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209 それぞれの決戦後

 しかし、今すぐどうこうすることもないのでエイジも今日は祝勝の宴を楽しむことにした。


「エイジ様! 此度の戦勝おめでとうございます! ディスカナブル商会の者でございます!」

「カシパー商会も、謹んで勝利の祝賀を申し上げます。つきましては戦勝の贈り物を進呈いたしたく……!」

「何の! 我がガリクソン商会は宴に相応しい酒とご馳走とコンパニオンを用意させていただきました! 皆さまで楽しんでいただきたく!」


 早速人間族の商人たちが、正体明らかになったエイジのお近づきになろうと接待攻勢が凄まじい。


 それらを切り抜けて宴会場をあちこち回ってみると……。


「だははははー! オレこそが世界最強だぞー!! なんたってエイジ兄者の従姉妹のオニ族だからなー!!」


 サンニガがすっかり酔っていい気分になっていた。


 彼女も戦場で勇者級の活躍をしたために注目が集まり、宴の席ではすっかり持ち上げられている。

 やはり皆の興味は、サンニガが素手でモンスターを倒した珍事と、彼女が自称する覇勇者エイジの従姉妹への真偽らしい。


「あー? 身体強化ぐらい呼吸スキルで簡単だろー? まず『威の呼吸』で第一段階、『炉の呼吸で』第二段階……。でもエイジ兄者はもっと凄いんだぞー? あの人はオレの使えない『弐の呼吸』以上の強化も使えて、その上強化幅も段違い……」


