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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第三章 バタフライフェザーカノン
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第三章 第二十九話 スレデラーズの戦争

 ヘルレスト草原で始まった戦は弓勝負とブラダイラ軍に有利かと思われる展開で始まったがフライア軍もしっかりと編成されていたので戦況は五分五分の膠着状態に入ろうとしていた。両軍の総大将たるフォルグナーとテリングも戦況はしばらく動かないと思っていたが,思い掛けない所から戦況が動き出して風のように駆け抜けると一気に台風と成って戦場を一変させる。

 イズンとはすぐに戦いとは成らないと踏んだエランが最左翼から一気に敵陣の右翼へと突撃して削り出したからだ。最初から前線に近いところに居たエランと本陣付近に居るイズンとでは戦線に出る速度が違っており,両軍がぶつかり合ってもイズンが白銀妖精の旗印を目指してこないので,イズンはすぐに出て来ないと読んだエランはイクスを携えて突撃した。

 急襲とも言える突撃に意識が完全にフライア軍の中央に行っていたブラダイラ軍の右翼は崩れはしないモノの,弓から剣へと白兵戦に切り替えようとするが,その間にもエランはフェアリシュレットで足場を次々に作り出し,上下左右から一回転して勢いを付けると一気に弓兵達を斬り裂いた。その攻撃の速さにブラダイラ軍の右翼前方は徐々に削られていった。

 イズンとはすぐに戦いとは成らないと読んだエランが,ここまで迅速に動くとはフォルグナーに取っては嬉しい誤算だ。膠着状態だった戦場がフライア軍側に傾くが,すぐに右翼を後退させるテリングは右翼後方からエランを目掛けて矢を放つように命じ,実行されたのは,この程度の誤算は想定済みだからだ。

 弓で射かけながら退いていくブラダイラ軍をエランはあえて追撃はせずに,飛来する矢をイクスで弾きながら左翼へと後退して行く。エランの目的はあくまでもイズンであり,膠着した戦況に付け入る隙を見出したから突撃したからに過ぎない。そして矢が届かない所まで後退するとイクスが喋り出す。

「やっぱり,かなり警戒してやがるな。引き際が早えし,きっちり土産まで飛んで来たってもんだ」

「うん,そう簡単には叩かせてもらえない」

「けどまあ,これでさっさと出て来てくれれば楽だけどな」

「……」

「んっ,どうしたエラン?」

「……来た」

 エランが言うのと同時に左側に大きく飛び退くと先程までエランが居た場所に大きな爆発が起きる。フェアリシュリットで足場の跳躍力上昇で一気に跳んだエランは攻撃が来た方に目を向けると,そこには紺青色の髪をなびかせ背中からは蝶のような紺青色の光る翅が生えているように見える女性が一人,右手に剣を持ち馬を一気に走らせてエランの方へと向かって来ていた。

 馬上から剣を振るうと斬撃に似た光がエランへと向かって来たので,更に左に避けるエランに対して二度三度と攻撃をしてくるがエランはフェアリシュリットの能力で軽々と躱していく,そしてここまで遠距離攻撃をしてくる剣を持っているのだから相手がイズンだという事はすぐに分かった。

 イズンはエランと充分に距離を取って下馬する。先程のエランが突撃したのを見て近距離戦は分が悪いと察したのは流石はブラダイラ軍の切り札に恥じない戦いの才とも言える。そしてやっと邂逅したエランとイズンは互いに相手を見ているのと同時にイブレ達は密やかに動き出していた。そんなイブレ達に気付く事なくイズンは声を張ってエランに話し掛ける。

