第三章 第一話
朝日の光が窓掛を通り越して部屋の中に差し込むと,エランが目を開けたら見慣れ成る事がない天井を瞳から確認する。まだ疲れが残っているのかエランはすぐに身体を起こす事なく,寝床に身体を横たえながら空白の思考で天井を見詰める。温もりを感じる程の隣からはハトリの寝息が聞こえてきた。だからハトリも疲れているのを察したので,エランは身体を寝床に預けながら昨日までを振り返る。
エラン達がゼレスダイト要塞を旅立ってからすぐにハルバロス帝国の領土に入ると,たった一日でタイケスト山脈に一番近い町に移動した。すると好都合な事に丁度フライア帝国へと向かう商隊が出発準備をしていたので護衛と手伝いを兼ねて荷馬車に乗せてもらえた。そしてタイケスト山脈越えが始まった。
途中には細く崖沿いの道もあり,慎重に進まなければ行けない場所や岩場に車輪が挟まって荷馬車を押し上げたりとか。タイケスト山脈を越えるだけでも苦労は数え切れない程に及んだ。幸いと言えるのは魔獣がタイケスト山脈にはいないという点だけだ。
改めて魔獣について語るとエラン達が居るアクロライト大陸だけではなく,ブレールースに生息している生物体だ。有機物と無機物に魔力が宿って独自の進化をした生物を魔獣と呼んで冒険者と呼ばれる者達は魔獣退治を生業としている場合が多い。特に獣が何かしらの自然現象が起きて魔力が大きく動くと,その魔力を得て進化する場合が多いので獣型の魔獣が多い。だから獣の本能として宿っている狩猟本能に従って人間を格下の餌と決めた魔獣が商隊や町村を襲う場合も多い。
無機物にも何かしらの事象が起こって魔力が宿ると魔獣となる場合も有るので岩だと思っていたら魔獣だったという場合も有るので岩場だらけの場所にも魔獣は出る。その為に多くの町や村では魔獣の襲撃に備えて城壁で町や村を囲み,魔獣の襲撃を防いでいるのがブレールースでは常識だ。それは貿易で稼いでいる商人達にも同じで有り,念の為に商隊が冒険者や傭兵を雇う事は多いのは魔獣が生息地を変える事が希にあるからだ。だからエラン達はすんなりと商隊の護衛として荷馬車に乗る事が出来た。
エラン達を乗せた商隊がフライア帝国のタイケスト山脈近くにある町に到着するとエラン達はしっかりと報酬を受け取り,そこからは徒歩でブラダイラ王国に近い町を目指して歩き続けた結果として野宿で夜を過ごす事も多かったが一気に目的地にまで辿り着く事が出来た。
エラン達が居るのはフライア帝国の国境近くにあるハニアプという町だ。それに道中で急いだ事もあり,エラン達がハニアプの町に辿り着いたのは夕暮れ時だった。そこから夕食が出る宿を探して見付けるとエランは疲れている身体を癒やす為に長々とお風呂に入って早めに就寝したが未だに気怠さがあるという事はそれだけ急ぎすぎたという事も意味していた。自然と急いでしまった結果はエランが旅をする目的でもある。
スレデラーズ,世界一の鍛冶師が作った世界最高峰の剣とされている三十本の剣はそう呼ばれおり,その全てを集めるのがエランの目的だ。だがエランは寝床に身体を預けながら反省をしていた。
エランはスレデラーズを手に入れる為に目的地と定めたハニアプの町まで辿り着いたが,その先が決まっていないのと同然だ。ブラダイラ王国にスレデラーズと,そのスレデラーズを使う者が居る事だけは分かっているが,そこからどうやってスレデラーズを手に入れるかと問われると未だにエラン達は回答を得てはいない。なのに疲れる程に急いだから無駄に急いだとも言える結果と成ったからだ。だからエランは寝床に白銀色の髪を広げて,その上に気怠い身体を横たえながら少しずつ動き出した思考が自然とエランの頭に言葉と成って現れる。
……疲れてる。ここに到着して分かったけど,ここまで急ぐ必要はなかった。どのみちここで情報を得る為に動かないとだけど急いでも結果が早まる事はない。まだ何をすればスレデラーズを手に入れられるのか分かっていない,それなのに私に合わせてハトリとイブレを急がせた。後で謝らないと……その必要もない。私が無駄に急いでいる事を理解して付き合ってくれたから。だから今ここで,ごめんね,イクス,ハトリ,イブレ。
