第二章 第二十九話
部屋を出たエラン達が向かったのは階段ではなく,円柱の太い柱に大きな入口が付いて中が空洞に成っている場所だ。ハルバロス軍がゼレスダイト要塞を完全に陥落させた事で要塞の設備が使えるように成った事を先程の伝令から聞いていたのでエラン達はこの柱を目指してきた。そしてエラン達は躊躇う事無く柱の中へ入ると天井はそんなに高くなく地面には魔方陣が描かれていた。そしてエランが口から言葉を出す。
「謁見の間」
エランがその言葉を発した途端に魔方陣が光り出すと柱の中からエラン達が消えるとエラン達は別の場所にある柱の中に居た。ゼレスダイト要塞はかなり大きくて広い要塞だからこそ,このような転送魔法を利用した魔道装置が設置されている。なので祝勝会が開かれる謁見の間,その近くまで一気に移動したエラン達が柱の中から出ると隣の柱が光り,その後にラキソスが姿を現すとエラン達に気付いて話し掛けて来る。
「皆さん,お疲れ様です」
「うん,ラキソスもお疲れ」
「疲れているのはお互い様ですよ」
「俺様はまだまだ騒ぎたいがな」
「はははっ,それは勘弁してもらいたいですね」
イクスの言葉を聞いてラキソスが苦笑いを浮かべながら言葉を発するとイクスが拗ねたような黙り込んだのでラキソスから会話を続けてくる。
「そういえば明朝には旅立たれると聞きましたが急な事ですね」
「うん」
「その前にですよ,その事を誰から聞いたのかを知りたいですよ?」
「イブレ殿ですよ,部屋によってみたら旅支度をしているので理由を聞いたら答えてくれました」
「相変わらず口が軽いですよ」
「その言葉は少し前に俺様も別な奴に言ったな」
「それはイブレだから仕方ないですよ」
「だな」
「相変わらずイブレ殿には厳しいですね」
そんな事を言いながら微笑みを浮かべるラキソス。祝勝会がある為か鎧を全く着けてなく,身軽だが正装らしい整えられた服を身に着けていた。そんなラキソスが改まってエランに向かって話し掛ける。
「そういえばエラン殿にお礼を言っていませんでしたね。今回の戦いではエラン殿に助力を頂いて大変感謝しております,エラン殿が居なければ私達は未だにモラトスト平原で戦っていたでしょう。ハルバロス軍を代表して改めてお礼を申し上げます」
「そこまで感謝の言葉を述べなくても良い」
「そうですね,だからメルネーポに堅いと言われるんでしょうね。けど明日には旅立たれるという事で寂しいですね,私的な事を言わせて貰えばもっとエラン殿達と一緒に戦いたかったです。けど引き留める訳にはいかないですからね,なのでエラン殿達の旅路が良き旅に成る事を願います」
「うん,ありがとう」
「それとハルバロス帝都を訪れる事が有ったら是非とも城に出向いてください。私も含めて歓迎させてもらいますよ」
「分かった,覚えておく」
最後までラキソスらしい言い方だが,その分だけエラン達を理解したとも言える。最初は一線を引いてエラン達をただの傭兵としか見ていなかったラキソスだったが,エランがスフィルファを簡単に討ち取ると自分の理解を反転させてメルネーポに引っ張られ形でエラン達と改めて対面した。その心底にケーイリオンの教えがあった事をラキソスはしっかりと理解しており,何となくだがエランにも察する事が出来た。だからこそ,今はこうして話をする事が出来る。
「そういやラキソスの兄ちゃんよ,随分と礼儀正しい格好をしているじゃねえか」
「えぇ,メルネーポに次いで私の昇進も決まったので儀礼服を着ているだけです。とは言っても実際に昇格するのは帝都に帰ってから皇帝陛下から直接賜るんです,その時には任官式が行われますから他の者も出世が決まっているのでしょう」
「へぇ,そいつはめでてえな」
「うん,おめでとう」
「ありがとうございます,とは言っても素直に喜べないのが本音ですけどね」
