205 大抜擢
「モンスターは大群だが、迫ってくる方向は限られている。地形的にな」
「四方八方から取り囲まれることはないってことか」
地元勇者として地理に明るいドレスキファの説明を受け、作戦が練られる。
試合会場がそのまま作戦会議場となり、鎬を削るはずの対戦相手が輪になって耳を傾けていた。
「恐らく二方向から攻めてくるはずだ。一方は東側の峠方面。もう一方は西側、橋を渡ってくるに違いない」
地図を指さしながら丁寧に解説する。
「この川は、アイスルートが進路に使ったヤツだな。橋と峠。迎え撃つにも絶好の地形だ」
「で、提案するのは集団を三つに分ける作戦だ。一つが東の峠。一つが西の橋。そしてもう一つが都市に残って最終防衛を担う。どうだ?」
「脳なしモンスター相手にそう複雑な戦略もいらんだろう。じゃあ、西側の橋は僕が行こう。アイスルートと戦った思い出の方角だ」
「じゃあオレは東の峠だな」
エイジとドレスキファ。
二人の覇勇者として、それぞれが先頭を率いるのはいわば既定路線だった。
「報告では、千体以上いるというモンスターもすべてが兵士級。勇者級や覇王級は見当たらないそうだ」
「楽観はするなよ。アイツらはどんな形で紛れ込んでいるかわからない」
どんなに強かろうとエイジもドレスキファも一人ずつ、多数を相手にして負けることはないにしても、何体かはすり抜けて突破を許してしまうこともあるだろう。
「その時のためのキミたちだ。全員で水も漏らさず討ち取るぞ」
「「「「「おうッ!!」」」」
大会参加者たちは、既に油を落として戦闘態勢となった魔武具を手に気炎を発している。
覇勇者に従って躍り出る初の戦場に、試合に臨む以上の昂りを見せていた。
「でもやっぱり魔武具の絶対量が足りないわ。予選で敗退した参加者も多く会場に残っているけど、とても全員には行き渡らない……!」
ギャリコの報告に、エイジも仕方なく頷く。
「成績優秀者から優先して魔武具を配っていくしかない。それぞれ僕とドレスキファが率いていく」
「わかった……、ダラント! ヂューシェ! ヅィストリア! デグ!」
ドレスキファは同族の聖鎚勇者たちを呼ぶ。
「お前らはオレに付いて東側を守れ! ドワーフの誇りにかけて死守するぞ!」
「「「「了解!!」」」」
ドワーフ勇者は一チームでまとめておいた方が連携も取りやすかろう。
エイジもドレスキファの判断に口を挟むつもりはなかった。
「ライガー、レシュティア」
そしてエイジも勇者の名を呼ぶ。
「キミらは僕についてきてくれないか? 竜人とエルフの猛者たちに脇を固めてもらうと心強い」
「そう命令してもらわなきゃ困るところだぜ師匠」
「アテにされなければ勇者の沽券にかかわるところですわ」
二人も闘志に燃えていた。
「兄者! オレも! オレも!」
サンニガもエイジの隊に加わり、人員が充実する。
そして他の参加者たちも。
「ワシもドワーフとして、ドレスキファさんの手助け差してもらおうかい」
「オレはエイジ様の下に! 覇勇者と一緒に戦えるなんて人間族の誉れだぜ!!」
「オレは暴れられるんならどっちでもいいやー」
「エルフ族は均等に配備を。彼女らの遠距離攻撃はこういう時こそ頼りになるぞ!!」
続々と陣容が決まっていく中……。
「エイジ様!」
一人、まだ受け持ちの決まらない者がいた。
セルンだった。
「私もエイジ様の部隊に。人間族の勇者として使命を果たす機会をください!!」
「ダメだ」
「えッ!?」
その拒絶にセルンは動揺した。
これまでずっと彼女は、エイジに従って戦ってきたというのに。
「キミはスラーシャとの戦いを終えたばかりだぞ。ダメージもあるし疲れも残っているだろうし、前線に出すのは得策じゃない」
「平気です!」
「いや、ちょうどいいから。休憩ついでに大事な役目を任せたい」
それは……。
「後詰の指揮だ」
最初にも言っていた。
隊を三つに分けると。
「東西にモンスターを迎え撃ちに行くのはいいが、それで完璧に敵を全滅させられるかはわからない。だからこそ都そのものを守る部隊は絶対に必要だ」
「その指揮をアンタに任せたい。人間族の勇者セルン」
本来その役目を担うドレスキファまでもが賛同する。
「先の試合、見事だった。お前の武力はもはや覇勇者に匹敵する。だからこそ絶対に踏み越えさせてはいけない最後の一線を、お前に守ってほしい」
「そんな」
三部隊のうち、二部隊を覇勇者が率いるこの陣容。
二人の覇勇者に並ぶ三人目の部隊長に、セルンが抜擢されたという。
「異存はないぜ。セルンなら大丈夫だ」
ライガーもダメ押しのように賛同する。
「セルンの仕切で上手く行ったことは、これまで何度もある。だよな?」
「ああ! ソフトハードプレート戦は忘れてないぜ!」
ドワーフ勇者たちも。
「さっきの一戦を見れば自明のことだ」
「あのムカつく赤勇者をぶっ飛ばしたの、スカッとしたぜ!」
「彼女なら後詰を任せて心配ない」
「オレたちの背中を守ってくれ!!」
スラーシャ戦を通して、戦士たちのセルンへの評価は高騰していた。
「…………」
セルンの中に高揚が生まれた。
認められたことに対する高揚。
「セルンが率いる後詰部隊は、魔武具が行きわたらなかった参加者全員!」
「ちょっと待ってください!?」
その高揚は一挙に吹き飛んだ。
「それはいくら何でもあんまりでは!? 魔武具がなくては戦いようがないではないですか!?」
セルン一人に本丸を守らせる気か。
「大丈夫よ」
そこへ発言したのがギャリコだった。
「アタシに考えがあるの。必ずアナタたちを万全な状態で戦わせてみせるわ」
「本当ですか?」
ちなみにスラーシャは、全身の怪我が酷い上に精神的にも打ちのめされて、戦闘は不可能。
精々医務室で怨嗟の唸りを上げるだけの存在に成り下がっていた。
話し合って決めるべきことはすべて決まった。
あとは動いて、一瞬でも時間を無駄にしないことである。
「戦える者はすべて続け! 僕たち人類種の戦いを見せつけてやるぞ!!」
世界のどこかで、嘲笑いながら見下ろしている何者かに。





