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206 真のお披露目

 エイジ率いる西方面軍は、戦闘場所として想定した橋に着いた。

 既に橋の向こうには、迫りくるモンスターの上げる砂塵がもうもうと見えている。


「夢のようだ、アナタとまたこうして一緒に戦えるなんて」


 エイジの脇で、若い人間族が言った。


 彼の名はエノロフ。

 人間族の戦士で、かつては聖剣院に所属していた。


「しかもアナタのアシストではなく、切っ先を並べて一緒に戦える。聖剣院に所属していた頃から、何度夢に見たことか……!」

「執念深いなキミらは……」


 呆れ気味のエイジの声。


 かつてエイジが、青の勇者として聖剣院に所属していた頃。勇者の常としてサポートに引き連れていた聖剣院の剣士。

 その一人が、このエノロフだった。


 その他にもかつて遭遇し、今ではリストロンドの騎士団に入ったレストもいたが、そうして聖剣院時代のエイジにつるんだ兵士たちは、皆いずれも聖剣院の横暴に思うところのある烈士ばかりであった。


「そんなして、今回の大会の宣伝聞きつけてここまで来たの?」

「アナタの発見報告はレストから聞いてたんですけどね。そこからまた行方不明になるって言うし。だからこうしてまた会えたのは僥倖ですよ。ましてこんなおまけまでついていたら」


 元・聖剣院所属剣士エノロフは魔剣をかまえる。


「夢にまで見たモンスター殺し。聖剣院を追い出され、勇者となる望みも潰えて永遠に不可能かと思われた夢を、今実現する!」

「キミ夢多いな」


 迫りくるモンスター群の先頭に、剣閃を浴びせかける。


「ソードスキル『破邪剣聖』!」


 斬撃をまともに浴びた兵士級モンスターは、一度に数体、手足胴体が粉々になって弾け散る。


「やった……! 本当に効いた!」


 斬り裂いた当人だけでなく、軍列から波濤のように湧き上がる。

 歓声。


「本当に……、本当にモンスターを斬れるのか!?」

「聖なる武器以外で!」

「客寄せのホラかと思っていたが、本当に凄い武器なんだな!!」

「オレもやる! 一度でいいからクソムカつくモンスターを斬り刻んでやりたかったんだ!!」


 怒涛の勢いで人の群れがモンスター群に突進し、ぶつかり合う。


 人類種始まって以来の、人とモンスターの集団戦。


 前線にいるモンスターはアイアントやグラスホッパーなどの兵士級ばかりで同じ兵士級素材の魔武具なら問題なく対処できる。


 それ以上に、それを扱う戦士傭兵たちの実力は、モンスター戦の花形・勇者と比べてもそこまで遜色はない。


 普通の武器では倒せない。


 たったそれだけの理由で今まで日の目を見ることのなかった無名戦士たちの激情が、堰を切って流れ出す。


「凄まじいな……」


 それを後方で見守って、エイジは思った。


 これまで、何百年と鬱屈してきた戦うべき者たちの思い。

 道具がないというだけで不適格と見なされ、役立たずの烙印を押され、鍛えてきた技と力を無意味にしてきた人々の悲哀。


 それが一気に解き放たれて興奮と喜びに駆け抜けていく。

 四方八方に向かって。


「戦いたいのは僕たちだけではなかった。人々を守りたいのは僕たちだけではなかった」


 しかし数において、モンスター側は人類種側の数倍の規模を持つ。


 魔武具をもった戦士たちはザコモンスターを右へ左へと斬り伏せていくが、やはり数の多さに捌ききれず、すり抜け突破を許してしまう。


 これ以上の突破を許さぬために……。


「ランススキル『メテオ・フォール』!」


 天空から流星と見紛う光点が直下し、地表に触れると同時に大爆発を起こした。

 爆心地は、モンスター側の布陣の奥深くだったため、モンスターばかり爆熱で消え去りつつ、人類種側に一人の犠牲もない。


「戦士の方々の頑張りには感心いたしますが……」


 天空から飛び降り、地面に突き刺さった青の聖槍を引き抜く。


「本職の勇者が遅れを取るわけにもいけねえんでね」


 聖槍の勇者、竜人族ライガー。


 得意の派手なランススキルでモンスターを数十単位で薙ぎ払う。その殲滅力は、さすがに勇者の面目躍如であった。


「あんな不気味な声を聞かされて、いまだ聖なる武器を使うのも気が進まないのですが……!」


 レシュティアも青の聖弓を実体化し、隊列を飛び越えようとする鳥型モンスターを正確に射抜いて撃ち落とす。


「そうは言うけどよ。武器が全員分行き渡らないこの状況じゃ、使えるものは何でも使うしかねえだろ? オイラたちが聖槍聖弓使えば二人分余計に武器が行きわたるんだ。まだまだ世話になっていこうぜ」