「今回の勝利がエランによるモノがそんなに悔しいですよ?」
「そうでうね,悔しくないと言ったら嘘に成りますが,それ以上に役立つ事が出来なかった自分自身の未熟さに悔しさを感じてます」
「そんな事はないと思うけど」
「私自身がそう思っているだけですよ」
そう言って微笑むラキソスにエランは頷いて見せると瞳の奥で土から芽を出す。誰もがこうして成長していくのだとエランが改めて思っていると,ラキソスがエラン達から視線を外して近くにあった時計に目を向け時間を確認してから再びエラン達に話し掛ける。
「そろそろ時間に成りそうですね,行きましょうか」
「うん,分かった」
ラキソスと並んで歩くエラン達,イクスとハトリはラキソスとの会話を楽しんでいるがエランはもう一人の成長についても考えていた。そんな事をしているうちに祝勝会の会場と成る謁見の間に付いたのでラキソスは紳士らしく扉を開けるとエラン達から中に入るように促したのでエラン達は謁見の間に入る。
要塞ながらも権力者が使う部屋なだけあって広く装飾も豪華で大きな絵も掛けられている。部屋の奥には最高権力者が座る為の豪華な椅子があり,段数が少ない階段の数段上に設置されていたが今では誰も座っていない。そして広い部屋には多くの円卓が設置されており豪華な料理が並んで集まって者達は立食で料理や会話を楽しんでいた。部屋の中を確認しているとラキソスが話し掛けて来た。
「ケーイリオン将軍が来られるまでご自由に食事をしててください。私は立場上いろいろとやる事があるので失礼します」
「うん,分かった。ありがとう」
「いえいえ,それでは楽しんでください」
丁寧にエラン達に一礼してからラキソスは部屋の奥に向かって歩き出して行った。そんなラキソスを見送っているとエランの目にケーキが並んでいる専用の円柱が目に入ったので,自然と本能が赴くままにエランはそこを目指して勝手に歩き出すとエランの目的に気付いたハトリが溜息を付きながらも続いた。
ショートケーキ,チョコレートケーキ,ロールケーキ,パウンドケーキ,シフォンケーキ,エンゼルケーキと多種多様な甘味が並び円柱の台に重なっているのだから選びたい放題だ。こうなるとエランの独壇場と成り,気になった物から小皿に移すと切り取って口へと運び満喫してご機嫌に成る。そんなエランとは正反対にハトリは隣の円卓にある料理を小皿に乗せてエランの所に戻ると料理を満喫していた。
エラン達が祝勝会の料理やデザートを満喫していると騒がしい一団が入って来たのでハトリがそちらに目を向けると,先程別れを告げたヒャルムリル傭兵団が入って来たが人数から見て全員とは行かなかったみたいで何かしらの方法で決まった団員がカセンネに同行する事が出来たので人数は少ないが祝勝会の料理に騒いでいる事は一目で分かる程だ。だがこのような場が好きなレルーンの姿は無かった。
同行してきた団員達にあまりはしゃがないようにカセンネが言い付けるとハトリの視線に気付いたみたいで,カセンネとハトリの目が合うとカセンネは団員達に羽目を外しすぎないように釘を刺したらエラン達の元まで歩いて来た。一応祝勝会という場でもあってカセンネも傭兵ながらも軍人の正装に近い格好をしていた。そんなカセンネがエラン達と合流すると早速ながら言ってくる。
「エラン,祝勝会と言っても儀礼式も含まれるんだよ。なのにいつもと同じ格好はないだろうさね。しかもしっかりと鎧まで身に着けているのは流石にどうかと思うよ」
「私は気にしない」
「そういう問題じゃないだろうね」
「カセンネの団長さんよ,そういう事をエランに言っても無駄だぞ。なにしろエランはこれと同じ服しか持っていないからな」
「なら用意して貰ったらどうだい」
「必要性が感じられない」
