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「ソードスキル『一剣倚天』!!」


 再び放たれる究極ソードスキル。

 しかも究極ハンマースキルとの同時攻撃。


 これが通常のモンスターであれば、覇王級であろうとも百%中の百%とどめとなる。


 これならば未完成の新技に頼ることなくウォルカヌスを破れる。


「おおおおーーーーーーーッ!!」

「いけえええええええええええーーーーーーッ!!」


 さらに通常なら考えられない覇勇者の共闘。


 エイジは既にその座を放棄しているものの、一人であらゆるモンスターを撃滅することが存在意義である覇勇者が二人以上で戦うなど明らかな戦力過多。


 これで倒せないモンスターなどいるはずがない。


 エイジが『一剣倚天』で天命を斬り裂き。

 ドレスキファが『イレイズ・オールエイジ』で物質から消滅させる。


 この二界層抹消攻撃を同時に跳ね除けられる存在があるわけもなく、たとえ神と言えどもどちらか一方を防ぎ切るので精一杯だろう。


 どちらか一方から抹消され、この世界に存在する拠り所を失う。

 そうなった時、エイジたちの勝ちが決まる。


『見事……、ここまでワレを追い詰めるとは』


 絶体絶命の窮地に立たされながらもウォルカヌスの口調は、どこか嬉しげだった。


『特に我が眷族よ。おぬしがここまで奮起するとは思わんかったぞ。立場に安穏として緩み切った表情が随分引き締まったではないか』

「うるせえ!! 親心みてえな語り方してんじゃねえ! それよりも自分が消え去る瀬戸際なんだもっと慌てやがれ!!」


 ドレスキファ、覇聖鎚から吹き上がる黄金気の輝きをさらに強める。

 黄金の光が増すほどに、ウォルカヌスを構成するマグマは超高温に関係なく原子崩壊し消え去っていく。


「もっと気張って地下からマグマを汲み出しやがれ! そうじゃなきゃオレに消し去られるぞ! こっちにかまけてたらエイジの剣がお前の息の根止めるがな!!」

『こちらを立たせれば、あちらが立たず。……なるほど一心突き詰めた者が二人揃えば、このような窮地を作り出せるものか。これもまた人の素晴らしさ。よいものを見せてくれる』