全く表に出さずに謝罪するエランは寝ているようにも見える。そんなエランを慰めるように朝日が窓掛の隙間から差し込むと寝床に広がっているエランの髪に当たって小さな白銀色に輝く。それから意図して思考を停止させたエランは唯々,気怠い身体を横たえながら天井を見詰めるのだった。
「おはようですよ」
ハトリは目を覚ますとすぐに身体を起こして反射で挨拶を口から出すと隣で寝ていたエランもようやく上半身を起こしてから,両手を組んで身体を上に伸ばした後に口を開いて挨拶を出す。
「おはよう,イクス,ハトリ」
「おはようだな」
「おはようですよ」
エランに釣られる形で二度目の挨拶をしたハトリは大きな欠伸をすると未だに眠い目を擦っているので,エランもハトリを急がせる事はせずに寝床の上で座り直してから再び身体を伸ばす。いつもとは違ってゆっくりとしているエランに気付いているイクスとハトリが何も言わないのはエランが自分の行動に気付いたのだと察したからだ。
寝床の上で少しの間だけ何もせずに身体を休めるエランとハトリ。その一方で寝床が敷かれている寝台の横に立て掛けられているイクスが何も声を発しないのはゆっくりとエランを休ませる為というイクスなりの気遣いだ。なのでエランとハトリは朝日の温もりを感じながらゆっくりとした時間をしばらく過ごす。
朝ならではの静かで穏やかな空気を感じていたエラン達だが,いつまでもゆっくりとはしていられないのでエランは寝床から出て寝台から降りると靴を履き,そのまま自分の鎧が掛かっている所まで歩いて行く。エランが動き出したのでハトリも動き出して着替えるとそのまま荷物を確認する。
全ての鎧を身に着けたエランは窓の方へと歩くと一気に窓掛を開けて,窓から満遍なく朝日を取り入れると次はイクスの元へと向かう。イクスを手に取ると背負って鞘に取り付けてある革紐をしっかりと締めて固定すると,今度は両手を首元から髪の下に入れて一気に髪を引き出した。
舞い踊るかのように広がったエランの髪は朝日に当たって白銀色の煌めきを散りばめながら広がっていくと,今度は整うようにゆっくりと落ちてイクスの鞘を覆い隠すかのように集まりながら整って行く。エランの後ろ髪が白銀色に煌めきながら真っ直ぐに成ると準備が終わったとばかりにハトリの方を見たら,エランの視線に気付いたハトリが頷いたのでエランが声を掛ける。
「イクス,ハトリ,行くよ」
「はいですよ」
「まっ,少しはのんびりと行こうや」
「うん」
イクスの言葉に返事をしたエランは短いけどしっかりと返事をした。イクスなりにエランが気を張っている事を緩める為に発した言葉だからこそ,エランは理解しているとばかりに短い返事だけで済ましたのでイクスがそれからは黙るとエラン達はそのまま部屋を後にする。
宿泊した宿には食堂も有るので,まずは朝食と食堂へ向かったエラン達を待っていたかのようにイブレの姿が有ったのでエラン達は朝食の注文だけを済ますとイブレと同じ角卓に着く前に口を開く。
「おはよう,イブレ」
「おはよう,エラン,イクス,ハトリ」
「おはようさん」
「おはようですよ」
朝の挨拶をしながらエラン達は席に付く。エラン達がゆっくりしていた為かイブレは既に朝食を済ませて朝の珈琲でゆっくりしていたようだ。そうなると当然の様にこれからの事が話題と成って会話が始まる。
「聞くまでもないと思うけどですよ,一応聞いておくですよ。イブレはこれからどうすれば良いと思っているですよ」
「もちろん冒険者ギルドに行くしかないだろうね。フレイア帝国とブラダイラ王国は常に戦争状態にあると言っても過言ではないからね。もっとも,その殆どが小競り合いで大規模な戦は希にあるぐらいだからね。だから冒険者ギルドの掲示板に募兵の張り紙があるから,後は募兵の内容によるね」
「んっ,なんで内容なんて気にするんだ?」
「僕達はスレデラーズを手に入れる為にここまで来たんだからね。その為にはブラダイラ王国の国境沿いで参戦するのが一番良いんだけど,全く関係が無い僻地に参戦しても意味が無いからね。それに気になる事も有るからね」
「ブラダイラ王国の切り札,スレデラーズの使い手」
「そう,エランが言った通りに僕なりにこの町に来るまで情報を得ようとしていたんだけどね」
「それを聞いただけでも何も分かっていない事が分かるですよ」
「その通りなんだよね。そこで僕が考えるに,とりあえずは冒険者ギルドでは募兵を募っていても参戦せずに情報収集を優先したいかな」