「これですよ,こうなったエランの意見を変えるのは苦労するですよ」
「まったく,こっちはこっちでしょうがない子だね」
そう言いながらもカセンネは微笑んでいた。エランらしいと心底から思って可笑しくなったからだ。そんなカセンネがハトリの小皿を見てから近くの円卓を確認すると,そちらに向かって歩き出したからハトリも同行した。祝勝会は立食で行っているから料理が置かれている円卓の足が高い為にハトリでは手が届かない料理を取って貰う為だ。
カセンネはハトリに言われるままに料理を取るとハトリの小皿にも料理を乗せた。面倒見が良いところがあるからこそヒャルムリル傭兵団の団長が務まるという訳だ。そしてエランの元へ戻って来ると会話が再び始まる。
「そういえばエラン,聞いていると思うけどあんたはあたしと一緒に表彰されるんだよ」
「うん,聞いてる」
「なのにその態度とはね,何と言って良いのやら」
「エランはいろいろな意味で肝が据わってやがるからな,あまり気にしない方が良いと思うぞ」
「なるほどね,それなら心配は要らないか」
「最低限の礼儀作法は得ているつもり」
「そりゃあ良かった,こんな場だからね失礼が有ったら報酬を無しにされるだけじゃ済まないからね」
「問題は無い」
「エランの言う通りですよ。それにこんな様な経験は今回が初めてではないですよ」
「なるほどね,だからかい」
「そういうこった」
このように会話が完結するが当のエランは首を傾げている。なにしろエランはカセンネに心配されていた事にさえ気付かず,何の話とと言わんばかりに首を傾げているのだからイクスとハトリはあえて何も言わない事にしている。それから少しだけカセンネと共に居ると部屋の入口が騒がしくなるとエランを含めてその場に居る全員が中央の椅子への道を作るかのように移動すると声が轟く。
「ケーイリオン将軍ご来場っ!」
扉が静かに開いていくと如何にも大将軍らしい正装をしているケーイリオンが姿を現して部屋の真ん中に出来た道を歩み出す。そして豪華な椅子が設置されている階段を上ると椅子に座る事無く振り向いてその場に居る全員を左から見渡し,自然とその場に居る者が動き出して中央の道が消えるのと同時に適度な間隔を開けて待つ。そして一通り見渡したケーイリオンがその場に居る全員に向かって口を開く。
「皆,ご苦労だった。今回の勝利は誰かの勝利ではなく,この戦に加わった者達の勝利だ。そして今までに無い程の大きな勝利で有り,我らはゼレスダイト要塞を手に入れる事が出来た。死んで逝った者達の墓標としては充分なモノを我らは手に入れた,だが死者は蘇らないのは必然で敵味方の区別もないからこそ栄誉を称える為に全員で黙祷を捧げるとしよう」
ケーイリオンはそう言った後に階段の下に控えていた側近の兵に向かって頷くと,その兵が大声を発する。
「黙祷っ!」
声が轟くとハルバロス兵達は胸に手を当てて目を閉じて祈りを捧げるが,エランは特に何する訳ではなく立っていると隣にハトリが小声で話し掛けて来た。
「流石にエランのおかげとは言えないですよ」
「ハトリ」
「はいはいですよ」
ケーイリオンが入って来た事で堅苦しい雰囲気に成ったのでハトリなりにお茶を濁してみたが,エランの一言でやっぱりという感じで黙り込むハトリ。そんな事をしている間に黙祷の終わりを告げるように再びケーイリオンの側近が大声を発する。
「総員休めっ!」
その声を聞いてハルバロス兵達が先程の様に静粛な雰囲気に戻るとケーイリオンが再び全員に向かって口を開く。
「先程も言ったがこの戦に加わった者達の勝利だ。そこには我が軍だけはなく傭兵も含まれるのは当然の事だ。よって,この場で傭兵ながらも主立った活躍をした者達に敬意を現す為に表彰と報酬を渡そう。白銀妖精ことエラン=シーソル,ヒャルムリル傭兵団団長カセンネ,共に前に出るが良い」
