208 人類の勝利
「ハンマースキル『イレイズ・オールエイジ』ッッ!!」
聖鎚の覇者が振り下ろす究極の鎚撃は、あらゆるすべてを塵より細かく分解させ、消滅させる。
究極ハンマースキルを食らったモンスター数百体は、一瞬にして光の粒となって消滅した。
「おおおお……!?」
「何百体も一遍に……! 聖鎚の覇勇者も物凄え……!?」
聖鎚の覇勇者ドレスキファ。
彼女一人の活躍で東側のモンスター半数以上が消え去り、それだけで勝敗は決したと言える。
究極ハンマースキルの射程外に逃れて辛くも生き残ったモンスター。それも勢いを失い、統率もなくなっている。
「オレの仕事はここまでだ。あとはお前らのために残しておいてやる」
ドレスキファは黄金鎚を肩に担いだまま踵を返す。
「せっかくモンスターを殺せる武器を貰えたんだ。斬り心地叩き心地を試してみな」
「「「「おおおおおおおおおおおッッ!!」」」」
魔武具を手にした戦士たちは、総崩れのモンスター群に雪崩れ込んで蹂躙を始めた。
それまで人類種にとって対抗不可能な天敵であり、ただ蹂躙されるに任せるのみだった相手。
モンスター。
その関係は絶対であり数百年、数千年の間逆転することはなかった。
それが今、絶対の定理を破ってモンスターは殺す側から殺される側に回った。
振り下ろされる魔鎚はモンスターの頭を砕き、突き出される魔槍はモンスターを串刺しにし、魔弓の放つ矢は空のモンスターも逃さず射抜いて、魔剣はモンスターを片っ端から斬り捨てる。
今まで不可能だったことが可能になること。
それを時代が変わるという。
新しい時代の幕開けは戦いによって放たれ、勝負によって締めくくられた。
* * *
「凱旋だああああッ!!」
戦いを終え、帰還した戦士たちを都中の住人たちが出迎えた。
勝利の熱狂である。
戦いに出た戦士たちに死傷者はほとんどなく、完全勝利と言っていい。
帰還の隊列の最後尾には、荷台車に山と積まれたモンスターの死骸が続いていた。
それを材料に新たな魔武具が生産されるのは既定路線で、新しい時代を作り出す新しいサイクルは既に稼働し始めていた。
祝勝の宴が始まった。
* * *
「……では、種族を越えた人類種全体の勝利を祝して」
「「「「乾杯!!」」」」
武闘会場は一転して、宴会場へと様変わりした。
余計な作法もテーブルマナーもなく、リングの上に胡坐をかいて、酒をなみなみ注いだ杯をぶつけ合っている。
代表して音頭を取っているのはエイジであった。
「えー、本来競い合って一番を決める武闘大会でしたが、唐突なモンスター乱入により中断。大規模なモンスター掃討作戦へと移行してしまいました。改めて試合を再開すべき! という考えもあるかもしれませんが……」
「「「「どうでもいいでーす!!」」」」
「我々は、モンスターとの戦いによって各々の武威を示し、魔武具の性能を確認した。それによってモンスターを全滅させた。その結果こそ皆の勝利だ。どうだろうか?」
「「「「その通りでーす!!」」」」
「ではここで皆の勝利を祝おう! キミたち一人一人が優勝者だ!! 遠慮せずに祝杯を上げてほしい! 今日飲み食いする分は、すべて大会主催者である聖鎚院からの奢りだ!!」
「「「「ゴチになりやーす!!」」」」
「ドワーフの都を守るために戦った傭兵報酬も聖鎚院からしっかり出るので楽しみにしてくれ!!」
「「「「まいどありーッ!!」」」」
こうして宴はますます盛り上がっていく。
人間族にドワーフ族、竜人族やエルフ族といったすべての種族が区別なく杯を酌み交わし、笑い声を上げる。
命を懸けて一緒に戦う行為は、それを踏み越えることで百言を尽くす以上の絆をもたらし、人類種は一体となった。
「ちょっと待ったああああッ!?」
そこへエイジに、聖鎚院長が泣きついてきた。
「何勝手に宴会の費用までこっち持ちにしているの!? 戦闘参加者に支払う傭兵費用だけでも赤字確実なのに、これ以上の出費があああああッ!?」
「彼らがいなかったら都市そのものが滅びていたかもしれないんだから、ケチケチ言うなよ」
「でもおおお! 武闘大会が中止になったことでトトカルチョも無効になってええ、そっちで開催費用を回収する計画もご破算にいいいいッ!!」
「そんなことしてたんか」
そのあとエイジの突発的な思い付きで、各参加者の使用した魔武具をそれぞれに無料プレゼントと確認も取らずに発表して、ますます聖鎚院長の心臓を痛めつけた。
どちらにしろ、人類種同士の戦いに明け暮れる武闘大会では魔武具の真価は伝わりづらかっただろうし、目的を達成するにはモンスター乱入はむしろ幸運と言えた。
モンスターを殺すことが目的の魔武具でしっかりとモンスターを殺し、その性能を実感してもらった上で、それを世界各地に散って宣伝してくれた方が長い目で見れば得。
将来的な利益を確立するために、今は身銭を切っておいた方が得策であると判断したエイジだった。
まして身銭を切るのが自分でない以上、躊躇う理由が一つもない。
「さて、武闘大会も無事成功したところで、今度はそっちが約束を守る番だよな?」
聖鎚院長に迫るエイジ。
「これ、成功って言っていいのかな?」
「魔武具をデモンストレーションするって趣旨から見たら百点満点以上だろう。今さらゴネて約束を果たさないつもりなら。……どうしようかな? 今日の戦いでゲットしたモンスターの死骸を全部微塵切りにしちゃおうかな?」
「待て待て待って! 優良な魔武具に変わるモンスター素材をわやにされたら、本当に今回の儲けが一文もないわ!」
聖鎚院長は観念したように言った。
「いいだろう! 望み通り虹色坑道に入る許可を与えてやる! 有り難く受け取るがいい!」
「有り難く受け取るけど、それじゃ足りなくない?」
「何だと?」
「いい加減さ、入ろうとするたび何度も条件出されるのはウンザリするんだよね。こちとら二度もアンタらの窮地を救ったわけだし、もう少し割のいい報酬があってもいいと思うわけですよ?」
「ぐぬぬ……?」
「これ以降も入る予定があるかどうかもわからないが、どうでしょう? アナタの都市を救った英雄に、もっときちんとした報いを与えてくださりませんか?」
「わかった! わかったわ!!」
聖鎚院長は本当に観念した。
「人間族のエイジ! お前に虹色坑道への永年入坑許可を出す! いつでも好きな時に虹色坑道に入るがよいわ!!」
「僕だけじゃなくギャリコとセルンにもね。この期に及んでセコい抜け道作らないで」
「ぐぬぬぅ~、でも入る時には一言ワシに断ってね!」
「はいはい」
こうして紆余曲折を経てエイジはやっと、再び虹色坑道に入る目途をつけたのだった。
正確には、その奥底にいる『敵対者』ウォルカヌスに再度お目見えする目途を。
彼らの目的は、まだ何も果たされてはいない。
すべてはここから始まる。





