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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第四章 黒のスレデラーズ
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第四章 第六話 涙の介入

「イクス,オブライトウィング」

「おうよ」

 ユウリエとガンギの第一段階解除による第一同感が発動された為にエランもイクスを変えて対抗しようとする。白銀色の光りに包まれたイクスが元の色に戻ると刀身から羽根が生えて一回だけ羽ばたいて,白い羽根が舞い落ちては消えて行く。そんなエラン達は正反対にユウリエ達は黒耀の魔力が視覚化される程の力を放っている。そしてユウリエの背中から生えている翅は美しい紋様を描いてユウリエは更に神秘的で幻想的な雰囲気が増している。だが,それ以上に感じるのはユウリエ達の魔力と威圧だ。

 ガンギから視覚化される程の魔力が放出され,ユウリエからは雰囲気以上の圧倒的な力をエランは感じていた。それは前に何度も感じた感覚で,以前感じた時よりも強くなっており成長しているのが自分達だけではない事を顕著に現していた。だからと言って退く事は出来ないエラン更に口を開く。

「納刀,フェアリシュリット。抜刀,フェアリブリューム」

 エランの中で剣が鞘に収まるとまた別の剣と入れ替わって鞘から抜かれると天を衝く。エランの背中から生えている白銀色の翅が一度砕けて落ちると再び新たな翅が生えて,白銀色の紋様を描き出す。使い慣れている剣に変更した事でユウリエ達に対抗しようとするエラン達。

 イクスを構えて戦う意思をユウリエに見せ付けるとユウリエは鋭い視線をエランに送ると口を開く。

「やはり第一同調は出来ないみたいね」

「今はまだ」

「それで,その状態で第一同感をしている私達に勝てるとでも思っているのかしら」

「分からない,けど今は戦う」

「……分かったわ」

 ユウリエの言葉を最後に静寂が訪れる。エラン達に緊張が走る反面でユウリエ達は唯々悠然と立っているだけだ。それでもエラン達が余裕どころか油断すら見せる事はなく,今はただユウリエ達の攻撃に備えている。そしてユウリエ達が動き出す。


―特殊技攻 飛翔加速―


 一気に間合いを詰めて来るユウリエ達,同じ特殊技攻だとしても先程とは速さが違い過ぎるぐらいに速い。一気に距離を詰められたエランはその場で左に回転するとユウリエも回転を始めるが,それと同時に飛翔加速で推進力を生み出している防具も動き,エランが回転を始めた後に回り始めても回転速度はユウリエの方が速くガンギを一気に振り出してきた。

 お互いの真正面でぶつかり合うイクスとガンギだが,エランはイクスがぶつかった反動を利用して後退する。ユウリエ達の能力が上がっているのは速度だけではない,攻撃の威力も飛躍的に上がっており,エラン達では受け止められない程の威力が有る事をエラン達は知っているからこそ離れた。それでも攻撃をしないと手詰まりとなり戦いは終わってしまう。だからエラン達は反撃へと移る。

 ユウリエがガンギを振り抜くとそのまま一回転してガンギを構えようとするが,エラン達の方が速く回転してイクスを振り出してきた。対してユウリエはあえて動く事はなくそのままガンギでイクスを受け止める。そしてぶつかり合うイクスとガンギ,回転して威力が上がっているイクスだがガンギの刀身が全く動く事なくイクスを受け止めてしまった。

 回転する事によって斬撃の威力と速度を上げるデスティブだが,第一段階の制御を外したユウリエ達に掛かれば回転する必要なくイクスを受け止める程の力を発揮する。だからユウリエ達は動かなかった。それに対してエラン達はイクスを受け止められたので一旦後退して距離を取ろうとすが,ユウリエ達は追撃を仕掛けて来た。