出番かと呼ばれた事もあり,食べかけのケーキが乗っている小皿をハトリに渡すとエランはカセンネと共にケーイリオンが立っている階段の前まで進み,一段たりとも登る事無くひざまついて左膝と軽く握った左手を床に付ける。そんな二人を見てケーイリオンは一度だけ頷くと二人に向かって話し掛ける。
「両名とも此度の戦では実に見事な活躍をしてくれた。其方達の活躍が有ったからこそゼレスダイト要塞を落とせたと言っても過言ではない事は,この場に居る全員が知りうる程の働きでありよく戦ってくれた。このケーイリオン心から感謝を述べよう,エランにカセンネよ……ありがとう」
エランとしては少し不思議な感覚が生まれる。ケーイリオンの様な権力を持つ者が,ここまで砕けた言葉で素直と言って良い程に「ありがとう」と言った事が不思議だと思えた。エランは今までに同じような事を何度かしてきたが,ここまで素直に心からの言葉を聞いた事が無いから権力者はそういうモノだと思っていた。だがエランが思っていたのはすぐに吹き飛ぶ事に成った。
ケーイリオンが言葉を発した後に少しだけ間を置いて,その場に居たハルバロス兵達が一斉に拍手をしたからだ。この拍手はエランとカセンネに送られる拍手で有り,その様に軍を教育していたケーイリオンだからこそ起こった慶賀の拍手だ。これもまたケーイリオンが総大将を務めたからこそ行われた事だ。そのケーイリオンは二人に手で立つように促して来たので立ち上がるエランとカセンネ。次は振り向くように手で合図したのでエランとカセンネが振り返ると拍手は最大限の大きさと成り二人に送られる事に成った。
少しの間だけ拍手の嵐を浴びていたエランとカセンネだが,ケーイリオンが拍手を止めるように手を出すと徐々に拍手が収まりエランとカセンネは再びケーイリオンの方へと振り返る。そしてケーイリオンは階段の下,最も左右に居る側近に向かって頷くと側近はすぐに動き出し,ケーイリオンはエランとカセンネに向かって再び口を開く。
「さてエランにカセンネよ,共に見事な活躍をしたからには報酬を弾ませてもらおう。私からではなく,我が軍からの報酬と思って受け取ってくれ」
その言葉が終わると先程動いていた側近が革袋を持ってエランとカセンネの傍にまでやって来ると革袋を差し出した。カセンネに渡された革袋はかなり大きく大柄なカセンネでも両手で抱えない程に大きくて重い。そしてエランが受け取った革袋は片手で持てる大きさだが見た目通りに重い。ケーイリオンが先程報酬だと言ったのだから中身は金レルスなのは分かりきっている事だ。なのでカセンネは満面の笑みを浮かべているが,エランはいつも通りに無表情のまま革袋を手にケーイリオンの方に向くとケーイリオンが再び口を開く。
「両名ともに多大な活躍ご苦労だった。今宵は退がって充分に休み楽しむが良い。他の者も同じだ,今宵は勝利の祝杯を共に掲げようではないか」
そう言ってケーイリオンが右手を挙げるとハルバロス兵達は酒の入った盃を高らかに掲げるのだった。
やるべき事が終わったエランとカセンネ。カセンネは受け取った報酬が大きい為にそのまま部屋から出て行き,エランもハトリの元へと戻って来てハトリに報酬が入った革袋を渡した。流石にこのような場だからいつもの荷物を持ってくる訳には行かないので一先ずはハトリの服に付いている衣囊に布袋を入れる。そしてエランはハトリに預けていたケーキを一気に食べ終わるとイクスとハトリに声を掛ける。
「イクス,ハトリ,行くよ」
「あぁ,やるからには全力で行こうぜ」
「分かってる」
「へっ,えっ,何ですよ?」
「そういやあの時ハトリは居なかったな,行きながら話してやるよ」