「アナタに言われるまでもありませんわ!」


 やはりモンスターとの実戦を重ねてきた勇者は、魔武具を得た戦士たちではまだまだ追いつけない。


「見ろあの竜人の勇者……! 走りながらモンスターを爆散させてるぞ!? うわ! 二匹まとめて串刺しにした!?」

「エルフ族の勇者も凄え! さっきから一矢も外れがないし、矢が当たったモンスターは必ず死んでる!?」


 そしてさらに。

 異色塗れの戦場で、なお一層異色に彩られた存在がいた。


「空拳スキル『正拳突き』ッッ!!」


 パンチ一発で、モンスターを砕くと同時に吹き飛ばす。


「すげええええッ!? なんだあの嬢ちゃん!」

「本当にモンスター相手でも素手で戦うのかよ!」


 オニ族サンニガ。


 その拳の前ではモンスターすら砕ける側に回る。


「『破の呼吸』……!」


 呼吸スキルで筋力を引き上げつつ。


「『阿の呼吸』……!」


 モンスターを破壊するための気を呼吸で練り込み、拳に乗せて放つ。

 外の世界にとって、常識そのものを覆す闘法に、ますます驚愕が集まった。


「オニ族のサンニガ! 自族の誇りを背負って戦う! 見ていてくれ兄者! この戦場でもっとも活躍してみせるぞ!!」


 しかし、敵もただやられているばかりではない。


「後退! 後退ぃーッ!!」


 敵陣深く切り込んできた一隊が、踵を返して駆け戻ってきた。


「魔武具が通じない! 折れちまった! 特別なヤツがいるぞ!!」


 それは異形であったが、他にいる中でもとりわけ不気味でグロテスクな異形。


 一言で言えば巨人というべき様相であったが、その巨人は上半身がなかった。

 事故なり戦闘なりで下半身を失ったのではなく、最初から存在しないのだ。

 その代わりとでも言うかのように腕は四本ついていて、その腕で這うように進みつつ、空いた腕を振り回して、手近なものを薙ぎ倒す。


「何だありゃあ!? 気持ち悪ぃ!?」

「覇王級モンスター、ミッシングケイルですわ! 勇者なら一目見てモンスターの種類ぐらい言い当てなさいライガー!」


 とにかくその異形巨人は、覇王級だけに魔武具も聖なる武器も跳ね除けて突進し続ける。

 誰にも手が付けられず、走って離れるしか手がない。


 しかし、ここで食い止めなければドワーフの都への侵入を許してしまう。


「……やはり、兵士級だけではなかったか」


 そこに、既に抜身の刃を下げた剣士が立ちはだかった。


「ッ! 師匠あぶねえ!」

「ミッシングケイルの腕力は覇王級でも上位と聞きます! 正面からぶつかるのは得策じゃないですわ!」


 ライガー、レシュティアが叫ぶも、もうモンスターはエイジの眼前まで迫っていた。


 しかし、この時のためにエイジは戦列に加わっているのだ。

 現状、聖鎚院支給の魔剣でも聖槍聖弓でも覇王級モンスターに傷はつけられない。


 できるとしたら、それは覇なる聖器か、敵と同じ覇王級モンスターの素材で作った魔武具だけ。


 そしてそれはエイジの手の中にあった。

 覇王級ハルコーンの角を精製して打った魔剣キリムスビが。


「ソードスキル『一刀両断』」


 ただの一振りにて、異形巨人は脳天から真っ二つにされて果てた。


 覇王級がまるでザコ扱い。


「うおおおおーーーーッ!? すげえええーーーーッ!!」

「覇王級を一撃必殺!?」

「やっぱり覇勇者は特別だ! この人がいれば負けねえぞーーッ!!」


 エイジの快勝によって士気も鰻登りとなり、魔武具の走りも益々滑らかとなる。


 単純な勝利ならば、もはや確定したも同じだった。

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