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この気持ちは

 イザベラはぼーっと仲間達が訓練する様子を眺めている。本来ならイザベラも一緒に訓練するのだが、足を挫いてしまったため、しばらく安静にするように団長から言われている。足を治すことを優先させるため、片付けなど体を動かすような仕事は禁止された。そのため剣や甲冑の手入れ、仲間の訓練を見学するなどして日中を過ごしている。

 イザベラの所属する第四騎士団はちょうど休憩時間のため第一騎士団の練習を見学しているのだが、間の悪いことになぜか第二騎士団所属のジノがいるのを見つけてしまう。イザベラには気がついていないようで、他の騎士団員と楽しそうに話をしている。


「まーた、ヴィクトル団長を見てるの?」

「え?」


 突然騎士仲間に言われて驚く。仲間が見ている方を向くと確かにそこにはヴィクトル団長がいる。


「ほんとだ」

「あれ? 気づいてなかったの?」

「うん」

「やっぱり休んでたら? イザベラがヴィクトル団長に気が付かないなんて疲れてるんだよ」

「そうかな」


 たしかに団長には気がつかなかった。けれど足を挫いてからはほとんどやる事もなく、夜もぐっすり眠っている。疲れるようなことはしていない。ただ、時間があるせいか考えごとをすることが多くなったような気はする。団長に向けていた視線を戻すと、ジノがこちらを見ていた。目が合ったような気がしたけれど、すぐに顔をそらされる。そのことに少なからずショックを受ける。


「イザベラってさ、ジノのことどう思ってるの?」

「んなっ、ななんで⁉︎」

「そんなに驚かなくても」

「ごめん。急すぎてびっくりした」

「だって仲良いでしょ」

「どこが? 会うと喧嘩ばっかりだよ」

「そうかな。二人とも楽しそうに見えるけど」

「そんなわけないじゃない」

「えー」


 なぜか不満そうだ。


「でも嫌いじゃないんでしょ?」

「そりゃあ嫌いだったら話したりしないわよ」


 ましてや恋人のふりなど絶対に頼まない。


「ならさ、友だち?」

「うーん」

「珍しくはっきりしないね」


 ジノと友だちかと言われると悩む。幼馴染ではあるが友だちではない気がする。だからといって親友とも違う。


「私ね、告白しようと思って」

「誰に?」

「ジノに」


 仲間の言葉に剣を振り下ろされたかのような衝撃を受ける。


「ええ? え? 待って? なんで?」

「そりゃあ好きだから?」

「うそ⁉︎ なんで疑問形なの?」


 混乱してよく分からない質問をしてしまう。


「一応、イザベラの気持ちも聞いておこうと思ったんだけど良いよね?」

「待って。いつに?」

「どういうこと? 良いなと思ったのはわりと前から」

「ちがう。告白するの!」

「ああ。今日の訓練後」


 はにかみながら笑う仲間にイザベラは声を出せない。本来なら応援するところだ。なのに裏切られたような気持ちになってしまう。ジノが好かれるという話をマルセルもしていたし、実際に令嬢と仲良く話しているところを目の当たりにもした。しかし今まではどこか他人ごとだった。イザベラの知らない誰かだったから見て見ぬふりをした。胸の苦しみに気づかないふりも出来た。けれどイザベラと仲の良い仲間の場合はどうすれば良い。


「応援してくる?」


 イザベラの顔色を伺うように見つめる仲間に、必死で笑顔を取り繕うとするが難しかった。


 「……ごめん」


 なんとか声を絞り小さくそれだけ言う。仲間は気分を害した気配もなく安心したように息を吐く。


「良かった」

「え?」

「応援するって言われたらどうしようかと思ってた」

「どういうこと?」


 混乱するイザベラに仲間はいたずらが見つかった子どものような申し訳なさそうな顔をする。


「ジノが好きなのは本当だけど、イザベラのことも大切な仲間だからさ。仲間を悲しませてまで付き合いたくはないんだ」

「それって」

「だから、イザベラの本音が知りたくて鎌かけてみた」


 そう言われて怒りよりも安堵が勝る。


「ジノのことは?」

「もちろん好きだよ。けど仲間の方が大切だし、それにふられるのは分かってるから」

「なんで? 告白してみないと分からないじゃない」

「分かるよ。好きな人が誰を好きかなんて」

「そういうもの?」

「私はね」


 不思議に思って尋ねるもなぜか苦笑いされる。


「そうだ、呼び出したのに告白しないのも変だから、代わりに行ってイザベラから断っておいて」

「なんで私が?」

「だって仲良いでしょ! 訓練後に宿舎裏に呼んでるからよろしくね」


 そう言って立ち上がると、イザベラの耳元に口を寄せる。


「あそこ、有名な告白場所だから何とも思ってないなら勘違いされないようにね」


 それだけ言うと、さっさと訓練場へと戻っていく。残されたイザベラは何も言えずにその場で顔を伏せ、以前恋人のふりを頼んだ時に宿舎裏に呼び出したことを思い出す。とんでもないことをしでかしていた自分に顔から火が出そうなほど顔が熱く火照る。イザベラはしばらく、その場から動くことができなかった。

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