 ヒトの手の内をペラペラと喋るので、エイジは颯爽とサンニガを捕まえてその場から連れ去った。


「酔いが覚めるまでギャリコにでも監視してもらおう。おーい、ギャリコー?」

「あ、エイジ?」


 ギャリコを見つけると、何故かその面前でドレスキファが小さくなっていた。


「ちょっと聞いてよエイジ!! このドレスキファがまた!! 魔武具の材料になるモンスターを! 光に還しやがったのよ!!」

「究極ハンマースキルは、そういう技なんだから仕方ねえだろうが……!」


 愚痴っぽくボソリというドレスキファに、ギャリコは聞き逃さなかった。


「覇勇者なんだから、もっと上手いやり方もできるでしょうよ!? カッコいい鎧作れ作れって言う以上は、その素材ぐらいしっかり確保して!」

「じゃあ、いい素材用意したらギャリコ手製の魔鎧作ってくれるの?」

「作らない」

「気ぃ持たせるなよー!!」


 初対面の頃から比較すればドレスキファも大分覇勇者として成長したと思えるが、ギャリコはまだまだ辛辣だった。

 そんな彼女らの言い争いは延々終わる気配がなく……。


「エイジ様、今回もお世話になりました」

「おお、聖鎚勇者の皆さん」


 ダラント、ヂューシェ、ヅィストリア、デグ。

 聖鎚を持つドレスキファの取り巻き四人が寄ってくる。


「明日にもまた、ドワーフの勢力圏でモンスターを追う通常任務に戻ります。その前に挨拶をと思って……」

「明日すぐ? 随分真面目だな? 最初のキミらからは考えられない……!」

「オレたちも、エイジ様に叱られて思うところがありましたから」


 苦笑交じりに若いドワーフたちは言う。


「本物の勇者の在り方を、エイジ様やセルンさんから充分に見せてもらいました」

「それを目指して、アタシたちもカッコいい勇者を目指して頑張ります!」

「あとできるだけいいモンスター素材を手に入れて、カッコいい魔鎧をゲットする!!」


 結局それが目当てかと苦笑するが、ドワーフ勇者たちの熱いモチベーションを受けてエイジも悪い気分ではなかった。


 さらに……。


「おーい、師匠」


 竜人族の勇者ライガーが、杯を片手にやってくる。


「参ったぜ師匠、エライことになっちまった!」

「エライこと? 戦いも終わって一夜も明けてないってのにどうしたんだよ?」

「詳しくはこの人から」

「おや、アナタは……?」


 ライガーの隣に立つ、同じく竜人族の老人。

 既に酒をかっくらって赤ら顔だが、たしかライガーと予選で激戦を繰り広げた、引退した勇者だとエイジの記憶に照合した。


「竜人族、白の聖槍レオポルドですじゃ。とっくの昔に引退しましやがのう」

「これはご丁寧に。で、ライガーの言ってたエライこととは?」

「実はワシは、シーザーからの依頼で来ましてのう」


 さらにエイジの記憶にある名が挙がった。

 それは覇聖槍を使う竜人族の覇勇者の名だったはずだ。


「ヤツから、このライガーの検分を頼まれましての。ヤツが引退したあと、次なる覇聖槍の使い手に相応しいかどうか」

「え?」

「ワシは、その資格が充分にあると判断いたした。そこで覇勇者の就任試験を受けさせるために聖槍院に連れ帰るつもりですじゃ」

「ライガーが覇勇者に……!?」


 唐突ではあったが、エイジは何故かすんなり納得できた。

 覇聖槍を使うライガーの姿が容易に想像できたから。


「じいさん……、もうちょっと待てねえのかよ? エイジの師匠はまだドワーフの都で面白いことする予定らしいんだ。それを見届けてからでも……!」

「じゃかあしい」


 老年勇者から一蹴された。


「彼ほどの豪勇に認められていながら、いつまで下っ端で甘んじておるつもりじゃ? 同等となり肩を並べて一緒に戦いたいとは思わんのか? そのために必要なるは覇聖槍じゃろう?」

「はいぃ……!」


 試合では勝ったが、ライガーはこの大先輩に頭が上がらないらしい。


「エイジ様、わたくしも」


 エルフ族の勇者レシュティアも出てきた。


「聖弓院から連絡が来まして、ゴブリンたちがまた自然を荒らしているそうなのです。美しい森を守ることもエルフ勇者の大切な役目ですわ」

「また、その手の小競り合いしているのか?」


 エイジはややげんなりした口調になる。


「エルフとゴブリンは、ずっとそうやって揉めてるんだよ。ゴブリンは農地を広げるために森を切り拓く。エルフはそれを阻止する」

「夜明けと共に発ちますわ。今日のうちに挨拶をと思いまして」


 レシュティアは礼儀正しく頭を下げる。


「草木の匂いがせず不快な場所でしたが、エイジ様やセルンさん、ギャリコさんと再会できてとても有意義な時間でしたわ。できればまた近いうちにお会いいたしましょう」

「オイラともな。次会った時オイラは聖槍の覇勇者だから、ライガー様ってお呼びするんだぜ?」

「そんなことは実際に覇聖槍を持ってから言いなさい。その時はライガー様でも旦那様でも望む通りに呼んで差し上げますわ」


 ライガーだけでなくレシュティアもドワーフの都をあとにする。

 一気に寂しくなるが、エイジたちはまだここですべき用件がある。


「僕たちだけで臨めってことだな。上等だ」


 今夜は一しきり飲んで食べて楽しんで。

 明日からはそれぞれの戦いが始まる。


「あれ? そう言えば……?」


 エイジは、これまで顔合わせした面子の中で当然交じっているべき彼女がいないことに思い至った。


「セルンはどこに行ったんだ……?」


              *    *    *


 その頃、セルンは宴会場から離れた野外で青の聖剣を実体化していた。

 刀身をじっと見つめる。

 しかし戦いに臨む直前に聞こえた、あの声はもう聞こえない。


「あの時聞こえた声は……?」


 試合場で赤の聖剣が放った人類を見捨てる声と同じように。

 青の聖剣からも聞こえた声。


 しかしその声は神のごとき慈愛に溢れていた。


「あの声は一体、何だったの……?」


 明日、ついにウォルカヌスへの再会が叶う。

次回より新章になります。

次更新は7/4を予定しておりますので、どうかよろしくお願いします。

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