 エランが後退した事で前に出ながら一回転するユウリエは,まだエラン達がガンギの間合いに居る事を確認すると一気にガンギを振り出し,エランを捉えるが今度はエランが動かずにガンギの攻撃をイクスで受ける。威力と速度が増してるガンギの一撃をそう簡単には止められない事は分かっているからこそ,エランはイクスでガンギを受け止めると地面から足を離して,そのまま弾き飛ばされる事にした。

 手応えが軽すぎる事でエランの意図を知ったユウリエは,あえてそのままガンギを振り抜いた。飛ばされたエランだがフェアリブリュームで一気に体重を重くすると再び地面に足を付き,そのまま踏ん張って飛ばされた威力を殺した。そのままイクスを構えるエランにユウリエは追撃を加える。

 前に跳びながら左に一回転するユウリエに対して,その場で一回転するエランは勢いに乗せてイクスを振り出す。対してユウリエもガンギを振り出すとエランは時機を見計らって一気に体重を重くし,とてつもない重量になった事を示すかのようにエランの足が地面へと沈む。後はイクスに身体の重心を乗せるようにしてガンギとぶつかり合う。

 流石にこれほどの重量を弾き飛ばされるだけの威力はユウリエ達にも出来なかったようにイクスとガンギがぶつかり合う。その衝撃は先程までとは段違いの破壊力として広がり大地を削った。イクスに全体重を掛けて押し出すエランと右手だけでガンギを振っているユウリエ,両者の押し合いは拮抗しており少しの間だけ膠着状態と成る。だが,分が悪いとエランはすぐに体重を思いっきり軽くしてガンギに弾き飛ばされる形で移動する。

 途中で再び体重を操作して地面へと足を付けると勢いを殺していくエランは,追撃が来るであろうと予想していたが,それは外れてユウリエは静観する形でガンギを構えながら佇んでいた。そんなユウリエを見てエランはイクスを構えるが動く事は出来なかった。なにしろ威力に速度,そして攻撃範囲までもユウリエ達の方が上なのだから下手に動いて攻撃を防いだだけでも弾き飛ばされるのは目に見えている。だからこそユウリエ達の動きに合わせる必要が有るのだが,そのユウリエ達が動かないのだからエラン達も動かずに様子を窺う。

 何時までも動かないエランに対してユウリエは笑みを浮かべるとガンギを下向きに構えを変えてから一気に飛翔加速で飛び出してくる。そんなユウリエ達の動きを見てからエランは横へと移動するのは,真正面からユウリエの攻撃を受けるのが危険性が高い事が分かっているからだ。だから逃げ道がある横への攻撃を誘発させる為に移動する。そんなエランの意図はユウリエには分かっていからこそ,あえて下から上に挙げる横薙ぎを繰り出した。

 今度は体重を思いっきり軽くしてイクスでガンギを受け止めるエラン。その圧倒的な威力にエランの身体が浮き上がり,ユウリエはそのままガンギを振り抜いてエランを弾き飛ばした。

 空中へと弾かれたエランは飛ばされた勢いを利用して一回転すると態勢を立て直したら追撃してくるユウリエに備える。予想通りに跳び上がってきたユウリエはエランに狙いを定めると再びガンギを振るい出す。対してエランは更に体重を風力で移動が出来る程に軽くして風に流される形でガンギを避けるが,それさえも予想していたユウリエが更に攻撃を繰り出す。


―特殊技攻 円蹴刀―


 ガンギを振り抜いた勢いを使って右足を出してきたユウリエに対して,エランはイクスでユウリエの攻撃を受け流すと一気に体重を重くして地面へと落下し始める。そのまま落下を続けるエランは地面が近づくと体重を戻してイクスで地面を斬るように一回転すると落下する勢いを殺して無事に着地した。そして,そんなエランを追うように落下してくるユウリエ。

 ガンギを突き立てるように一気に落下してくるユウリエの着地地点から距離を取るエラン,そんなエランを見ながらユウリエはそのまま落下してガンギが地面を抉る。大量の土埃が立ち上る中にユウリエの落下地点を見定めてエランが距離を詰めると一回転してイクスを振るうが,その攻撃がユウリエに届く事はなかった。


