第十六話 火起こし
「もう一度、屋敷内を隅々まで調べる必要がありそうだね」
レインの言葉を受け、今度は三対三でチーム分けが成された。相も変わらずアランとザクレイさん、ザクレイさんとレインは別のチームだ。
必然的に、僕はレイン、アランの二人と共に屋敷の半分の探索に当たった。もう半分はザクレイさんが先導するチームによって探索が成される手筈だ。
だが――。
少し采配をミスったな、と僕は感じていた。
今朝【少しでも誰かに見つけてもらうべく】なる理由で屋敷の外に出た人物が三人いる。
アラン・アディ・アリスの三人だ。
もしもこの中に【ソノモノ】が潜んでいた場合。
焚火に乗じて、ロープを燃やしてしまったに違いない。やはり、外出は許可するべきではなかったのだ。
探索の結果は言うまでもなく。
ロープのようなものを見付けることは出来なかった。
「そっちは?」
レインの問いかけに、ザクレイさんは首を横に振る。
アディとアリスも同様の反応を示した。
「こっちも何もなかったぜ」とアラン。
「そもそも、ユキトの推理が正しいっていう根拠はあるの? 例えば、落下防止柵に付いていた跡は以前からあった……そんな可能性はないワケ?」
希望的観測に基づいたアリスの言葉だが、残念なことにそれはあり得ない。
それを断言できる人物はこの中に三人いる。
僕とレインとザクレイさんだ。
「ここにやってきた当日、僕は屋敷内全ての絵画を一度だけ遊覧している。もちろん二階と三階のもね。その際、誤って落下してしまわぬようにと、僕は落下防止策柵に手を添えながら歩いていた。
もちろん視線は絵画に注がれているが、移動するときにはしっかりと防止柵に目を向けていたよ。そしてその時には、あんな擦れたような痕跡はなかった」
間違いなくね、と僕は言い添えた。
「私もこの屋敷の清掃には力を入れております。塵一つ残さぬようにと。そんな私が、あのような跡を見逃そうはずがございません。つまり、アレはここ最近になって出来たものであると、そう考えるのが自然なのです」
「そんな……。でも、だとしたらロープはどこに消えちゃったっていうの?」
僕はあえて口を閉ざした。
だが、レインはわざとらしく、
「消し炭になって消えたのかもしれないね、今日の朝」
そんなことを言うのだった。
やはりレインもストレスが溜まっているのだろう。
「聞き捨てなりませんね」
アディが一歩、前に出る。
「私とアランとアディ、三人の中に犯人がいると、私にはそう聞こえましたが?」
「別にそうは言ってないよ」
二人の応対に挟まるようにして、ダァンッ! と大きな音が。見やると、アランがフー、フー、と息を荒げていた。
「貴様、この俺に疑いをかけるってのか、ええ? アレクサンドラとかいうお前の妹を救ってやったこの俺たちに、お前は疑いの目を向けるのかッ!!」
これは失礼しました、とザクレイさん。
言いながら、その右腕が思いっきりレインの頭部を鷲掴み、お辞儀の格好をさせていた。
「あいててて! わ、悪かったよ! 僕もちょっとピリついていたんだ」
ザクレイさんに解放され、レインは首周りをコキコキと鳴らした。
「いや、本当に失礼致しました。僕も少し頭を冷やした方が良いかもしれませんね」
「分かればいいんだよ。……ったく、俺たちが仲間を殺す訳がねえってのに」
アランは、一応は溜飲を下げた様子だ。
流石はザクレイさん。彼の行動がなければ、アランはレインを殴っていただろう。そうなればどんな騒ぎになっていたことやら。この状況での混乱事はなるべく避けたい。ザクレイさんには感謝だ。
「ところで焚木はどうなったんですか? 上手く煙は立ちましたか?」
僕が問うと、アランはグッドサインを出した。
「バッチリだ。あの感じだと、森よりも高くに昇るだろうよ。……これで誰かの目についてくれれば最高なんだがな」
はて、どうだか。
島から立ち昇る一つの煙。それを見ただけで救援サインだと気付ける人間がいるとは、僕には到底思えなかったが。
しかし彼らが満足しているというのならわざわざ水を差す必要性もない。
「……僕も少し休もうかな。ちょっと仮眠を取ってきます」
僕は大広間を去り、自室・1番の部屋へと引き返した。
そしてダブルベッドにダイブした。
「ふあ~……」
流石に、少し疲れてしまった。
色々と考えを巡らせすぎたのだろうか? 少し頭痛の症状も出てきていた。
今日はもう全てを放棄しよう。
仮眠を取って、夕食を頂いて、そしてそのまま眠ってしまおう。
「明日だ」
僕は誰もいない虚空に向かって呟いた。
明日、もう一度状況を整理しよう。
なにか見逃していることは無いか?
なにか重大な勘違いをしてはいないか?
そういったことを、この小島に訪れた瞬間にまで遡って、一つずつ思い出していって、そして矛盾点が見付かり次第随時メモを取って――。
そして突き止めて見せよう。
この十字架屋敷に潜む怪物……【ソノモノ】の正体を。
正体を明かしてしまえばあとは簡単だ。
全員で取り囲み、手足を拘束し身動きを取れなくする。基本的にはアランとザクレイさんに見張りをさせ、たまに僕たちが数人体制で監視する。
それを帰りの船が来るまで繰り返すだけ。
そして帰りの船には【ソノモノ】以外の全員で乗り込むのだ。
あとは、憲兵がこの島に突入してゲームセット。
【ソノモノ】は身動きも取れないままに身柄を拘束され、殺人の罪で地下牢行き。最悪の場合は極刑に処されるだろう。
僕は一度起き上がり、鍵の確認をする。
「うん、問題ないな」
しっかりと施錠が成されていることを確認した僕は、安心して床に就いた。




