くにイザベラは宿舎裏へと移動する。足を挫いているせいでゆっくりとしか歩けないというのもあるが、なんとなく落ち着かないせいで早めに来てしまった。ジノに事情をどう伝えようかとあれこれ考えていると時間はあっという間に過ぎる。しかし、とっくに訓練は終わっている時間のはずなのにジノはなかなか来ない。立ちっぱなしも辛いのでその辺の花壇の縁に腰掛けて待つことにする。だいぶ日も傾いて本当に来るのかあやしくなってきた頃、ようやくジノが来る。


「なんでイザベラがいんだよ」


 イザベラを見つけたジノはばつが悪そうに言う。ジノは前回イザベラが呼び出した時とは違い、訓練後そのまま来たと思われるようなボロボロの格好だった。


「遅いじゃない」

「訓練が長引いたんだよ」

「相手を待たせてるの分かってたでしょ?」

「いきなり呼び付けられても、すぐ行けるとは限らないだろ」

「私の時はすぐ来たじゃない」

「あっあれはだな! たまたますぐ終わったんだよ」

「そう」

「で、なんでイザベラがいんだよ。手紙よこしたのイザベラじゃないだろ?」

「なんで分かるの」

「んなもん、筆跡で分かるだろ。イザベラの字はもっと豪快だからな」

「豪快で悪かったわね」

「そうじゃなくて、今度は何の頼み事だ?」

「違うわよ。今回は仲間に頼まれたの。手紙出したけどやっぱり諦めるって」

「なんだそれ。わざわざそれを言うために待ってたのか?」

「こんなに遅くなると思わなかったんだもん」

「……悪かった」


 案外素直に謝られる。

 

「そういえば、ここって有名な告白スポットなんだってね。知ってたんでしょ?」

「は? 誰から聞いたんだ?」

「仲間が教えてくれた」

「俺は知らなかったからな!」

「何回も告白されてるくせに知らない訳ないでしょ」


 そう言うとジノは黙ってしまう。


「それで思ったんだけど……」

「なんだよ?」


 言って良いのか迷う。もし否定されたら立ち直れないかも知れない。しかし確信はある。

 

「ジノの好きな人って私?」


 さりげなさを装ったつもりだが、聞いたとたんに後悔と期待と不安が一気に押し寄せて来て世界がひっくり返りそうになる。しかしジノの顔が真っ赤に染まるのを見て期待が膨らむ。


「……そうだよ」


 なにかと言い訳すると思っていたが、ジノはあっさりと認めた。


「俺が好きなのはイザベラだ」


 その言葉で体の力が抜けてバランスを保てなくなる。ぐらりと倒れそうになるのを、ジノが支えてくれる。


「大丈夫か⁉︎」

「良かった」

「え?」

「急に恋人のふりをやめるって言うから、ジノに嫌われたのかと思った」

「なんだよそれ」


 呆れた顔をされるがイザベラは安堵のあまり気にならない。


「とにかく、遅いから送ってく。歩けるか?」

「ごめん。むり。もう少し待って」

「……待たない。抱き抱えるぞ」

「え? 待って!」


 イザベラの声を無視して、横に抱えられる。仕方なくジノに抱きつき落とされないようにする。


「……」

「進まないの?」

「いや、やっぱり少し待つか」

「なんでよ」


 イザベラを下ろそうとするので、下されないように腕に力を込める。


「なんで力を込めるんだよ⁉︎」

「勝手に抱えといて、理由もなしに無理とか失礼でしょ!」

「……」


 ジノの目が泳ぐ。


「訓練後で汚れてるから……」

「別に気にしないわよ」

「……それに汗かいたし」


 そう言われると気になる。ジノの首すじに顔を近づける。


「やめろ‼︎ 恥ずかしい‼︎」

「気にならないけど?」

「……分かったよ」


 不本意そうにジノはイザベラを抱えて歩いていく。

 宿舎裏から少し歩いた門の近くまで行くと、バルナ家の馬車が見えてくる。

 

「馬車があるなら最初から言えよな」

「知ってると思ってた」


 馬車の前でイザベラはおろしてもらう。普段イザベラは屋敷から通っているのだが足を挫いたため馬車で来ることを認められていた。しかしさすがにジノは知らなかったらしい。


「とにかく、気をつけて帰れよ」

「ここまでありがとう」

「じゃあな」

「あ、待って」


 さっさと戻ろうとするジノを呼び止める。


「まだなにかあるのか?」

「ちょっとこっち来て」


 手を動かし、こちらへ来るように促すとジノは素直にイザベラの前まで戻ってくる。


「さっき言いそびれたから」


 不思議そうな顔をするジノの耳元へ囁く。


「私も好き」


 それだけ言うと馬車に乗り込む。

 

「え?」

「じゃあまた明日」

「は? ちょっと待て! おい!」


 茫然とするジノには構わずに馬車は動きだす。イザベラは満足気に馬車に揺られて屋敷へと帰るのだった。

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