9話 悪の会合
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悠里たちがハピネスの元へ向かったころから、遡ること、二時間前。
東京の某ビルにて、男が三人、女が一人で高級フレンチを味わっていた。
彼らが食べている料理は神戸牛のローストビーフに、付け合せの柔らかく蒸されたアンディーブに、キノコ、黒トリュフ、そして、ソースにも惜しげもなくトリュフが使われている、庶民には到底、手が出せないほどの高級料理だ。
ワインも極上のもので、色合いも滑らかさも、そのすべてが完成された美しさを持っている。
彼らは相当に裕福であるらしい。
一人はツーブロックの髪型で、耳にピアスが何個も付けていて、舌にも一つピアスを付けている。男はニヤニヤと、もう一人のパジャマ姿の男に言った。
「なんや兄貴、聞いたところによると、あのガキにこっぴどくやられたみたいやないか。かっかっか!」
「ははは!いやはや、予想外だったよ。まさか悠里くんが生きていたとはね。せっかく実験に付き合ってもらおうと思った矢先に逃げ出したあの子……どこかで野垂れ死んでいると思っていたのに、まさか警察になっていたなんて」
パジャマ姿の男はやれやれといった表情で、キノコを食べた。キノコが好物なのか、舌にのせた途端に頬が緩ませた。
「……」
もう一人の男はロン毛で椅子には物干し竿よりも長い刀を立てかけている。服も和服なので、洋風な部屋の雰囲気には合わず、時代劇の世界からこの世界に迷い込んだように見えてしまう。
彼は黙々と料理を味わって、会話に参加しようとしない。
「杏ちゃんもまたしばらく見ないうちに可愛くなったな〜。どや!わいと一回、二人で飯でも行かんか?」
ケバい女は杏というらしい。ツーブロックの男はフォークをケバい女に向ける。
「やめてよ。冗談じゃないわ。あんたと寝るよりだったら、あの坊やと寝たほうがマシよ。ま、わたしはジュピター様との方が……」
パジャマ姿の方に杏は熱い視線を送った。ツーブロックの男はおもしろくなさそうに、
「あんなガキンチョのどこがいいんだか。わいの方が色男やろがい。なあ?」
「知らん。それでジュピター様、我々をここにお呼びになったのは何か理由があってでは?」
「そそっ!それじゃあ本題にいこう。実はすがるくんが能力に目覚めたみたいなんだ。この腕がその証拠」
いつもの笑顔でジュピターは言った。各々が持っているフォークとナイフ──ロン毛の男は箸──を置き、神妙な面持ちでジュピターに視線を移す。
「知っての通り、彼女は我々、ヒーローの敵、つまりは怪人だ。彼女が英雄戦技に目覚めた今、彼女を本格的に殺すように動かなければ、我々の立場が危ない。先日、全世界の著名なヒーローに招集をかけたが、彼らにも国の防衛、治安維持があるので、全員が来れるかは分からないそうだ」
「おいおい。その証拠のガキ、悠里んとこにいるんやろ?どないすんねん!本体のすがるも見つからないし」
「何かお考えが……?」
ロン毛の男がジュピターの顔色を伺うように聞く。
「ない──わけではないけど、これには少々リスクがあってね。悠里くんはかなり強くなっている。あの子と正面からぶつかれば、確定でここにいる内の誰かが『死ぬ』」
その単語に、一同が動揺を見せる。
「坊やが?」
「あのガキが!?」
「あの子が……そんなに」
ロン毛の男はどうやら、悠里に特別な想いを持っているのか、一人だけ嬉しそうにしている。
「かっかっかっ!兄貴そりゃつまんねー冗談やな」
「嘘ではないのだがな……まあともかく、彼はあの子を起こすために『オアシス』の入手に出ると思う。そこで、オークション会場の警備を」
「兄貴任してくれや。わいがちょちょいっとあのガキ、潰したる。姉弟殺せるなんて最高やな」
邪悪な笑みがこぼれる男に、呆れたようにため息をついたのが杏だった。
「あんた、話聞いてなかったの……?ジュピター様がここまで言ってるってことは相当よ?」
「杏さん良いじゃないですか。不良ヒーロー『風楽武』が言ってるんですから、きっと言った通りに倒してくるのでしょう。なにせ彼は悠里くんより強いらしいですし」
風楽武はそう煽られると、唾を吐き捨て出ていってしまった。
「やれやれ、あの子はなんでああ喧嘩っぱやいのかね」
「ジュピター様!風楽武になぜ、まだ招集をかけるのですかッ!命令は聞かないし、女をはべらせ、国民からの信頼もこの中では頭一つ抜けて低いのですよ!?」
ロン毛の男はテーブルを叩いて立ち上がった。衝撃でワイングラスが倒れるが誰も気にせずに話を続ける。
「命令だなんてとんでもない。私は君たちにお願いしているだけだよ。決めるのは君たちだ、違うかい?」
「ですが……」
「斬切……あんたまだ、あの時のこと気にしてんの?あいつの奇行はいつものことでしょ?」
「だからといって!子供の前であのような……殺す必要もなかったでしょう!?」
「じゃああんたはなんでそれを止めなかったの?あんたは止めもせずにただ見てたらしいじゃない!」
杏は斬切の胸ぐらに掴みかかる。斬切は悔しげに、
「あれは……あれは……」
パクパクとそれだけを言った。杏は舌打ちして、手を離し、椅子に座り直す。
「そんなやつが文句垂れてんじゃないわよ」
「二人とも。それくらいに。せっかくの料理が台無しじゃないか。アフリカの子供たちは食べる物が無い中、今も賢明に生きているんだ。それで我々が食べ物を粗末にしたら、私は世間様に顔向けできないよ。ささっ、君も座って、仕切り直しだ」
ジュピターは手を叩いてウエイトレスを呼び、ワインを再度注がせた。
それから斬切が口を開くことは無かった。
あの料理、サラリーマンの年収と同じ値段します
まあフルコースなんでそれくらいはするんですよ……こいつらの食事って……
斬切の刀なんですが元ネタがしっかりあるので気になる方は調べてみてはどうでしょうか?
カッコイイですよ