イクスがそう言い出したのでエランは困惑しているハトリを連れて祝勝会の会場から出て行く。廊下に出ると窓の外には暗闇が広がっており,月光に照らされてタイケスト山脈が独特な色で照らされている。そんな廊下を黙って歩くエランにイクスから説明を聞いているハトリが先程使った円柱の柱に入るとエランが言葉を発する。
「訓練場」
真下に有る魔方陣が光を発するとエラン達を別な場所へと転送した。そしてエラン達の転送先は暗い廊下みたいなモノが続く場所で少し遠くに光が見える。なのでエランは躊躇う事無く歩き出す。そしてやっと説明が終わったイクスは黙り込み事情が分かったハトリも黙ってエランの横を歩くと光が差し込む場所へと出た。
月明かりに照らされているという事も有るが,大きな広場に定間隔で柱が建ち並んでおり照明灯を二つか三つ程ぶら下げている。そしてエラン達が出た場所はかなり広く縦長な場所と成っていた。そしてその奥には重装装備で兜だけを外しているメルネーポの姿があった。
エランはいつもの歩調で歩いて行くとハトリは広場の中央にある柱に向かって歩みを進めて辿り着くと柱の支柱に腰を掛けた。そしてエランに気付いたメルネーポが振り向くとまるで戦場に居るかのような鋭い目付きをしており,右手に持っているバルディッシュを握り締める。そんな二人が対峙するかのようにエランが歩み寄り,一定の距離で止まるとエランから言葉を出す。
「待たせた?」
「少々な,だが祝勝会と言っても儀礼式には違いはないから文句などを言う訳がない。それどころか待てば待つ程に身体が熱くなるのを感じていた,まるでこの時を待っていたかのようにな」
「そう,その感覚は私には分からないけど良かったで良いのかな?」
「あぁ,私はエランがスフィルファを討ち取ったのをこの目で見て,この身体と共に一緒に戦った。だから私自身がこの時を待っていたのかもしれない」
「待たせたら悪い?」
「もちろんだ,今すぐにでも始めたい気分だ」
「分かった,イクス」
エランが右手を斜め上に挙げてイクスを呼ぶと鞘から飛び出したイクスが半回転してエランの右手に握られたら,エランはすぐに右に身体を右足を後ろに回してイクスを右下に構える。それと同時にメルネーポも右手に持っていたバルディッシュを大きく回して,柄が左の横腹に付く程に近づけて左腕で押し固めつつ矛先を真正面に向けると両手でしっかりと握り締めた。
臨戦態勢に入った二人に言葉は不要とばかりに二人ともに何も喋らないまま戦いの空気が流れる。エランはただ立っているだけの状態で全く動かない,メルネーポはエランの動きに注意しながらゆっくりと前進してくる。動きは遅いが,その遅さがより緊張感を膨らませる。
徐々に二人の距離が近づく。まだ二人には距離がありお互いの間合いには入らないが,あと少しという所でメルネーポが一気にバルディッシュを突き出した。矛先が一直線にエランへと向かって行くが,エランは右前に向かって身体を左に回転させながら避けると一気にイクスを振り上げる。
イクスの刀身がメルネーポに迫るが,これ位は予め予想していたのかメルネーポは左脇の柄を押し出してイクスを受け止めるが衝撃によって弾き飛ばされそうに成ったのを踏み止まった。メルネーポが重装装備の重い鎧を身に着けていなかったら確実に吹き飛ばされていた。それはエランにも分かっている事ですぐに次の行動に出る。
イクスを振り上げた勢いを利用して一気に吹き飛ばしたメルネーポが居る空中に舞い上がるエラン,その一方でエランの戦い方を見てきたメルネーポはエランが消えた時は空中に居る時が多い事を知っていたので真っ先に上を確認するとエランの姿を捉える。それでもエランは空中で振り上げたイクスを止めて,そのままイクスを振り上げた姿勢を維持する。