―特殊技攻 刀身防―


 ガンギの陰に隠れたユウリエだからこそイクスはガンギの側面を斬り付けるだけだ。そしてエランが攻撃した事で一気に土煙が晴れて見通しが良くなると,エランは再び後に跳んで距離を取るとユウリエはすぐに攻撃へと転じた。収束手甲で繋がっている手甲を引っ張るとガンギが地面から抜けてユウリエの方へと倒れるとすぐにユウリエの手に握られた。そして次の瞬間には攻撃を放っていた。


―特殊技攻 飛翔剛剣―


 ユウリエはその場で一回転するとガンギを勢いに乗せて投げた。先程とは段違いの速度でエランへと迫るガンギに,エランは一回転すると上手くガンギを弾く事が出来たが手甲を引いたユウリエがガンギを引き戻すとエランの背後からガンギが再び迫る。エランはフェアリブリュームの能力で跳躍力を思いっきり上げると跳び上がり後方へと一回転する,その間にエランの下をガンギが通過してユウリエの元へと戻る頃にはエランも地面へと戻りイクスを構えていた。

 後手,防戦一方のエランに対してユウリエは余裕が有るように笑みを浮かべて見せるとゆっくりとガンギを構える。実際に今のユウリエを相手に先手を取れないのは確実だからこそ,エランはユウリエの動きを見てから動くしかない。それぐらいに第一段階を解除したユウリエとガンギの能力が上がっており,先程までのように対等に戦う事が無理となっている。つまり今のエラン達が対等に戦えない事を示している。だからと言ってここで退く事も出来ないのでエランはユウリエ達が動くのをしっかりと見ていた。

 ユウリエが地面を蹴ると飛翔加速で一気に跳び出してきた。そんなユウリエの動きに合わせてエランも動き出すと,ユウリエは一回転して飛翔剛剣を繰り出してきた。投げられたガンギに思わず跳んで避けるエラン,そこを狙ってユウリエは思いっきり手甲を引っ張るとガンギが円を描いて戻って来ると,すぐさまガンギを握ったユウリエはエランの着地地点を狙う。

 対してエランは空中では動きが取れないので,イクスを回して一回転すると地面に降り立つ準備をする。だが,それよりも速くユウリエが迫って来たのでエランは体重を思いっきり重くして準備するのと同時にユウリエは一回転して攻撃に勢いを付ける。そしてエランが地面に降り立つのを狙ってユウリエはガンギを振り出してきた。対してエランも仕方なくイクスを振り出す。

 イクスとガンギがぶつかり合うと,その衝撃は凄まじいモノで周囲の地面を吹き飛ばすどころかエランの髪飾りも粉々に砕け散った。その様子にハトリは思わず声を挙げるが衝撃が凄まじくエランとユウリエに届く事はない,当のエランは何とか弾き飛ばされまいと体重を重くして堪えるのが精一杯だ。そして両手でガンギを握っているユウリエは押し切ろうと力を加えている。激しくぶつかり合うイクスとガンギだが,遂にユウリエがガンギを振り抜いてエランを弾き飛ばしてしまった。

 エランの身体が宙に浮いた次の瞬間には地面に叩き付けられて,地面を転がりながら何度も地面へと身体を叩き付けられた。エランを弾き飛ばしたユウリエは表情を変える事もなく鋭い視線をエランに向けていた。その一方でやっと弾き飛ばされた勢いが消えて地面に倒れたエランはイクスを地面に突き刺すと,腕を伸ばしてイクスに支えて貰えながら立ち上がってくる。そんなエランにも余裕を見せないユウリエはガンギを構えるとエランは何度か咳き込みながら完全に立ち上がると再びイクスを構えて戦う姿勢を示す。

