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49 秘めし色々

 思い返せば、レシュティアがライガーに惚れるきっかけは色々あったようにも思える。


 彼女がプライドよりも自族の安全を優先して頭を下げた時、真っ先に協力を表明したのはライガーだった。

 さらにエイジが厳しい口調で現状を説いた時、レシュティアを庇う立ち位置に立ったのもライガーであるし、彼女を抱えてジャンプした時は身を挺して落下の衝撃から守ってやりもした。


「……こうして一つ一つ思い返してみると、紳士的な行動が多いわねライガーさん」

「レシュティア殿は、男性に抱きつくのも初めてとか言っていましたし、勢いで好きになってしまっても仕方がないかと……」


 レシュティアの去ったあと、残された女性陣の視線が、ライガーへ集中する。

 さすがにライガーも物怖じして腰が引ける。


「んだよ!? そんなこと言ってもオイラは竜人で、向こうはエルフだぞ! 種族が違うじゃねえか!?」

「他種族間では、恋愛スキル値が200に達したら結婚可能だよ」


 エイジの余計な解説が差し込まれる。


「まあ、もちろん双方の恋愛スキル値が揃わないとダメだけどね。大体、交流系の心理スキルは互いのコミュニケーションがないと50以降は上がらないし」

「なんでそんなに詳しいんですエイジ様?」

「他種族間の恋愛について、僕はどうこう言える立場にないから……」


 周囲がごちゃごちゃしている中で、当事者であるライガーは途方に暮れていた。

 ケンカに明け暮れるだけで楽しいと日々を過ごしていた少年が、突然愛の告白を受けて自分の知らない世界に戸惑っているかのような、というよりそのものだった。


「し、師匠……! オイラ一体どうすれば……!」

「そこまで僕に聞かれてもなあ……」


 師匠呼ばわりすれば何でも答えてくれるというわけでもない。


「こういうことが起こり得るから、他人のスキルウィンドウは迂闊に覗いちゃいけないのに……!」

「心理系スキルは上限が低いから比較的簡単に隠せるのにね……!」

「レシュティア殿はライガー殿に出会ってまだモンスターと戦ったりと忙しかったですから、スキル欄を調整する暇がなかったんでしょう……!」


 周りも勝手に勝手なことを言う。


「ちくしょう……! 想定外だぜ。こんな時『青鈍の勇者』ならどうするんだ……?」


 ライガーの弱音が、嫌な感じにエイジにも飛び火した。


「……ライガー」

「師匠?」

「ここにいるのはキミだ。決めなきゃならないのはキミ自身だ。ここに他の誰かがいたところで関係ない。キミ自身が決めて動かなきゃいけないことに変わりないんだから」

「そうか……、そうだな!」


 切り替えと立ち直りの速いライガー。


「とりあえずアイツに謝ってくらあ! これでぎくしゃくして、肝心のモンスターとのケンカをしくじっちゃ仕方ねえからよ!!」


 と走り去っていった。

 結局あとにはエイジ、ギャリコ、セルンのいつもの三人だけが残る。


「……あの人、本当に『青鈍の勇者』のことを尊敬しているのね」


 その言葉はエイジに向かって掛けられたものだ。

 ライガー、それにレシュティアが憧れる『青鈍の勇者』がエイジと同一人物であることなど、このメンバーには周知の事実。


「……エイジは、どうして二人に本当のことを話さないの?」


 ライガーたちは、いまだ自分たちの目の前に尊敬する当人がいることを知らない。

 それはエイジがみずから教えないからだった。


「失望されたくないからかな」


 エイジが静かに呟く答えは、意外なものだった。


「失望など……、するわけがありません! エイジ様は勇者として完璧以上の強さをお持ちです! それは既に何度も見せつけているではありませんか!」


 抗議するように口を挟むセルン。

 彼女だって『青鈍の勇者』と呼ばれる先代を尊敬する気持ちはライガーたちと同様。いや実際共に過ごした期間がある分より畏敬の念は濃い。


「彼らは言った。僕が分け隔てなくいかなる人類種もモンスターの魔の手から助けてきたのは義侠心によるものだと。あるいは博愛精神によるものだと」


 しかしそれは違う。


「憎しみだ」

「え?」

「僕は聖剣院を憎むゆえ、その意思に反発して人間族以外の人類種も救ってきた。あるいは少しでも早くソードスキルを極めて聖剣院を縁切りするために、見境なくモンスターを狩っていたに過ぎない」


 モンスターを倒し戦闘経験を積むことで、各種スキル値を上げようと。


「だから彼らの言うように人々を思いやっての行動なんて僕はしていない。すべて利己的でしかないんだ。それがバレて失望されるのが怖いだけなのさ」


 それがいつからだろう。

 聖剣院への憎しみに任せて振るってきた剣が、それ以外の動機を宿らせるようになったのは。

 遠き向こうにいる者への憎しみよりも、目の前にいる人々のためにこそ戦うようになったのは、いつごろからのことだろうか。


「でも……!」


 ギャリコが反論するように言った。


「アタシも過去アナタに助けてもらった……! それが、ただ聖剣院への反発でしかなかったとしても、アタシの感謝の気持ちは変わらない。アナタを嫌いになったりもしない!」

「ありがとう」


 エイジは、肯定も否定も読み取れない静かな声で言った。


「キミたちのそんな気持ちが、僕を憎しみで動くニセモノの勇者から、本当の勇者に引き上げてくれた。勇者を決める本当の基準が何なのか、わかる気がするよ」

「勇者を決める……」

「……本当の基準?」


 何の意味かわからないと言うばかりの二人を差し置き、エイジは続ける。


「強いことが勇者の条件じゃない。聖剣院に認めてもらうことなんか絶対に違う。勇者が勇者である条件は、自分が救った人たちに勇者であると認めてもらうことだ」


 たとえ行動の根源が、特定のものへの憎悪や反発であったとしても。分け隔てなく人々を助け、その人々から『青鈍の勇者』の称号を与えてもらえた。

 だからエイジは、自分が勇者だと自信を持って言えるのだ。


「その気持ちが今も、モンスターと戦う原動力になっている。勇者の称号を捨てても、より人々を守る力を確立したいと、魔剣を追い求める気持ちに繋がる」

「エイジ様……」

「今の勇者はキミたちだセルン」


 そしてライガーとレシュティア。


「これからの戦いは、キミたちが本当の勇者かどうかを問うための戦いだ。僕は、僕自身の望みのために勇者であることを捨てたが、安心して捨て切れるためにも、後進であるキミたちがちゃんとやれるってことを見せてほしい」


 既に覇勇者であることまで極めた男に認められるか否か、それを試される偉大な戦い。

 その戦いが今、再び始まる。

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