「うん,分かった」
イブレの提案をすんなりと受け入れたエランにイブレは少しだけ驚いた表情を見えるが,すぐにいつもの微笑みを見せたのはイブレなりにエランの心が落ち着いた事を確認する事が出来たからだ。だからイブレは自分の考えを話し続ける。
「情報を得る事も大事だけど,フライア帝国の正規軍が動いてくれるなら乗るのも有りだと考えているよ」
「なんで正規軍ですよ?」
「正規軍,フライア軍が動くと成れば相当な戦力を投入してくる筈だからね。そうなれば戦闘が大規模に成り,ブラダイラ軍も切り札を出してくるという訳だよ」
「要するにフライア帝国が動けば敵さんのブラダイラ王国も動くって訳だな」
「簡単に言えばそういう事だね」
「出来れば物事もイクスみたいに簡単に行きたいですよ」
「こいつはサラッと俺様を煽ってくるんじゃねえ」
ハトリの言葉に文句を言ってきたイクスにハトリは睨みを効かせてイクスとハトリが睨み合う。とは言っても傍目から見ればハトリがエランの背中を睨んでいるようにしか見えない事にイクスとハトリは気付いていないのでエランが会話を進める。
「それでイブレ,スレデラーズの情報は?」
「情けない事に全然ダメだね,それを含めて冒険者ギルドに行くしかないんだよ。もっともフライア帝国の正規軍なら確実な情報を持っているからね,だからフライア帝国の正規軍に入る事が出来れば上出来と言える。というのが現状だね」
「そう,もしフライア軍が動くとしたらどれ位の投入?」
「そこも悩み所でね。僕としては数千,出来れば一万ぐらい動いてもらえたらいろいろとやり易いんだけど。先も言ったけど,ここでの戦は小競り合いばかりだからね。正規軍が動いても数百も動けば良い方だろうね」
「けど今のところはそれすら見込めない」
「フライア帝国も自国領内だからと言って自分達の動きを晒す程に愚かではないという訳だよ」
「間者なんて何処に居てもおかしくはない」
「その通りだから苦労しているよ」
「もしフライア軍が動かなかったら?」
「動くしかないようにするしかないね」
「こいつはまたサラッと企んでいるですよ」
「そこは同意見だが,今回はイブレの頭に頼るしかねえみたいだな」
睨み合いに飽きたのかハトリとイクスが会話に入ってくる。その機会を待っていた訳ではないが,同時にエラン達が頼んだ朝食も運ばれてきたので自然と会話が止まりエラン達の前に朝食が並ぶ。
ハルバロス軍のケーイリオン将軍が報酬をかなり出してくれた事とエランの所為で無駄に急いだ事あり,金銭に余裕がある為にエラン達はそれなりに高い宿に泊まっていたので運ばれてきた朝食もそれなりに手の込んだ料理が並んでいた。その料理を前にエランとハトリは両手を合わせてから口を開く。
「いただきます」
「いただきますですよ」
朝食を口にするエランとハトリ,かなり美味しいみたいでハトリは口に入れた料理に満面の笑みを浮かべる。そんなハトリとは正反対にエランは無表情だが瞳の奥では肉の花が咲いていた。そんなエラン達を見て微笑んだイブレは珈琲を再び堪能するとすっかり暇になったイクスが話し相手になれとばかりに喋り出す。
「それにしてもイブレよ,お前がここまで何も分からねえのも珍しいじゃねえか」
「それだけブラダイラ王国が厳重に情報が出ないようにしているのか,他の要因があるのかと言った感じだね」
「他の要因ってのは何を指してんだ?」
「それはいろいろだよ。僕だって全てを見通せる力なんて持ってはいないからね」
「そりゃあそうだな,テメーの予想外だって有るのも当然だからな」
「その通りだよイクス,陰謀や謀略なんていつ誰がやっても不思議じゃないからね」
「けっ,そりゃあお前も同じだろ」
「否定はしないよ」
「……ったくよ」
皮肉が全く通じなかった事に少しだけ不機嫌になるイクスにイブレは意図して微笑むと,挑発に乗ったかのようにイクスが再び喋り出す。今度は取り留めのない会話を続けて時間を潰すイクスとイブレが喋っているうちに料理を食べ終えたハトリはイブレと同じく珈琲を飲んでいると,隣ではエランが食後に出されたベイクドチーズケーキを味わって上機嫌に成っていた。
食後の甘味を一欠片すら残さずに平らげたエランは食器をそのままに立ち上がったのでハトリとイブレも飲みかけの珈琲をそのままにして立ち上がった。そんなハトリとイブレを見てからエランは口を開く。