 未だに戦意が消えるどころか静かに猛っているエランの姿にユウリエはガンギを構えながらエランの様子を窺う。そのエランは静かに呼吸を整えており,イクスを右下に構えながら動く時機を見計らっていた。ユウリエもガンギを右横に構えていつでも動けるようにする。お互いに次の行動へと出る為に今は動かずに時を待つ,そしてエランの呼吸を整えて改めてイクスを握ると時が満ちた。

 一気に動き出すエランとユウリエ,お互いに距離を詰めていくと間合いに入る少し前に一回転するエランとユウリエは勢いと威力を高める。そして互いの間合いに入った途端に一気にイクスとガンギを振り出す。そしてそのままイクスとガンギがぶつかり合うと思われたが,突如としてイクスとガンギは別な物に阻まれた。それはハトリのマジックシールドだ。

 ハトリは二人がぶつかり合う前に駆け出すと割り込むように介入し,両手を広げてイクスとガンギの前に出すと両手でマジックシールドを展開,イクスとガンギの攻撃を止めたのだ。そんなハトリの予想外の行動にエランとユウリエは驚きを見せるが,ハトリは涙を流しながら叫ぶ。

「もう止めるですよっ! エランもユウリエもこの戦いに何の意味があるですよっ! 二人とも分かっているはずですよっ! ここで戦って意味が無く何も変わらないですよっ! それなのにどうして戦うのですよっ!」

「っ!」

 ハトリの言葉を聞いて驚きを示すエランに対してユウリエは未だに厳しい表情を浮かべている。だがエランは静かに戦意を消すとハトリからゆっくりと離れた。そんなエランを見てユウリエもハトリからゆっくりと離れるとエランの様子を窺う。そんなエランはハトリの言葉に応えるかのように言葉を口にした。

「納刀,フェアリブリューム」

 エランが白銀色の光りに包まれるとエランの中で剣が鞘に収まり消えて行く,そしてエランの背中から生えていた白銀色の翅も砕けて落ちて消えて行く。そんなエランが力なくイクスに向かって口を開く。

「イクス,戻って」

「あぁ」

 短く返答したイクスが白銀色の光りに包まれると羽根が砕けて消えると,そのまま欠片が落ちながら消えて行く。そしていつもの形状に戻ったイクスをエランが右上に掲げるとイクスは鞘に収まった。そんなエランを見てユウリエは何かを言おうとするが今のエランを見ていると言葉が出ないようにもどかしくしているとハトリが泣きじゃくりながら言葉を口にする。

「こんなのはおかしいですよ,エランが……私達が願っていたのはこんな事ではない筈ですよ。それはエランも分かっている筈ですよ,だから戦う必要なんてないですよ。それなのに……何で本気で戦っているのですよ」

「……ごめん,ハトリ」

「……」

 ハトリの言葉を聞いて謝罪するエランに押し黙るイクス,それに対してユウリエはガンギを握り締めると,今度は呆れたように息を吐き出すとエランに向かって言葉を口にする。

「それでエラン,貴方は本当に戦う事を止めるの?」

「うん,これは違うとハトリが教えてくれたから」

「何が違うと言うの,貴方が剣の楽園を,そして名もなき姉妹達を殺した事には変わりないのよ」

「それが罪というのなら受け入れる。けど,それ以上に私は私が願っていた事を叶えたい」

「それは何?」

「また……あの時のように戻りたい。私は剣の楽園で暮らしていたように,ユウリエ姉さん達とまた,別な場所で静かに暮らしたい」

「そんな事が貴方の願いだというの」

「うん,そう」

「呆れたわね,そんな事の為に剣の楽園を壊して名もなき姉妹達を殺して私達を追っていたというの」

「殆どの理由はそう」

「なら残りの理由は?」

「私達が最強の剣と成る為に,今の私にユウリエ姉さんを説得できるとは思っていない。だったら,私達が最強と剣と成ってユウリエ姉さんを説得する。それが出来ると思ったから,だから私達は最強の剣に成ると誓った」

