8話 ヒーローさん計画を立てましょう
よろしくおねがいします
「食いながら聞いてくれ。今の目標はこの子。ポノラちゃんを目覚めさせること」
「異議なーし」
「僕も。そこらへんは任せるさ」
「よし。それじゃその手段なんだが──」
やはり、彼女を起こすには『オアシス』を入手する必要があるらしい。一応、この数日で肩を揺すったり、頬をぺちぺちしたりしたが、起きる気配がなかった。
『オアシス』は現在、裏社会のトップ、渦間 築が海外から輸入して、日本で売りさばいていると瞬は言った。
そして販売方法は渦間、本人から買い取る方法と、半グレが仲介しているオークションの2つのみらしい。
「というわけで、オークションから『オアシス』をくすねることにしようと思う」
「そこなんだがよ。オークション会場がどこにあるのかっつーのが、まったくわかんないだぜ?そこはどうするよ」
箸をこちらに向ける京介に、瞬は説明する。
「オークションが開催されているのはだいたい決まった場所なのさ。浅草、新宿、八王子、渋谷、そして原宿の5つ」
「東京か……面倒だな」
ここから、東京まで移動するとなると、不安な点が2点ある。
一つは、移動中に人に見られる可能性がある点だ。どこに向かっているのかをネットで晒されれば、移動先にいたヒーローに待ち伏せをされてしまい、オークションどころではなくなってしまう。
もう一つは、向こうについてから会場を見つけなければいけないということ。
東京の何千ものビルが立ち並ぶ繁華街の中から、5つの会場を見つけるのは非常に困難であると予想がつく。
「俺が陽動すれば、移動中に見られることはないだろうけどよ。問題は会場だな」
京介はうどんをすすると、汁を味わうように飲み干した。こいつ、もしかしてうどん好きなのか?
「申し訳ないけど、僕も会場までは分かんないな」
「となれば、あいつに聞いてみるしかないな……」
「げぇぇ……俺あいつ嫌いなんだよな〜」
露骨に嫌そうな顔をする京介だが、これには俺も同感だ。あまり気乗りはしない。
「けどさ、裏社会に通じてる人間なんて、あいつしか知らないぞ」
「そうだけどよぉ……」
「そんなに嫌なのか?お前ら、計画のためならなんでもするって感じなのに」
多分、会えば君も嫌いになるだろうよ。あいつとは小学校からの腐れ縁だが、あいつの人間性を好きになったことは一度もない。それは京介も同じだと思う。
あいつはなんというか……狂人じみてる。京介も戦い大好きな変態だが、あいつとは変態さのベクトルが違う。
一言で言えば、自分のエゴを最優先に動く研究者だ。
これだけでも危険な香りがプンプンする。よく漫画に出てくるマッドサイエンティストとほぼ遜色ないといえる。
「ともかく、あいつに会い、オークションの場所を知っているかを聞き出す。それでいいな」
「……」
「僕は異議なし。というか、僕はお留守番だから関係ないや」
「いいや、瞬は俺と来てもらう。留守番中に脱走されたら困る」
「えええ!僕の疑いって晴れたんじゃないの!?」
念の為だ。信頼をするにはまだ早い。
京介は行きたくないようだし、そっちの方があいつにとっても好都合だろ。
「それじゃ、そういうことだから、留守は頼むわ」
「助かる……」
なんで京介がこんなに嫌がっているのかは……まあ行けばわかる。ちなみにこのアジトをつくる上で、あいつにはかなり協力してもらった。
なにせ、あいつ──科学ヒーロー『ハピネス』に、ここら一帯の土地を買ってもらったからな。そうでなければ、樹海に穴を掘ってそこに住居を作るなんて犯罪もいいとこだろう。
準備を済ませ、アジトを出た。外はもう夕方で、西日が木の葉の間から細く薄く、樹海の中を照らしている。
アジトの周りは木々に囲まれていて、外から見ても、そこにアジトの入り口があると、誰も分からないだろう。北には川が流れていて、当初は水をそこから汲んでこうようと、考えたが時折、水の中に赤いのが混ざっていたので止めておいた。
外に出るということで、服装はとりあえず、フードのついたパーカーを着て、目深にフードを被った。これで多少は素顔を隠せるだろう。
瞬は青年に擬態した。擬態……こういう時、便利だな。
「そういえば、瞬」
「ん?」
「お前、ジュピターの研究室でなにやってたんだ?」
素朴な疑問だ。ここ何日か過ごした中で、この子は特別頭が良いわけではないことが分かった。
ならば、なぜこの子が研究室なんかにいるんだ。歳も10歳らしいし。
「ポノラの見張りと観察日記を書くことと、あとはオアシスを運ぶ業者との仲介さ」
なぜ瞬がそれをしているのかを尋ねると、なんでも瞬は捨て子らしく、それを拾ったのがジュピターらしく、その恩返しだそうだ。
アンダードッグという名前は、瞬が英雄戦技に目覚めた時に、ジュピターにつけてもらったとのこと。
あいも変わらず、人に恩を売るのが上手いな。──これにも何か裏がある、とあいつの元でしばらく過ごした俺の勘が言っている。
しかし、道が悪いな……。手頃な枝を拾い、道を切り拓いていく。あまり歩いた形跡を残したくないのだが、こうも歩きずらければ致し方ない。
「ねえ。そのハピネスってどこにいるんだ?」
あと少しで森を抜けるところで瞬が言った。そういえば、まだ言ってなかった。
「あそこ」
木々の頭から、ビルの屋上が顔を出している。あのビルの最上階。あそこにハピネスは引き籠もっている。
「マジか」
「マジだ」
瞬くんのヒーロー名なのですが……いや、止めときます
この樹海、かなりの自殺スポットなので幽霊が出るとか出ないとか