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第37話.試験結果が発表されました

 


「リオーネ様。掲示板を見に行きませんか?」


 リィカちゃんとシルビアちゃんに声を掛けられ、私は「そうね」と頷いて立ち上がった。


 今日は中間試験の結果が発表される日だ。

 スティリアーナ魔法学園の中間試験は、年二回。六月下旬と十二月上旬に行われる。

 それに二月の学期末試験を含めて、大きなテストは年に三回行われている。


 今回の前期中間試験期間は三日間。

 初日は人理学、歴史学の筆記試験。

 二日目は魔法基礎学、魔法薬学の筆記試験。

 最終日は実際に魔法を使っての実技試験だった。



 そしてこの三週間……我ながら本当によく頑張ったと思う。


 平日は授業が終わると部屋に戻り、その日の授業内容を復習。

 休日は毎日クレアちゃんと勉強会をして、分からないところは教えてもらいつつさらに勉強。

 何とテスト前の三日間は、貴重な睡眠時間を十時間から九時間に減らし、文字通り命を削るような思いをしながら机に向かった。


 テストが終わった直後、すべての記憶は空の彼方に飛んでいったので何も覚えてはいないけど、最終日はそのおかげか気持ちよく魔法をぶっ放せたよ。


 そんな私の願いはただ一つ。どうか赤点じゃありませんように!

 祈るような気持ちでリィカちゃんたちと共に廊下を突き進む。

 掲示板前には既に人だかりができていた。


「わぁ、すごい人ですね」


 シルビアちゃんがそう呟くと、そんな彼女を見遣る羨望の目がちらほら。

 ……さすが優等生のシルビアちゃん、やっぱり名前があったんだろうな。

 なんて思いつつ、私は掲示板を見遣る。


 掲示板に貼り出されるのは、それぞれの学年で一~十位だった生徒の名前だ。狭き門だね。

 といっても、一年生だけで張り紙は二枚用意されている。筆記試験と実技試験の結果が、別々に発表されるからだ。


 えーっと、筆記試験の上位者はっと……



 一位 ユナト・ヴィオラスト

 二位 ライル・アコーティオ

 三位 シルビア・ギロ



 うむ。ここは過去五回のループとまったく同じ結果だね。

 リィカちゃんはといえば、それを見てかなり盛り上がっている。


「すごいわ、シルビアさん。三位ですって」

「あら。ワタシがですか?」


 シルビアちゃんは驚いた様子だった。そんなシルビアちゃんに私も「おめでとう」と笑顔で声を掛ける。さすがです。

 さて、それ以外に知っている名前は……って、あっ!


 クレアちゃん、十位にランクインしてる!

 すごいすごーい! 前のループのときは十七位だったって言ってたから、今回はそれよりも順位を伸ばしたってことだよね?

 週末は私のためにずっと時間を割いてくれていたから、大変だったに違いないのに。


 張り紙を前に感動していたら、遠くで掲示板を眺めているクレアちゃんを発見。

 私の視線に気がついたらしく、「あっ」というように目を見開くと……はにかんで小さく手を振ってくれた。

 思わず私も笑って振り返しちゃう。本当におめでとう、クレアちゃん!


 ちなみに私の名前は当然のことながら、ありませんでした。そりゃそうだね。

 じゃあそろそろ帰ろう、とリィカちゃんたちに声を掛けようとしたところで……お友達二人が同時に勢いよく振り向いたので、私はビクッとした。


「リオーネ様……素晴らしいです!」


 え? 何の話?

 戸惑いつつ、二人が指し示す方を見遣る。

 筆記試験結果の隣に貼り出された、実技試験の結果――。



 一位 ユナト・ヴィオラスト

 二位 ライル・アコーティオ

 三位 エレノール・アサット



 そこからさらに視線を下に落としていくと。



 六位 リオーネ・カスティネッタ



 ……ええっ!

 わ、私、実技試験で学年六位だったの?

 嘘。ドッキリとかじゃないよね?

 きょろきょろ周りを見回すと、何となくみんなが羨望の目でこっちを見ているような!?


「リオーネ様、本当にすごいです……」

「よく水魔法を暴発させてあちこち水浸しにしていたリオーネ様が、すっかり成長なさって……」


 ちょ、ちょっとやめてよ二人とも! そんなお母さんみたいな顔で涙ぐまなくても!

 笑顔で涙しているリィカちゃん達の真ん中でオロオロしていると、


「……へえ。実技は六位なのかリオーネ」

「本当だ。すごいね、カスティネッタさん」


 おわっ! 出たなユナト! そしてライル!


 ツートップの登場に、周囲の生徒がさざめき立つ。

 このエンカウントを避けるために早く教室に帰りたかったんだけど、遭遇してしまったからには仕方ない。最低限の会話をしないと。


「ほんのまぐれですわ。それよりお二方とも流石でいらっしゃいますわね」

「別に。こんなの当然だ」

「あはは。ありがとう」


 せっかく褒めてやったのに憮然としているユナトと、飄々とお礼を言ってくるライル。


「それよりもお前、どうして勉強会の誘いを断ったんだ」


 ぎゃあ! こんなところでそんな話しないでよ!


「聞きました!? 今、ユナト様が勉強会って!」

「お誘いされたリオーネ様が断ったということ!?」


 一気に周りの生徒からそんな話し声が聞こえてくる。まずい、注目されている。


「お前のことだからきっと赤点――」

「ユナト。そういえばカスティネッタさんに話したいことがあったんじゃなかった?」


 おお、偶然だろうけどナイスだライル。よくぞユナトの問題発言を遮ってくれました。

 ……でも話したいことって、もしかして。


「ああそうだ。リオーネ、今週末は空いてるよな」


 出た。ユナト十八番の確定系の質問。

 でもその言葉を今日、私は死刑確定を告げられるような心持ちで聞いた。



「城で俺の誕生会を開く。まぁ誕生会なんて面倒ではあるが、必ず来いよ」



 ……『無敵な恋のプレリュード』こと『恋プレ』。

 季節ごとに攻略対象が異なるというシステムのこのゲームには、春夏秋冬に合わせて四人の攻略対象が居るのだが……その四人の誕生日は、しっかり季節に連動していたりする。ほら、お誕生日イベントとかやりやすいからね。


 というわけで、四月~六月の春の季節が割り当てられたユナトの誕生日は、六月三十日。

 そしてゲームでは、そのユナトの誕生パーティの場で――悪役令嬢リオーネに、婚約破棄と国外追放が言い渡されることになる。


「……承知しましたわ」


 どうにか緊張が顔に出ないよう努めながら、私はユナトに微笑みを返した。


 今までの五周のループでもユナトの誕生パーティーは開催されたけど、そこでは何も起こらなかった。

 だけど今回は違うだろう。クレアちゃんがユナトの攻略にほとんど成功している以上――私はゲームのシナリオ通り、二人にとっての邪魔者……悪役として排除されてしまうかもしれない。


 うう。怖くて仕方ないけど……でも、今まで精一杯やったもの!

 それにまだ結果は分からない。婚約破棄はともかく、クレアちゃんをいじめたりはしてないのだから追放はされないはずだ。


 ……されないよね? 大丈夫だよね?

 ……ゲーム補正が入って追放されちゃったりとか、しないよね? ねぇ?


 遠くから、クレアちゃんが心配そうにこちらを見ていた。




 ちなみに腹痛を覚えつつも受け取った筆記試験の順位は――百十人中六十位だった。

 何とか赤点は免れたので、私としては万々歳です。




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― 新着の感想 ―
[一言] お。試験頑張れたんだね!(笑)
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