「あんたが白銀妖精ね,少しばかり可愛いからって調子に乗ってんじゃないわよ」

「その呼ばれ方は好きじゃない,それに調子にも乗ってない」

「口答えするなんて生意気ね。まあ良いわ,それよりも名乗っておくわ。私がブラダイラ軍の切り札にして絶世の美女たるイズン=エイルよ」

「エラン=シーソル」

「ってか,自分で絶世の美女とか言ってるなんて自意識過剰よりの上じゃねえか」

「だ,誰の声よ」

「俺様だ」

「イクスエス,もう分かってると思うけど私達がフライア軍に居るスレデラーズ」

「へぇ~,その剣が喋っている訳ね。随分と口が悪いところを見ると品が無いスレデラーズね」

「少し違う」

「随分と言ってくれるじゃねえか。でも品が無いのはお互い様だと思うぜ」

「見た目だけじゃなく言葉の方でも頭に来るわね」

「ぎゃはははっ! そりゃあどうも。まあ,そろそろ始めようや,お互いに狙いは同じなんだからな」

「そう,それじゃあ……遠慮なくっ!!」

 イズンが剣,バタフライフェザーカノンを前に構えた瞬間に五本の大きな針状の物が形成されるとエランに向かって一気に放たれた。流石は遠距離特化と剣と言える程に射出した針は高速度でエランに迫るが,エランは足場を作って上に逃れると放たれた針は地面へと刺さると衝撃で後方の地面を抉る程の威力を見せた。

「さあ,まだまだ行くわよ」

 今度は横に振ったバタフライフェザーカノンから三つの球体が形成されると再びエランに向かって放たれる。足場を無くして一気に地面に舞い降りたエランは距離を詰めるために足場から一気に前に跳ぶ,その途中で頭上を球体が通過するように思えたが,ふとイズンの表情に小さな笑みを見たエランは再び足場を作って後方へと跳ぶのと同時に球体が爆発して空気を押し出し地面を削る。

 その間にもイズンは何度もバタフライフェザーカノンを振るい,次々と球体を作り出してはエランに向かって撃ち出す。爆発での衝撃を避ける為にエランはフェアリシュリットの力で次々と足場を作って球体と爆発を避けるが,イズンの猛攻は続きエランは完全に後手に回る。それでもエランはイズンとその周囲をよく見ている,なのでイズンを追ってきた武装した取り巻きの男達が戦いに参入しようと馬で駆けてくる。だが遅かった。

 突如としてエランとイズンを中心に風が回り出すとそのまま暴風と成り,竜巻へと変貌して完全にエランとイズンを竜巻の中へと隔離する。そんな竜巻を作り出しているのはエランの後方でいろいろと準備をしていたイブレだ。多少の介入はあると読んでいたイブレはエランの戦いを邪魔させない為にここまで大規模な竜巻をフライア軍から借りた魔法兵と共に作り出した。

 竜巻の中は充分過ぎる程の広さは有るが,竜巻の壁に当たったら最後には風に飛ばされる事が分かる程に土煙を上げながら巨大な竜巻は渦を巻いている。その為にエラン達が居る所にはそよ風すら吹かない,それだけ周囲の空気は竜巻に流れ風の壁と成っている。イブレならこれ位はするだろうと予想をしていたエランは全く驚きもしないが,完全に隔離されたイズンはエランに注意を向けながらも閉じ込められた事に驚いているがエランを倒す事に集中していた。そしてそんな巨大な竜巻を作った張本人であるイブレはというと一仕事終えたような雰囲気を出しており,その隣に居るハトリが口を出してくる。

「随分と派手にやってるですよ」

「いろいろと考えたけど平地とも呼べるヘルレスト草原なら風の壁が良いと考えただけだよ」

「それでこれとはですよ,中に居るエランは大丈夫なのですよ?」

「もちろんだよ。この竜巻は大きいだけに中心部分にも大きい空間が出来るからね,エラン達も戦い易いだろうね」

「まあですよ,そんな心配はしていないですよ。けどですよ,こちらからも中が見えないからには決着が付いた事をどうやって見極めるつもりですよ」

「エランならそれぐらいの考えはすぐに解けるよ」

「はいはい分かったですよ,今は静観してるですよ」

「まあ,スレデラーズ同士の戦いだと僕達に出来るのは,この程度だからね」

「それも良く分かっているですよ」

 スレデラーズ同士の戦いがどれだけ激しく,凄まじい威力を放つのかを知っているハトリは唯々静観する事に決めている。ハトリのマジックシールドはイクスの一撃すらも耐えられる強度を誇るが,それでも介入しないのはハトリの意思だ。そして,それこそがエランが選んだ祈り願う道でもあるからだ。

