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227 寄り道

 諸悪の根源と名指しされた剣神アテナに迫るため。


 そのアテナを崇拝する聖剣院本部へと向かうことになったエイジ、ギャリコ、セルンの三人。

 あとサンニガ。


 さらに合同会議に出席するため聖鎚院長まで同行し、なかなか大所帯の旅となった。

 聖鎚院長は聖鎚院の代表であるのだから十人単位のお供を連れているため、なかなかの大所帯。

 エイジ側も、またクリステナの商隊の世話になるので、さながら大名行列であるかのようだった。


「聖剣院への道筋にある人間族の王国にも寄ってっとかない? 今回の訪問の趣旨を説明しておきたい」

「ついでにウチで作った魔剣のセールスもかけときたいのう! 大儲けの予感がてんこ盛りじゃわい!!」


 いつの間にか何とも仲良しになっていた。

 大所帯のため移動速度も自然と遅くなり、普通だったらとっくに到着している日数をかけてなお、人間族の勢力圏にすら入らない、そんな時期に……。


              *    *    *


「前方でトラブル?」


 ただでさえ遅れている日程をさらに遅らせようとする報告が入ってきた。

 進路上に危険がないか、先行して確認してくる物見からの報告であった。


「はい……! ここから先の大きく開けた平地で、大集団が睨みあい今にも殺し合いを始めそうな雰囲気です。殺気だっています!」


 聖鎚院に雇われた傭兵は人間族で、ドワーフ族に比べて機敏そうだった。

 あらゆる面において平均的な人間族は、そうした意味でいかなる場所にも潜り込む。


 報告を聞いて判断をつけるのは自然とエイジの役目になっていた。

 補佐としてセルンやギャリコも脇に付いている。


「大集団が睨みあい? モンスターとかじゃなく?」

「ああ……、はい。いたのはモンスターではなく人類種です」


 モンスターではなかったということで、危険度が下がり、緊迫度も下がる。


「まあ、だからと言ってモンスターの心配がまったくなくなったわけでもないがな。その大集団とやらがモンスターに備えているものではないと言いきれないし」

「それはないと思います。その大集団自体が、敵対しあっていたので」

「敵対?」

「はい、発見時は静かに睨みあっていただけですが、物凄く殺気立っていて……! 何かのきっかけですぐにでも衝突しそうな感じでした。小石一つ投げ込んだだけで血みどろの殺し合いが始まるというか……」


 報告者は、場の雰囲気に飲み込まれたせいか説明が要領を得ず、エイジもいまいち理解できない。


「人類種同士が争っている……? 集団で……?」

「少なくとも全部で数百人はいたと思います!」

「それはたしかに集団だな」


 モンスターではないとはいえ、そんな大規模に聖鎚院長の一団が巻き込まれてはゆゆしき事態となろう。


 エイジ単体ならそれほど問題ではないが。


「面倒が多いな……!」


 同行なんて言い出さなければよかった、と今さら嘆いても後の祭り。


「他に何かわかったことは? 人類種と言っていたが、具体的にどこの種族なんだ?」

「それが……、遠目だったのでよくわからず……!」

「それもわからないの!?」


 仕方なくエイジはみずから確認、可能ならばその手で解決に出向くくととなった。


「エイジ様、私もお供を!」

「面白そうだからアタシもー」


 セルンギャリコも加わり、問題の場所へと出向かんとするエイジたち。


「兄者! オレも、オレも!」

「サンニガは留守を頼む。一時的にしろ本隊から頼りになるヤツが一人もいなくなるのは困る」

「へ~い」


 物見に案内させ、進路を先行するとたしかに見えてきた。

 平地を覆い尽くさんばかりに広がる人の群れが。


「……こりゃ案内してもらうまでもなかったな」


 これだけの人数、ただ歩いているだけで容易に存在を確認できる。


 しかし集団は、無秩序に平地に散らばっているというわけでもなく、綺麗に二派閥に分れ、それらが左右に分かれて睨みあうかのような陣形となっている。


「なるほどたしかに殺気だっているな……」


 さながら合戦に望む軍隊。

 といった感じだった。


「戦争……、っていうの?」

「しかしどこの種族がそんなバカなことを? ただでさえモンスターが蔓延っていて、人類同士で争っている場合ではないというのに……!?」


 ギャリコ、セルンの疑問ももっとも。

 しかしエイジには、この状況にピッタリ合致する心当たりがあった。


「そういうバカなことをする種族。まあ、アイツらしかいないだろうな……!」

「え?」

「エルフとゴブリン」


 その言葉に、他の二人は戸惑う。


「エルフって……! レシュティアさんの、あの?」

「そうそう」

「ゴブリンは……、話に聞いたことはありますが実際に見たことは……!」

「さもあろう。意外とあれで他種族と接点がないからな」


 エイジは遠方ながらもさらに細かく状況を観察する。


「対立し合う二勢力の片方は、森を背にして布陣している。あれがエルフ勢と考えていいだろうな。遠目からでもなんかキラキラしているし……」


 全人類種の中でもっとも美しいとされるエルフ族は、その肌も髪も輝かしい。


「で……、もう一方がゴブリン族。アイツら肌が緑がかってるから、これも遠目でわかりやすいんだよな」


 エイジの知識と状況判断の組み合わせから、やはりエルフ族とゴブリン族が睨みあいをしているのは、たしかなようだった。


「二つの種族が犬猿の仲であるというのは、どこかで聞いたような気がしますが。一体何故このような……?」

「お互いの種族の在り方がね。互いを許容できないというかね……!」


 何かを思い出してドッと疲れたような表情のエイジ。

 さらなる説明を続けようとした、その時だった。


 睨みあう二勢力から、怒号にも似た雄叫びが上がったのは。


「む……!」


 二勢力の一方から飛び放たれる、細い線のようなもの。しかも複数。


「矢か!? 先に仕掛けたのはエルフ族だな!?」


 森の中で生きるエルフ族は、離れた獲物をしとめるアロースキルを得意とする。

 しかもそれに呼応するように、ゴブリン陣営からも何やら天高く飛び放たれる。


「投石!?」

「エルフ族用の対抗手段だ。ゴブリンは一通り何でもこなせるからな……!」


 矢も投石も、まずは力の限り上空まで上がってから曲線を描き、遠く離れ敵陣営へと落ちていく。

 鋭い矢じりは、ゴブリンたちの体に容赦なく突き刺さるだろうし、石とて射出と重力の勢いを充分に得ては、当たり所によっては殺傷も叶う。


「あー、もう! しょうがないな……!」


 駆け出すエイジ。

 戦場まではまだ遠く離れていたが、魔剣キリムスビを抜き放ち迷いなく叫ぶ。


「ソードスキル『一刀両断』!!」

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