「行くよ」
「はいですよ」
ハトリだけが返事をしてエラン達は宿の受付へと向かった。何しろ急いで宿を決めた事もあって一泊分の料金しか払ってはいないし,冒険者ギルドに行けば後の行動が決まるので宿をここに決め続けるとは限らない。ついでに言うならエランとしては食事には確実に甘味が付いて,お風呂が広い宿に泊まりたいから今の宿にこだわる必要が無いとも言える。
受付で宿を出る為の簡単な手続きを終えると,ついでに冒険者ギルドの場所をイブレが聞くと地図まで出して丁寧に教えてくれたのでしっかりと道を覚えたイブレを先頭にエラン達は宿から出て行く。そして程なく冒険者ギルドに辿り着くと中に入る。
数組の冒険者達が掲示板に貼られた依頼票を見て検討している中でハトリは早速フライア帝国の募兵に関する依頼票を探し出す。そしてエランとイブレも掲示板を見て回るが,先に見終えたハトリが駆け足で戻って来ると慌てた様子で話し出す。
「無いですよ,募兵の依頼票が無いですよっ! 何処を見ても何一つとして無いですよっ! どうするですよっ!」
「うん,ハトリ落ち着いて」
エランの言葉を聞いてやっと自分が平常心を失っている事に気付いたハトリがその場で深呼吸をする。その間にイブレは顎を軽く摘まみ考えて答えを得るとハトリが落ち着いたのを確認した後に喋り出す。
「早速出鼻をくじかれる想定外という訳だね」
「こいつは何を冷静に言ってやがるですよ」
「そいつは俺様も言いたいな」
「ははっ,イクスもハトリも少しは落ち着いて欲しいな。理由が分からないのなら分かる人に聞けば良いだけだよ」
それだけ言ってイブレが歩き出すとエランが自然と続いたのでイクスは黙り込み,ハトリは呆れたとばかりに溜息を出した後にエランの隣にまで早足で行く。そうしてイブレが辿り着いた場所は冒険者ギルドの依頼受け付けだ。
受付嬢は例に漏れる事無く女性で容姿が良い美人だ。まあ,冒険者や傭兵などと言った戦いを生業としている者は男性が多いので,当然の様にどこの冒険者ギルドも顔役とも言える受付には面接を受けた女性で最も容姿が良い美人を採用するのが当然だ。そんな受付嬢にイブレが話し掛ける。
「少しよろしいですか」
「はい,依頼の受理ですか?」
「いえ,私達はフライア軍の参戦しようと訪れたのですが,全く募兵が無いので何かしらの事情が有ると思いましたので,それを伺いたいのですが」
「その件ですか,私の一存ではお答え出来ないので少々お待ちください」
受付嬢はそう答えると席を離れて後ろに有る扉を開けて中に入って行った。こうなると待つしかないエラン達は大人しく待っているとすぐに受付嬢が戻って来ると再び席に付くと答える。
「この案件ですが,かなり事情が複雑と成っておりますので説明にお時間を頂く事に成りますけどよろしいですか?」
「構いません」
イブレが即答で答えると受付嬢は右手で隣を指しながら,案内をするかのように喋り出す。
「それでは,あそこの者が詳しく説明しますのであちらに向かってください」
受付嬢がそう言いながら指し示した方向には,依頼を募集する為の受付と成っている為か,ここの受付の机よりも広くて椅子まで用意してある場所に別の受付嬢が座っていた。場所が分かったイブレは改めて受付嬢に向かって口を開く。
「ご丁寧にありがとうございます」
「こちらこそご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
社交辞令というか完全に手引書を再現したような会話をするイブレと受付嬢。そして会話を終えたイブレは受付嬢に一礼すると案内して貰った者の元へ歩き出したのでエランとハトリも並んで歩くと,既に連絡は行っていた様でイブレ達を確認した受付嬢が立ち上がってエラン達に一礼すると座るように手で促してきたので,そのままエラン達が席に付いた事を確認してから受付嬢も席に座ると改めて一礼してから喋り出す。
「ご説明の前に冒険者証を確認させてもらいます」
冒険者ギルドを簡単に言うと仲介役だ。何しろ戦いを生業にしているからこそ自分の命だけではなくて他の命すらも守らねば成らない時が有る。だから実力はもちろんの事に素性や経歴までしっかりと把握する為に発行しているのが冒険者証だ。そこには今までこなしてきた仕事から階級が付けられて実力がハッキリと示されている他に経歴を見て冒険者証を剥奪する時もある。