 超大型の竜巻によって完全に援軍が絶たれたイズンだが,最初から当てにはしてないという感じでエランに向かって次々と攻撃を仕掛け,エランは避けるだけの防戦一方に成っていた。そんな中でもエランはしっかりとイズンの攻撃を理解している。

 攻撃方法は主に二種類,バタフライフェザーカノンを振った時に生じる魔力弾と構えだけで放つ事が出来る針,ニードルスピアとも言える物を遠距離から放ってくる。ニードルスピアに関しては威力は大きいモノの避けさえすればなんて事は無いが,爆発してくる魔力弾はかなり厄介だ。それ故にエランはなかなかイズンとの距離を縮める事が出来ずにいた。そしてイズンもエランの事を理解し始める。

 移動速度は速く縦横無尽に跳ぶモノの近距離専用だからこそ攻撃は来ない,つまりこのまま遠距離で攻め続ける限りではイズンの有利は揺るぎない。そうイズンは思い始めていた。だが,たかがこの程度で打つ手が無いエラン達では無い。

 エランはある程度イズンの攻撃が読めるように成ると魔力弾に注意しながら少しずつ距離を縮めていく。そしてイズンがニードルスピアを放つ為に構えた時,フェアリシュリットの能力で一気に前方へと跳んで一気にイズンとの距離を縮めるが,イズンは近づいてくるエランに向けてニードルスピアを放つ。ここでフェアリシュリットの能力を大いに使うエラン。

 放たれたニードルスピアは速度と威力が大きいが直線にしか進まない,それが分かっているエランはフェアリシュリットの空中足場を使って見事に避けきって見せる。そして縦に一回転して更にイズンとの距離を縮めるとそのままの勢いでイクスを振り下ろすが,イズンもバタフライフェザーカノンでイクスを受け止める。衝撃で少しだけ声を出すイズンだが,完全に受け止めるとそのまま押し返す。というよりも半分はエランから退いたので簡単に二人は離れるとエランは後方に一回転してから地面へと足を付く。

 その間にイズンはすぐに魔力弾を放ち再び攻め立てるが,エランは難なく空中へと避けるとそのままイズンと距離を取る。流石にあの魔力弾を間近で受けるのは危険性が高いと判断した。放たれた直後の魔力弾は距離が近い為にお互いの爆発範囲が重なり合い攻撃力を増す,だが放たれて距離が生まれた魔力弾は爆発範囲に隙間が出来る為にエランは無理に出ずに退いた。とはいえ,これでエランの攻撃が終わりという訳ではない。

 イズンの攻撃を避けたエランが地面へと足を付けると,好機と見たイズンが一気に魔力弾を放ってくるが,エランはあえて魔力弾の隙間に向かって足場を地面間際に作り跳んだ。その後も地面から離れないように微調整すると魔力弾が弾け飛ぶ,その直後に再びエランが一気に距離を詰めて左に一回転して速度と威力を上げるとイズンに斬り掛かるが,イズンは受けたモノの衝撃で立ち位置を左へとずらされるが態勢が崩れる事は無かった。

 ブラダイラ王国軍の切り札という名前も伊達ではないという事だ。例え距離を詰められても対応が出来て,そこからの反撃手段を持っている。イズンの背中から生えている紺青色の翅が光り輝くとそのまま光の槍を作り出し,その穂先をエランへと向けるのと同時にエランはすぐにイズンから離れて距離を取ると槍は空中を斬り裂くように放たれて虚空を突き進み消えて行く。そんな反撃を見てイクスが喋り出す。

