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【書籍化】骨姫ロザリー ~死者の最期を追体験し、力を引き継ぐ~  作者: 朧丸
第四章 暗雲低迷、雷鳴轟く

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367 逃避行―中

 熱を出したベルを背負い、海岸線に向かって森を歩くウィニィ一行。


「っ! 海の匂いがする!」


 突然ウィニィが声を上げ、全員が立ち止まった。

 耳を澄ませば波音も微かに聞こえる。

 目指していた海が近い。

 あとは海岸線に沿って西へ行けば、ドーフィナ伯の居城にたどり着けるはず。

 逃避行の終わりが見えて、四人の気持ちがわずかに緩む。

 と、そのとき。

 四人が同時に天を仰いだ。


「また雨……」

「まずいな」


 ロイドの背に負ぶわれたベルに視線が集まる。

 ベルはロイドの背中に顔を伏せ、息をするのも辛そうにしている。

 回復したようにはとても見えず、むしろ悪化していると思われた。


「どこかで休ませないと」


 ロイドの言葉に皆が頷いた。



 四人は互いの姿が見える範囲で広がって、身を隠しつつ休める場所を探した。

 するとすぐにアイシャが声を上げた。


「灯りが見える!」


 残りの三人がアイシャの下に集まる。

 木の陰から木の陰へ移りながら、明りの元が見える場所まで進む。


「小屋だ……」

「漁師小屋のようですね」


 あばら家の一歩手前といった風情の小屋の周囲には、網や銛、古びた小舟などの漁の道具が置かれていた。

 灯りは小屋の中。

 今、影が動いた。


「人がいる……」

「大丈夫かな」


 テレサの「大丈夫」の意味は、小屋の中の人物が暗殺者である可能性はないのかということだ。

 アイシャが言う。


「大街道を外れて、まっすぐ北に来たわ。予測するのは難しいと思うけど……」

「先回りはできないはず、か。ウィニィ様?」

「そうだな……」


 ウィニィは指を噛み、考えている。

 ロイドは彼の癖を見て「昔のままだな」と思った。


「それに、ウィニィ様。いざとなればベルを漁師に預けていくこともできます」

「っ、それはできない」

「ベルの言葉をお忘れで? 狙われているのはあなたです」

「でも、暗殺者でなくたって、弱っている女性を一人置いていくなんて危険だろう」

「それでも、暗殺者に狙われているウィニィ様よりは危険ではない」


 ウィニィは言い返せなくなり、大きくため息をついた。


「……自分の力が恨めしいよ」

「ん? それはどういう意味です?」

「今こそ予知がほしいのに、まったく働かない」

「ああ……でもそれは、ウィニィ様の身に危険が迫っていないという証拠では」

「そうかもしれない。……頼んでみよう、とにかくベルを休ませたい」

「ハッ」


 ロイドはベルをアイシャに任せ、小屋へ向かった。

 彼と距離を空けてアイシャが続き、ウィニィとテレサは木陰に身を潜める。


「――夜分にすいません。どなたかおられますか」


 ロイドがノックすると、ボロ小屋の扉がかなり軋んだ。

 灯りが揺らめき、人影が動く。

 扉越しに返事が返った。


「へえへえ。どちらさまで?」

「旅の騎士でございます」

「騎士様? こんなあばら家にどうなされた」

「仲間が雨に降られて熱を出しまして。少しだけ休ませてはいただけませんか」

「ありゃまあ、そりゃ大変だ」


 扉が酷い音を立てて開き、中の人物が顔を出した。

 日によく焼けた顔。

 顔や腕に傷のある、長年漁で生計を立ててきたであろう初老の男だった。


「ああ、後ろの負ぶわれている方。三人ですか?」

「失礼」

「おっと」


 ロイドは男を押し退けて小屋に入った。

 狭い一間で、中央に薪ストーブ。

 奥に質素な寝台。

 壁際に大きな水瓶があり、木製の樽が二つ転がっている。

 漁の道具らしきものはたくさんあるが、人が隠れられそうなのは水瓶くらいか。

 ロイドが水瓶を覗き込むと、中は底から二十センチくらいの水があるだけだった。

 ロイドが部屋を出て、木陰へ頷いて見せる。

 ウィニィとテレサが姿を現した。


「ご無礼を。五人です」


 ロイドはそう言って、男の手に金貨を一枚、握らせた。

 男は手を開いて目を見開き、それから満面の笑みを浮かべながら腰に吊るした財布に金貨を突っ込んだ。


「ほれ、御病人はこちらへ」


 男は自分の寝台をストーブ近くに引き寄せて、そこにベルを寝かせた。