例えば護衛の仕事なのに不利だからと護衛対象を無視して逃げたりすると冒険者証を剥奪されて二度と仕事を紹介してはもらえない,という事を防ぐ為に冒険者ギルドは冒険者証を通して冒険者ギルド同士で情報を共有している。
エラン達が居るアクロライト大陸だけではなくブレールース中にある冒険者ギルドが行っている事だ。まあ仲介役だからこそ依頼を受ける仕事も紹介する者も不備が有っては冒険者ギルドの信頼に関わるから,このように充分な確認が出来る認証制度を取っている。そして当然ながらエラン達も持っているのでイブレは自分のをハトリはエランと自分の冒険者証を出す。
エラン達の冒険者証を受け取った受付嬢は専用の魔道機器を通して様々な事を確認する。普通の依頼ならこれで終わりなのだが,やはり国家が関わっているからか受付嬢は冒険者証の内容を口頭で確認してくる。
「イブレーシン=シャルシャ様,階級は特一級でお間違えはございませんでしょうか?」
「はい,間違いはありません」
相変わらず模範的な受け答えをするイブレ。ちなみに冒険者ギルドが定めている階級で最も上なのが特一級だから,イブレはその身なりとはかけ離れた実力を持っているという事だ。まあ,悪知恵だろうが実力は実力だから間違いはない。そしてイブレに続いてエラン達の確認へと移る。
「ハトリ=シーソル様,階級は特一級でお間違えはございませんでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
「エラン=シーソル様,階級は特一級でお間違えはございませんでしょうか?」
「はい」
国に関わる情報を聞くのだから,これ位は当然でこれで終わりだと思っていたが受付嬢はエランの冒険者証を手に取りながら見詰めている。そして顔を上げるとエランを見ながら喋り出す。
「大変申し訳ございませんが,一つだけお伺いしてもよろしいでしょうか」
「何?」
エランの顔を見ながら言ってきたのだからエランについて聞きたいのだろうが,エランとしては何一つとして問題と成る事が有るとは思っていなかった為に意外に思った。そのエランはいつも通りの無表情なので受付嬢がそこまで察する訳がなく躊躇する事なく聞いてくる。
「間違っていたら申し訳ございませんが,貴方が白銀妖精なのでしょうか?」
確かにエランが白銀妖精という異名を得て噂が広まっているのはエラン自身も知っている事だが,それが何の問題に成るのかと分からなかったエランは首を傾げながら答える。
「そう呼ばれる事も多い,それが何か問題?」
「いえ,そういう訳ではございません。大変な失礼をして申し訳ございません」
謝罪の言葉と共に一礼する受付嬢にまだ事情が飲み込めないエランは未だに首を傾げたままだ。まあイクスとしては小声でエランに教えても良いのだが,以前にこうした場で喋った事で大変な事に成った経験が有るので黙っている事にした。そして未だに好奇心だけで聞いてきた受付嬢の質問が分からないエランをそのままにして話は本題に入るのだった。
さてさて,後書きです。いろいろと有りましたが,いよいよ第三章に入りましたね~。いやはや,私事でいろいろと第二章では長引かせてしまいましたが,第三章は順調に行きたいですね……まあ,現時点でいろいろとありましたが……。
さてはて,私としては第一話でもう少し書こうかと思ったのですが,長く成り過ぎて更新が遅れると思ったので今回はここで区切らせてもらいました。まあ,予定としてはエラン達が冒険者ギルドを出る所まで書こうかと思っていたんだけど……ついいろいろと今まで書いていなかった事を,ってか単に書き忘れていた事を書いた為に区切らせてもらいました。
さてさて,ここから第三章が始まる訳ですが,まあここまで読んだら分かっていると思いますが今回もエラン達は戦争に参加するという第二章と同じような展開ですが,いろいろと違う点も用意して有りますので,そこも含めて楽しんで頂けたら幸いです。という事でそろそろ締めましょうか。
以上,出来れば周一ぐらいで更新して行きたいけど,ついゲームをしてしまう葵嵐雪でした。