「随分といろいろな手を持っているじゃねえか,ちっとはスレデラーズを使えているだけの事はあるぜ」

「そっちこそ随分とお喋りな剣ね,それと短時間でここまでの手を出させた事を褒めて上げるわよ」

「そりゃあどうも,宴はこっからだから存分に楽しもうじゃねえかっ!!」

「なら精々盛り上げて上げるわよ」

 イズンがバタフライフェザーカノンを横に振るうと五つの魔力弾が形成された途端にエランへと向かって発射される。それに対してエランは更に後方へと跳んで魔力弾の爆発範囲に注意しながら回避する。だがエランが回避する事を読んでいたイズンは爆発を早めるとエランは後方へと吹き飛ばされたが,イクスが自ら動いてエランの態勢を保たせるとエランは右に一回転して地面へと足を付けた。

 爆発時間の短縮というよりも自らの意思で魔力弾を爆発させる事が出来るのもバタフライフェザーカノンの能力だ。流石にこうなってくるとエランも避けるだけでは手詰まりに成る事は理解している,だからこそエランはあえてイズン目掛けて一気に跳ぶ。

 イズンも再び魔力弾を放ってくると,エランはその一つに方向転換して一気に距離を詰めるのと同時に上空に跳び上がりながらイクスで魔力弾を斬るのと同時にそのまま上へと逃れる。するとイクスが斬った魔力弾が即時に爆発して,その衝撃でエランを更に上へと押し上げる。ここまでは計算通りとエランはすぐに空中足場を形成して再びイズンとの距離を詰めようと上空から舞い降りる。

 対してイズンはニードルスピアで迎撃するが空中を自由に移動が出来る,空中足場によってエランは回避しながらイズンとの距離を詰める。再び迫って来るエランに警戒しているイズンは背中の翅を光らせると再び複数の槍を形成してエランへと放つが,エランは空中足場の一つで動きを止めると光の槍を待つように動きを止めた。そして槍がエランに襲い掛かろうとした瞬間,エランは瞬時に足場から回転するように跳び上がるとそのまま縦横無尽に回転して全ての槍を斬り落とした。そして今度はエランが一気にイズンへと攻め掛かる。

 空中から一気に降下してくるエランはイクスを振り出した。死落舞とも呼ばれる回転攻撃で威力を増している一撃がイズンに振り下ろされるが,流石にこの一撃は危険だと判断したイズンは後ろに向かって思いっきり跳び退がる。するとイズンの判断が正しいと証明するかのようにイクスの一撃が地面を削り,一筋の剣閃を地面に残す程の威力を発揮した。

 予想以上の威力にイズンは一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべるが,エランの動きが止まっている束の間が好機とばかりに剣を振るって魔力弾を撃ち出す。だが,エランもそれを予想していたのでフェアリシュリットの足場で後方へと大きく跳ぶと魔力弾の隙間を上手い事に避けてみせた。もちろん爆発によるダメージは無い,唯々爆風がエランの髪を揺らすだけに過ぎなかった。

 再び距離が空いたエランとイズンだが,ここで二人とも動きを止めた。イズンとしてはここまで攻撃を避けられたうえに,反撃までしてくるのだから下手な攻撃は反撃を招く事に気付き,エランもイズンが攻撃した直後が狙いやすい事を悟られたと察すると次の手を思考する。束の間だけ二人を囲む竜巻の音だけがその場を支配するとエランから動き出した。

 迫って来るエランにイズンはニードルスピアを放つが,エランは右に一回転しながらイクスでニードルスピアを叩き落とす。だがその直後に光の槍が放たれていた。今度は足場の跳躍力上昇によって上空に避けるエラン,だがそこに仕留めたと言わんばかりの表情を浮かべたイズンが魔力弾を放つ。と,ここまではエランが考えた通りの展開と成っているので,エランはまだイズンからそんなに離れていない魔力弾に跳び込むとそのまま斬り裂いた。