 そして男は「病人には温かいスープが一番だ」と言って、夜間にもかかわらず魚を獲りに小屋を出ていった。


 小屋に五人。

 静まり返った空間に、ベルの荒い息だけが響く。


「――っと。私、外で見張るわ」


 いたたまれなくなったのか、アイシャがそう言って立ち上がった。


「一人で大丈夫か」

「問題ないわ」


 アイシャがうるさい扉を開けて小屋を出ていく。

 テレサは樽を扉のすぐ横に動かし、そこに陣取った。


「ウィニィ様も少し休んでください。ベルは私が見てますので」

「……そうだな。そうさせてもらう」


 ウィニィはロイドの言葉に反論せず、もう一つの樽を壁際に置いて、そこに座って壁に寄りかかり、目を閉じた。

 ロイドは寝台に腰かけてベルの横顔を見つめた。


 ――それから、しばらくして。

 薪の爆ぜる音に眠気を感じていたロイドは、袖を引っ張られて我に返った。

 引っ張っているのはベルだ。


「気がついたか? 少し良くなったようだ」


 そうは言ってみたものの、相変わらず顔色は悪い。

 ベルは首を振り、何かを言った。

 聞き取れなかったロイドが、ベルの口元に耳を寄せる。


「ひも……きず……」

「紐? 傷?」

「おもいだして……」


 と、そのとき。

 扉が激しく鳴って、扉が開いた。


「いや、待たせたね。なっかなか魚がいなくて貝にしましたよ」


 男は壁に掛けてあった鍋を取り、そこへ腰の網袋から貝をガラガラッと乱暴に入れ、水瓶から水を足してストーブの上に置いた。


 やがて――鍋が煮立つ。

 男が鍋を混ぜると、貝の出汁で湯が白濁していく。

 次に男は戸棚から小瓶をいくつか取り出し、白い粉や油のようなものを鍋の上で振りまいた。

 ロイドが男に尋ねる。


「調味料はあるんですね」

「へへ、必需品でさ。でなきゃ全部、海の味になっちまう」

「なるほど。そういうものですか」


 ロイドは、まじまじと男を観察した。


(屈強な身体。漁師だから――そう思っていたが、騎士でも通るな)

(それに傷――漁師は銛や頑丈な糸を使うから、傷はつきものだと気にしなかった)

(だが――これは刃傷かもしれない)

(傷。ベルが言っていたな。では紐は――?)


 ロイドは男の身体に紐を探した。

 男は薄汚れたチュニックを着ていて、腰を革のベルトで絞っている。

 そのベルトに紐が結ばれていて、小さな革袋の財布に繋がっていた。


(財布紐の結び方――学生時代、よくウィニィ様がやってたやつだ。簡単に結べるが、解くのに苦労する)

(……漁師がこんな結び方をするか?)


「さ、できました!」


 男は鍋から離れ、戸棚から椀を取り出した。

 それからスープを椀に入れ、壁際に座るウィニィに差し出した。

 しかし、ウィニィはそれを受け取らなかった。


「んっ? どうされた?」

「……なぜ、僕に渡す?」

「へえ? いや、なぜって」

「病人は彼女(ベル)だ。普通、まず彼女に渡すだろう?」

「あ、ええと……じゃあ、お嬢さんに。へへ……」


 男は愛想笑いを浮かべ、身体を反転させて椀の行き先をベルに向けた。

 その瞬間、椀を持っていない左手が腰の後ろに伸びる。


「!」


 それを見たロイドはダンッ! と一歩踏み込んだ。

 そしてそのまま剣を抜き打って、男の左腕に斬りつける。

 男の左腕が切断され、宙を舞った。

 男は驚いて、椀を取り落とした。

 そしてロイドから後ずさりつつ、残った右手が腰の後ろへ動く。


「テレサ!」

「ッ、シッ!」


 テレサは素早く駆け寄り、男の背中を斬りつけた。

 男は仰け反り、それから前に倒れかかる。


「ごめ、浅い!」


 テレサがそう言い、ロイドがハッと見ると、男は深手を負いながらも腰から短剣を抜き、ウィニィに突きかかろうとしていた。


「くッ、ウィニィ様ッ!」


 ロイドが間に入ろうとするが間に合わなこった。

 ザシュッ。

 致命の一撃が入り、血飛沫が舞った。

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― 新着の感想 ―
答え合わせは次回以降として先に追い付くのが誰になるのかが楽しみです
なんという急展開 敵の腕が想定以上に長かったという事なのか、それともハズレ前提で万が一と用意した伏兵に捕まってしまったウィニィーたちの運が悪すぎるのか ドーフィナを目指すこと自体は読まれていただろうけ…
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