「……呆れて言葉も出ないとはこの事ね」

 ユウリエはガンギを下ろすが特殊技攻と第一段階解除を再び制御しようとはしなかった事が,ユウリエの心情を物語っている事を示していた。そして,それを見ていたイブレも言葉を出す事はしなかった。要は焦ったのだ,予期せぬ再会でイブレはユウリエから聞きたい事を優先した。その結果としてエランとハトリの心を置き去りにした。そんな自分を反省するかのようにイブレは大きく溜息を付くと今は黙る事にした。そしてハトリは泣きじゃくりながらもユウリエに問い掛ける。

「ユウリエは……エランの気持ちは分からないですよ。ただ意思なく存在するよりかは死という眠りに付く方が良いと判断しただけですよ,それは間違っていると言えるですよ。それともユウリエは未だに意思なく,起きる事も無く眠り続けている方が良いと言うですよ。本当にエランの判断は本当に間違っていたですよ?」

「……確かに私がどうこう言うべきではないのね。全特殊技攻解除,ガンギ」

「良いのか?」

「構わないわ,今はお終いにしましょう」

「了承した」

 ユウリエは発動していた特殊技攻を全て解除し,解放していた第一段階も再び枷を掛ける。するとユウリエは黒耀の光に包まれて背中から生えていた翅も砕けて落ちながら消えて行くのと同時に視覚化が出来る程に魔力を放っていたガンギも魔力が消え去り,黒耀の光が消えていく。元の姿に戻ったユウリエが再びガンギを握った右手を斜め上に挙げるとユウリエの手からガンギが離れて鞘の中へと戻った。そしてユウリエはエランに向かって言葉を投げ掛ける。

「どうやら私達も焦ってしまったようね。それにエラン,貴方の判断に口を出す資格もないと実感したわ。もう全て終わった事,そんな事にいろいろと言うのは間違っているらしいわね。でもね,エラン,私達は貴方に剣の楽園を出てほしくななかった事だけは覚えていてね」

「……何時までも蒙昧無知もうまいむちではいられなかった」

「時が来れば貴方も剣の楽園を出ていたという事ね」

「うん,何時までもユウリエ姉さんにだけ頼ってはいられない」

「……」

「……」

 エランの言葉を聞いて黙り込むユウリエと話す言葉が途切れたエラン,二人の間に沈黙の静寂が流れる中でハトリの泣き声だけが静かに響いていた。そんなハトリの泣き声が止む頃に成ってユウリエは口を開く。

「エラン,だから貴方は最強の剣には成れないのよ。けど,それも良いでしょう,今は貴方がやりたいようにやってみなさい」

「うん,分かった」

「それでどうするつもりなの?」

「今まで通りにスレデラーズを探す,そして見つける。ユウリエ姉さんと共に過ごせる地を」

「私はまだ同意していないわよ」

「今はそれで構わない」

 言い終えた後にお互いの瞳を見るエランとユウリエ,まるで会話をしているかのようにお互いの瞳を見詰めているとユウリエはこれ以上の会話は必要ないと言わんばかりに振り返ると先程まで持っていた荷物の元へと向かった。その縦長の袋に成っている口を開くと一本の剣を取り出した。そして丁重に袋の口を閉じると,その剣をエランに向かって投げた。それを受け取ったエランは口を開く。