 斬り裂かれた魔力弾が爆発するのと同時に近くにあった魔力弾も連鎖して爆発する。その衝撃でエランとイズンは爆風に吹き飛ばされるが,エランは自ら爆破させたのだから当然の様に空中足場を使って立て直すがイズンはこんな近距離で爆破が起こるとは思っておらず爆風に吹き飛ばされた。だがエランは追撃はしなかった,というよりも出来ないと言った方が正確だ。

 爆風で砂塵が多く舞い上がった所為でイズンを見失ったのだ。ある程度の方角なら分かるが闇雲に突っ込んでも仕方ないと,今は砂塵が収まるのを待つ事にした。その一方でここまで近距離で魔力弾を爆破させるとは思っていなかったイズンは爆風で地面に数回程叩き付けられてからゆっくりと立ち上がった。エランからの追撃を予想してたが,幸いと言うべきかバタフライフェザーカノンの力がエランの想定以上だった為に追撃が出来なかったと察するイズン。両者ともに目の前の砂塵に動きが取れなくなったのも確かだ。そして砂塵が収まるまでの間にイクスが喋り出す。

「ここまで派手に爆発するとはな,こりゃあ同じ手は通じねえぞ」

「うん,予想以上」

「それで次はどうするか決めたか?」

「防戦,その間に考える」

「なるほどね,流石に実力者のスレデラーズだな」

「うん,かなり手強い」

「まあ,それでも負けはしないんだろ」

「当然」

「じゃ,ちょっとばかりゆっくりと戦ってやろうか」

「うん,行くよ,イクス」

「あいよ」

 イクスとの会話が終わると砂塵も収まって来ており少しずつ見晴らしが良くなるとエランとイズンの姿がしっかりと見える程に砂塵が収まる。イズンとしては思わぬ傷を負った事にエランをかなり警戒しており,エランも打つ手を無くしてイクスを構えながら動かずにいた。そのまま膠着状態へと移行したように思えたがイズンは新たな攻撃を行ってきた。

 バタフライフェザーカノンの周囲が光り出すと羽根が舞い落ちるような幻覚を見せると突如として羽根から大きな針が生えてイズンの意思でエランに向かって放たれた。先程のニードルスピアよりも速い速度でエランの近くまで到達したが,羽根針をフェアリシュリットで避けるエラン。そして羽根針はそのまま空間を斬り裂きながら消えて行った。それを見ていたエランは攻撃種類の多さに改めてスレデラーズを相手にしている事を認識する。その一方でイズンは自慢げにエランに向かって言葉を放ってきた。

「私に,このニードルフェザーを出させた事だけは褒めて上げるわ。けど,これであんたは終わりよ」

「勝手に終わらせないで」

「あははっ! まだ吠える事が出来るみたいね。それも何処まで持つのかしら」

「ってか,そんな台詞を言ってる時点で負け確フラグを立ててねえか」

「イクス,そこまで言うのは不憫」

「本当に頭に来るわねあんた達,いいからさっさと貫かれなさいっ!」

 イズンは言い終わるのと同時にニードルフェザーを突風のように放ってくるが,エランはこの攻撃を避ける事を予想してあるイズンはすぐに剣を振って魔力弾を撃ち出すと再びニードルスピアで猛攻を仕掛けてくる。それに対してエランは防戦一方に成っているが思考だけはしっかりと動いている。

 遠距離特化の剣,バタフライフェザーカノンは確かに厄介だが,それ以上にイズンがバタフライフェザーカノンを使い熟している事が更に厄介だ。エランがそう判断するのもイズンが持つ攻撃の多さにある。威力重視のニードルスピアに速度重視のニードルフェザー,そして範囲重視の魔力弾とこの三つだけでも近づく事は難しい,更に近距離重視の光の槍があるのだから近づいても決め手に欠ける。そういう風に考えているエランだが突破口は未だに見付からずにフェアリシュリットの力で今は回避に専念しているのがやっとだ。それでも何かしらの手を講じないといずれは詰む。だからこそエランは思い切って動く事にした。