 ウォルカヌスは表情を曇らせた。


『……だが、すまんな』

「?」

『神はまだまだこの程度で滅んでやるわけにはいかんの』


 マグマの怪物が、灼熱の赤に輝きだした。

 覇聖鎚の黄金の光を飲み込むほどに。


「なんだッ!? 消滅の光が、まったく通じなくなって……!?」

「ドレスキファ!! 離れろ!!」


 怪物から放たれるマグマの津波が、ドレスキファを襲った。

 触れるだけで致命傷となる超高温の液体。


 ドレスキファはとっさに覇聖鎚を振り上げて相殺するものの、飛び散ったマグマの飛沫が体の各ヶ所に降りかかる。


「ぐわああーーーーーッ!?」

「ドレスキファッ!」


 エイジも、奥義を注視してすぐさま駆け寄る。


 ドレスキファの総身は、くまなく全身鎧に覆われており、それが彼女を溶岩の熱から救った。

 ただの鎧ではない、かつてギャリコが勇者級モンスターの外殻から作り出した魔鎧である。


 だからこそ溶岩の熱にも耐えられたのだろうが、鎧に付着した溶岩は今も高熱で中身を苛み、蒸し焼き状態。

 だからと言って、さすがに溶岩を叩き落とすのは困難である。


「……クソ、すまんが鎧ごと斬り落とすぞ」


 エイジは魔剣キリムスビを軽やかに回す。


 するとドレスキファを覆っていた鎧がパーツごとに分かれてボトボト地面に落ちる。

 瞬く間に鎧下のみの半裸状態となってしまうドレスキファだった。


「クッソ……。嫌なこと思い出させるシチュだぜ……!」

「そうは言っても、あのまま溶岩塗れの鎧着てたら間違いなく蒸し焼きかホイル焼きだぞ……!?」


 ドレスキファの体から離れた鎧は、今や溶岩の熱で表面が溶けだしていた。

 かつて地上を荒らし回ったモンスター素材だからこそ、ここまで耐えられたのだろう。


「せっかくギャリコが作ってくれた鎧が……!?」

「あとで新しい鎧作ってもらえるように僕からも頼んでやるから……! 問題は目の前だ……!」


 のっそりと迫ってくる、巨大なるマグマの山。


 中途で失敗したとはいえ、二大究極スキルの同時攻撃を受けていながら衰える様子は見受けられない。


「ちくしょう……! なんでだ? なんでオレの『イレイズ・オールエイジ』が効かなくなった……!?」

「効かなく……!?」

「ああ、たしかに感じた。オレのハンマースキルが、ある時を境に急に手応えがなくなった。それでアイツのカウンターをまともに受けて……!?」


 ドレスキファの究極ハンマースキルは、物質ならば何であろうと崩壊させ、消滅させる究極の破壊技。

 それを無効化させるなどどんな絡繰があれば可能なのか。


『相手が悪かったのよ』


 ウォルカヌスは急いて追撃することもせず、まるで丁寧な教師のような口調で言う。


『他の「敵対者」……、ラストモンスターであれば今ので倒せていたかもしれんの。それくらいおぬしらの息はピッタリ合っておったし、威力も申し分なかった。ただし相手が悪かった』

「同じことを何回と! お前が特別だとでもいうのかよ!?」

『そうだ。少なくともお前たちドワーフ族にとってはな』

「!?」


 ラストモンスターは、女神たちが用意したゲームの最終関門。

 女神たちは、各自が生み出した人類種こそもっとも優れていることを証明するために、モンスターという敵を用意した。


 その究極ラストモンスターが倒されれば、その種族の敗退が決まるらしい。

 勝手極まる話だが、ウォルカヌスはかつて女神ペレと共にドワーフ族を生み出した男神。


 つまりドワーフ族を担当するラストモンスターということ。


『ドワーフの覇勇者がワレと戦うことは、本来想定されていない。自種族が自身の敗北を決めることになるからだ。女神たちは、自分の子が自分に逆らうことなど許さぬ』

「…………!?」

『そうでなくとも、ワレとてお前たちドワーフを生み出した片割れだ。親が子に殺されてやることは、残念ながらできんな』


 ドワーフ族にとって創造主であるウォルカヌスを、ドワーフ族は傷つけることはできない。


「そんな……! じゃあオレは、また役立たずってことかよ……!?」


 鎧を脱いだドレスキファは、それだけでなく心からプライドの甲冑すらはぎ取られた。

 自分が最強だと信じてやまない。

 覇勇者という明確な称号を獲得し、もっとも強く、もっとも役に立つ存在だと自他ともに認められた彼女である。


 そのプライドの粉砕は、余人より遥かに痛く苦しいものとなろう。


「下がれドレスキファ……!」


 エイジが庇うように彼女の前に立つ。


「お前は充分やってくれた。あとは僕に任せてギャリコたちのところに戻れ……!」

「うるせえ……! お前だって一人じゃあのバケモノ倒せねえだろ…!!」

「かもな。だが僕には最後の一手がある」


 エイジは、またしても鞘に刀身を収め、居合いのかまえをとった。

 未完成の鞘と引き換えに放つ究極のその先。


 ドレスキファの参戦で使わずに済むかと思われたが、それでも使わなければならないとなれば、エイジに迷いはない。

 それが本来の展開。


「ちくしょう! ちくしょおおお……!!」


 そして、その展開を止められなかったドレスキファは、無力感に苛まれて打ちひしがれる。

 もう彼女にできることはないのか。

 そう思われた時。


『……諦めてはダメ』


 声がした。


『アナタにできることはまだあるわ。あの方を解放さしあげるためにも、もっと頑張りなさい』


 その声は、覇聖鎚の中から聞こえてきた。

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