エランの姿をしっかりと捉えているメルネーポは咄嗟に身体をエランの方へと向けると,突き出したバルディッシュを引き戻して一気に上に挙げる。そこにエランが降下してくるのと同時に前方に回転しながらイクスを振り出してきたので再びイクスとバルディッシュが交わり,今度はエランの方から意図的に退く形で距離を取った。
攻撃を凌いだメルネーポだが両手には軽い痺れを発しており,エランがイクスを振るった時の威力を物語っていた。それでもメルネーポは戦いを止めるどころか喜々としてエランとの戦いを楽しむかのように口元に少しだけ笑みが浮かんでいた。そんなメルネーポが感じ取ったモノを心に刻む。
これがエランの戦い方,デスティブか。
臨戦態勢の二人とは正反対に遠くで見ているハトリは気軽なものだ。だから二人の戦いを見ながら先程イクスから聞いた話を元に少し考える。
それにしてもですよ,メルネーポの方からエランに試合を挑むなんて意外ですよ。エランの実力は到底敵わないと分かっている筈ですよ……だからとも言えるですよ。よく考えてみたらですよ,これは試合だから死にはしないからこそエランに挑みたくなったとも考えられるですよ。メルネーポは命を懸けた戦いを知っているからこそ試し合いでエランに挑みたくなったと考えるのが自然ですよ。
結論を出したハトリはメルネーポの意思を汲んで黙って見守るとエランの猛攻が始まっていた。一気に距離を詰めたエランは大きく跳び上がらすにイクスの切っ先が地面を斬り裂かない程度に跳びながら,上下左右から回転しながらイクスを振るい続けた。その為に徐々に回転の勢いが増してイクスがバルディッシュに当たった時の衝撃が強くなって行く。
バルディッシュで何とかイクスの攻撃を防いでいるメルネーポは防戦一方で未だに反撃に転じる事が出来ない,というよりも反撃に転じるだけの時間をエランが与えずに連続してイクスを振るって来るので防ぐだけで精一杯だ。それでもここまでエランの攻撃を防いでいるのだから大したものだ。
攻勢を続けるエランに防戦をするしかないメルネーポの試合は両者の立場を変える事なく続いた。身体を回転させながらイクスを振るうエランに,何とか攻撃を受け流す事が出来てるメルネーポ。そして何度もイクスを受け流しているからこそメルネーポはしっかりと感じていた,エランが攻撃をする度に徐々に速度と威力が上がっていくのを。そして両者の試合は突如として幕を閉じるのだった。
さてさて,後書きです。え~,ツイッターでは昨日が更新予定だったのですが,PCの処理時間が七時間以上も掛かり,その間は何も出来ずに更新を翌日に繰り越す事に成りました。なのでお待ち頂いた方には本当にお詫び申し上げます。
さてさて,社交辞令的な謝罪が終わった事で話が変わりますが,予定では次が第二章の最終話にするつもりです。なのでっ!! ……ちと長くなって更新が遅れるかも……。という事もあり遂に第二章も完結する……かもしれません。
さてはて,第二章もいろいろとありましたね。ま~,殆どが私の持病が引き起こした事が発端だったんですけどね。まあ,こればかりは仕方ないと自分自身では割り切っていましたが,読んでくださる方にはお待たせして申し訳ないと思っております。……いやね,私も書こうと思っても動くに動けなかったんですよ,これが。まあ,そんな訳でね,いよいよ第二章も終わるので次の第三章は少し間を開けてから書き始めようと思っております。理由=その次の第四章のネタが思い浮かばないから。そんな訳で少し時間をくださいな,というお願いをしたところでそろそろ締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。そして,これからも気長によろしくお願いします。
以上,グランツーリスモ7で4WDやMRばかり乗ってたからFRの乗り方をすっかり忘れている葵嵐雪でした。