 フェアリシュリットの力で回避しながらイズンとの距離を詰めていくが,魔力弾がそれを阻止しようと放たれる。するとエランはそれを待っていたかのように他の攻撃で掠り傷を負いながらもイクスを振るい,イクスの切っ先だけが魔力弾に掠り傷を付けるように斬り裂くと思った通りに爆風の威力は低下した。単純に爆発地点から距離を取っている為だが,イクスを持っている腕の長さとイクスの長さを足せば二メートルに達するので,なので爆発地点から二メートル離れているから空気摩擦で爆風の威力が低下したという訳だ。だからと言って爆発の威力が削がれる訳ではなく,エランは多少の負傷を覚悟した上で更に距離を縮めに行った。

 負傷を最小限に留めて迫って来るエランにイズンは慌てる事無く猛攻を続けて弾幕を張り続ける。だがエランはその隙間を縫うように,時には爆発で少しの傷を負いながらもイズンとの距離を詰めていった。そしてイクスの間合いにイズンが入ると,イズンの背中から生えている翅が光り出すのと同時にエランはフェアリシュリットの跳躍力で一気に前進した。

 光の槍が前方に撃ち出されるが,そこにエランの姿は無かった。自分が遅かった事を悟ったイズンはすぐに後に振り向くとそこには身体を捻ってイクスを振るうエランの姿が見える。そう最初からエランはイズンの背後を取る為に負傷しながらも前に進んだ。だがイズンはそれでも平然とバタフライフェザーカノンを構えながら背中の羽を光らせるが,その前にエランはイクスを振り抜いたが手応えは無い。

 咄嗟に姿勢を低くしたイズンの頭上をイクスが通り過ぎた,そして反撃とばかりにニードルフェザーと光の槍を一斉に放ってきたイズンだが,またしても遅くエランは既にイズンの右側へと移動していた。イクスを振り抜いたのと同時にフェアリシュリットで跳んでイクスの切っ先を重くし中心点を作り,後は遠心力に乗ってエランは移動していた。またしても後手と成ったイズンは負傷覚悟で剣を振るうのと同時にエランの方へと向きを変えて魔力弾を撃ち出したが,そんなイズンの頭上をエランは一回転しながら通り過ぎた。

 近距離でここまで移動を繰り返せばイズンを翻弄する事は出来るが,どうしてもイズンの攻撃と重なって反撃まで持って行けないエラン。それだけイズンの反応が良いという事だが,ここまで反応されるとイズンが放ってくる光の槍がかなり厄介に成ってくるのは当然だ。イズンは近づかれた時の事もしっかりと考えてスレデラーズであるバタフライフェザーカノンを使っている,攻撃構成がしっかりと出来ているからこそイズンはスレデラーズを使い熟していると言える。それでも近距離なら手が限られてくるとエランは移動を繰り返してイズンを翻弄させるが,そろそろとばかりにイズンは態勢を下げて上半身を地面に向ける。大きく頭を下げる形と成ったイズンに何か有ると察したエランがイズンから離れようとするが,今度はエランが遅かった。

 イズンの翅が手を剥くと四方八方に光の槍が一斉に生み出されて,一気に放たれ連射をしてきた。イズン以外を全て貫こうとする光の槍を幾つかを,その身に受けながらエランは確実に避けられる距離まで後退すると光の槍は消えてイズンは上半身を起こし改めてバタフライフェザーカノンを構える。そしてエランも身体に刺さった光の槍が消えるとイクスを構える。あの連射の中でエランはフェアリシュリットで致命傷を避けただけでは無く,まだ戦えるように頭はもちろんの事と手足への被弾を避けていた。それでも光の槍によって傷付いたが,その中でエランは想定した事が確信へと変わっていた。

 先程の攻防で傷を負って未だに血が流れているエランだが,エランが何かを口から言葉を出すと身に付けている鎧が白銀色の光を放ち傷口を癒やしていく。そして確信を得た事からエランは次の攻撃を考えいた。その確信というのがイズンの攻撃は全て直進という事だ。簡単に言うなら弓矢のように放物線を描くのでは無く,弩のように一直線に進むという事だ。つまり攻撃の種類は多くても工夫は殆ど無い,そう考えれば戦い方は有るとエランは突破口を開いていた。