「これは?」

「バーストブレイド,スレデラーズの一本よ」

 その言葉を聞いて驚くエラン達,そんなエラン達を余所にユウリエは話を続ける。

「それがあればもう少し戦えるように成るでしょうね。だからあげるわ」

「どういうつもりだよ,ユウリエ」

「あら,イクスなら喜んでくれると思ったのだけど。特に意味は無いわね,強いて言えば餞別ってところかしらね」

「つまりお情けって訳かよ」

「どう受け止めるかはイクス,貴方次第よ」

「けっ,そうかよ」

 ふて腐れるように言い放つイクスに対してユウリエは少し楽しげに微笑みを浮かべると会話を再会させる。

「どうやら私達には頭を冷やすだけの時間が必要というところね,だから今はお互いに干渉しないようにしましょう。イブレもそれで良いかしら」

「そうだね,僕としても焦っていた事を認めるよ。だから覚えておいてほしい,僕は未だに納得していない事をね」

「気が向いたら覚えとくわ。それにしてもイブレ,貴方はスレデラーレの事を嫌っていたのにしつこいのね」

「確かに僕はスレデラーレを嫌っていたけど,死んでほしいとは思ってはいない。むしろ償ってほしいと思っていた程だ。けど,それ以上にユウリエ,君を理解する事が出来なかった自分を恨んでいるんだ」

「相変わらず生真面目ね」

「事の大きさが大きさだからね」

「見解の相違ね,私とってはかなりどうでもいい事よ。私達が動くのは私達の主の為に動くだけよ。そう,ただそれだけなのよ」

「答えてはくれないんだろうけど一応聞くよ,その主とは誰なんだい?」

「もちろん答えないわ」

「なら矛盾が発生する,ユウリエ,君は主の為にスレデラーズを集めているとしたら,どうしてエランにスレデラーズを差し出した?」

「矛盾は無いわよ。そもそも前提が間違っているのだからね」

「前提が?」

「そう,これ以上のお喋りは必要ないわね。貴方はこの会話からも情報を引き出そうとしているのだからね」

「なら君の主が何を考えているのかだけでも教えてくれないかい」

「それは私にも分からないわね。主の考えが分かる程に私は賢くないのだからね」

「謙遜が過ぎるんじゃないのかい」

「本当の事よ」

 それだけ言うとユウリエは振り返ってエラン達に背を向けると再び縦長の袋を背負うと背中越しに言葉を出す。

「それじゃあね,エラン。次に戦う時はもっと強くなっている事を期待しているわ」

「次も戦うとは限らない」

「それはどうかしらね」

 それだけ言葉を残してユウリエは駆け出すと一気に突き進み,そのまま崖の上まで足だけで登るとエラン達の前から姿を消した。取り残されたようにその場に佇むエラン達に少しの静寂が訪れる。ユウリエが去っていた方を見ていたエランだが,身体の埃を軽く払うとハトリの方へと歩き出し,ハトリの元へと着くとすぐにハトリを抱きしめた。

「ハトリ,ごめん」

「良いですよ,エランとユウリエが無事なら今はそれで良いですよ」

「うん,ありがとう」

 そう言ってエランはしばらくの間ハトリを抱きしめ続けた。その光景にイクスとイブレは出す言葉はなく,唯々エランとハトリを見守り続けた。今はただそれしか出来ないのだから,そしてエランはハトリの温もりを感じながらしっかりとハトリの存在を認識する。その心底までもしっかりと理解する為に今はただハトリを抱きしめハトリもまたエランに抱き付いていた。



 しばらくの間,エランとハトリはお互いを補うように抱き合っていたが,ハトリがもう大丈夫と言わんばかりに離れたのでエランもハトリから離れる。そんなハトリが笑みを浮かべたのでエランは頷くとしっかりと立った後にユウリエから譲り受けたバーストブレイドを鞘から引き抜くとエランが右手を右上に挙げたのでイクスが鞘から飛び出してエランに握られる。そんなイクスが喋り出す。

「何か釈然としねえな」

「今はそんな事を言っても仕方ない」

「わーってるよ。後味が悪い事は分かっているが,折角のスレデラーズだからな。しっかりと頂くとするか」

「うん,そうして」

「あいよ」

 言い終えるとエランはイクスとバーストブレイドを並べるように前に出すとイクスの刀身が伸び始めてそのままバーストブレイドを喰らうように包んでいく。そしてエランが手を離すとイクスは完全にバーストブレイドを喰らい元の形状へと戻った。そんなイクスが喋り出す。