 傷口を癒やしながらエランは突破口から,どう攻めるかを考えていた。幸いにもかなり接近されたイズンは先程の攻撃が切り札と呼べるようなモノだった為にエランの様子を窺っている。下手に攻撃して再び接近されるのが嫌だと言っているようなモノだが,それ以上に警戒している為にエランも下手に動かずに考える事に集中する事が出来たのは,そこまで読んでいたからだ。あそこまでの接近戦をすれば必ず警戒するとイズンからの攻撃を止める事にエランは見事に成功していた。だからこそお互いに動かずに膠着状態と成った。

 膠着状態の中でイズンの内心では焦りが生じており,その事を頭では否定していた。自分がスレデラーズを使い熟しているからと,ここまで苦戦する事を認める事が出来なかったからだ。高すぎる自尊心がここで足枷と成ってイズンの動きを止めていたのは,下手に攻撃をすればエランが距離を詰めて再び先程の状態に成るのが許せないからだ。あそこまで接近された上に切り札とも言える広範囲攻撃を出してしまった事に屈辱が引き金と成ってイズンは動きを止めてしまった。だからと言って何もしていない訳ではない。

 エランとイズンはお互いに警戒しながら巨大な竜巻に合わせて左右に動き,イズンは攻撃を放つ時機を見定めようとしており,エランはイズンからの攻撃に備えている為にイズンは簡単に攻撃を放つ事が出来なかった。お互いに牽制している間にエランの傷が癒えると服だけに傷跡を残してフェアリシュリットの力で一気にイズンから距離を取った。ここで後方に退がるのはイズンとしては予想外だった為に何か有ると警戒して動かないが,エランとしては動く為の好機だからこそイクスに話し掛ける。

「イクス,戻って」

「あいよ」

 イクスの刀身が白く光ると翼が消えて元の姿へと戻る。そして戻ったイクスにエランはすぐさま言葉を放つ。

「イクス,スネークリンバ」

「おいおい,そいつはまだ使い熟せていないんじゃねえか」

「分かってる,けどバタフライフェザーカノンに対抗するのにスネークリンバの力が必要」

「この土壇場で使い熟せていないスレデラーズを使い熟そうってか,面白いじゃねえか思う存分に乗ってやるよ」

「うん,お願い」

「やるぜ」

 再びイクスが白く光り出す,遠くにいるイズンには見えないがエランにはしっかりとイクスが変化していく姿が見えていた。イクスの刀身が割れるように何本もの横線が入るのと同時に刀身が少し揺れただけで,まるで積み上がっているかのように揺れ動く。そして光が消えるとイクスの刀身には何本もの横線が入り,完全に割れると言うよりも斬り裂かれた跡といて横線が入っているように見えるだけでは無く,刀身の色も深紫色に変わっていたのだった。




 さてさて,やっぱり戦闘シーンは書いてて楽しいですね。まあ,それだけ自分の世界に没頭しているので読者の方に伝わっているかは分かりませんが,楽しんで頂けたら幸いです。ってか,楽しんでいる方は是非とも感想をください,そうしたら大喜びしますから……私がっ!! 

 さてはて,流石はスレデラーズの戦いと言いましょうか。あのエランが負傷するという事態が発生しました。まあ,そこまで完全無双な主人公では無いという事ですね。未だに成長途中という事ですかね,まあ,後々に成りますがその理由も本編で少しだけ匂わす予定ですので楽しみにしていてくださいな。さてさて,今回はここまでにしてそろそろ締めますか。

 ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そして,これからもよろしくお願い致します。更に感想などもお待ちしておりますので,お気軽に書いてくださいな。

 以上,今回は早い更新が出来た事にめっちゃ安心している葵嵐雪でした。



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