「けっ,やっぱり後味は悪ーな」

「イクス」

「わーってるよ,終わったから俺様はさっさと戻るぜ」

「うん,分かった」

 再びイクスを右上に掲げるとエランの手から離れたイクスが鞘の中に戻る。そして,少しだけ刀身を出しているとイブレが歩み寄るとすぐに謝罪の言葉を口にする。

「エラン,イクス,ハトリ,ごめん」

「んっ,急にどうしやがった」

「ユウリエ達と再会した時に僕は冷静じゃなかった。その所為でエラン達が戦う事に成ったんだから謝るのは当然だよ」

「けっ,似合わねえ事なんてすんじゃねえよ」

「ここはイクスに同意するですよ」

「まあ,突然の再会だったからね。僕としてもユウリエの事が気掛かりだし,理由も知りたかったんだ」

「それは私も同じ」

「エラン?」

「私もユウリエ姉さんが姿を消してからずっと心の隅に何かがあった。けど,戦う程に元気だったから安心した」

「どういう安心の仕方ですよ」

「んっ,何か変?」

「変っていうか……まあ,良いじゃねえか,今は細けえ事は無しにしようぜ」

「確かに今のエランに反論する気力はないですよ」

 首を傾げるエラン,やはりイクスとハトリが言いたい事は分かってはいないようだ。まあ,イクスとハトリもこれはこれでエランらしいと諦めているのも確かだ。そんな様子を見ていつもの微笑みを浮かべる事が出来たイブレはエランに尋ねる。

「それでエラン,これからどうするつもりなんだい?」

「旅を続ける」

「そうだね,戦場の黒き死神が黒耀妖精と呼ばれていたユウリエだと分かったからには固執する必要もないからね」

「うん,旅を続けながら次に再会した時に備える」

「そうだね,僕もそうしよう。それはそうと今日は時間的に次の町に行くとして,そこからはどうするつもりなんだい?」

「東に行く」

「相変わらずザックリとした行き先ですよ」

「そして根拠もねえのも相変わらずだな」

「スレデラーズの手掛かりがない,だから行きたい方向に行く」

「はいはい分かったですよ」

「とりあえず,出発するとしようぜ」

「うん」

「じゃあ,行こうか」

 イブレの言葉で歩き出すエラン達,イブレとハトリがここまで来るのに切り拓いた荒れ道を通って街道へと戻る。そして街道に出ると次の町を目指して歩き出す。そんなエラン達を高い日差しが迎えるように灯す中をエラン達が歩き続ける。そして突如として一陣の風が駆け抜けるとエランの髪を持ち上げるように遊び,少しだけ髪に残っていた髪飾りの欠片達を持ち去って行くのだった。




 さてさて,やっとエランとユウリエの戦いが終わりましたね。……ってか,今まで長くなる事は有ったけど今回は短く成ってしまった事に今更ながら気が付きました。まあ,こうなってしまったモノは仕方ないという事で,第四章は次で終わりですね。まあ,今回で終える事も考えたのですけど,流石に短すぎるなと思い次が最終話と成ります。

 さてはて,私としてはやっと第四章が終わる事に付いて少し感慨深くあります。まあ,当初はこの第四章を一区切りとして考えていたので,このまま書き続けるか,完結させるかを決める,区切りだと考えていますので,未だに迷っているのですが,そこそこの評価と感想も頂いておりますので,未だに迷っております。まあ,第四章が短く終わってしまう事も踏まえて,もう一個短めの話を終えてから考えても良いかもしれませんね。そんな訳で未だに悩んでおりますので感想で意見などを頂けたらありがたいです。とお願いしたところでそろそろ締めますか。

 ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願い致します。更に評価と感想をお待ちしておりますので皆様のご意見をください。

 以上,本当に次で完結してしまおうか悩んでいる葵嵐雪でした。



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