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曇天  作者: 甘露門
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 中学校登校初日、僕は同じ小学校の友達、佐藤亮介と一緒に登校した。

 小学生の時の亮介は、僕と一緒でクラスの中心に居て、クラスで起こる笑いは、大体亮介と僕によるものだった。

 亮介は運動神経抜群で、バスケ部に入っていて、センターだった。クラスでやるドッヂボールやかけっこも得意な奴だ。運動も出来て面白い。当然、女子からモテていた。僕は面白い絵を描いて、亮介はその身軽さで、派手なリアクションをとって笑いを起こしていた。別の誰かが、「二人合わせたら、芸人になれるよ。」と言っていた。しかし、僕も亮介もそれに調子を良くして、自分の面白さに対して自信過剰になることはなかった。僕は僕のやりたいようにやっていただけだ。他人を笑わせようという意図はもちろんあったが、第一には何も考えていないで身体が勝手に動いていた。それは亮介も同じだったと思う。僕達は波長が合い、いつも一緒に遊んでいた。小学校を卒業してからも、それは続いている。

 初めて歩く中学校への通学路の景色に新鮮さを感じながら、二人横に並んで歩く。

「ノリは何組だっけ?」

 小学校の時の僕のあだ名はノリ。亮介はリョウ。同じ小学校の大体のやつがそれぞれをそう呼んでいた。多分、中学でも誰かと仲良くなったからには、そう呼ばれることになるだろう。

「7組だよ。」

「7組?一番端かぁ。」

「リョウはクラス、何組だっけ?」

「3組。ケンちゃんとかユッキーとかがいたよ。」

「いいな。僕のクラス同じ小学校の男子、一人もいなかったよ。」

「そうなの?でも俺、ケンちゃん達と話していたら、K小のやつが話かけてきて、仲良くなったよ。」

「そうなんだ・・・。」

「ノリは?誰かと仲良くなった?」

「いや、まだ誰とも話してない・・・。」

「そっか。...そうだ、休み時間、ケンちゃん達とノリの教室行くよ。」

 リョウは僕の性格をよく知っている。僕はその場に慣れれば自分の抑制を解き、おちゃらけだす。でも、慣れるまでは引っ込み思案なのだ。僕は新しい場が苦手なのである。そのことを気遣ってくれたのだ。

「ああ。ありがとう。」



 学校に着いて、僕達は入学式の日に教えられた一年生用の下駄箱の前で、自分の靴を入れるべき棚を見回したり、背伸びをしたりしてようやく見つけた。

 そして僕達は一年生用の教室が並ぶ二階に上がり、階段を上がってすぐの1年3組の教室の前で別れた。

 教室に入っていったリョウは、早速「おっす。」という感じに片手を挙げていた。そんな様子を横目に、僕はリノリウムの廊下を一番端まで歩く。僕のクラス、1年7組は、学年全7組分けの7つ目ということで、一番端に位置していた。俺も明日は、リョウみたく教室に入ってすぐ、誰かに挨拶できるかな? そんなことを考えていたら、もう7組の教室の前に辿りついていた。

 緊張して、足が重く感じる。勇気を出して、教室の中へ鉛のような足を進めた。

 先に到着していた生徒達が一斉に、教室に入ってきた僕を見る。だが、それはほんの一瞬で、それぞれ視線をもとの位置に戻す。

 視線から解放された僕は、鼓動が速くなりつつも自分の席に向かう。あった、僕の席。入学式の日に貼ってあった名前はまだ貼られていた。

 ようやく席に着いたはいいものの、早速、迷いが生じた。まだHRが始まるまで十分程ある。それまで何をしよう?このままじっとしているか?無理だ。僕は何もせずじっとしているのが苦手だ。どうしよう?

 そこで、誰かを参考にしようと、教室を見渡した。

 僕の視線は教室の端からゆっくり横へと流れていく。友達と話しているやつ、会議中のおっさんのように手を組んでじっと席に座っているやつ、本を読んでいるやつ...。あ、そうだ、HRの前にあるらしい「10分間読書」のために持ってきていた小説を思い出した。これを読んでいよう。

 小説、というか文字だけの本というと、「かいけつゾロリ」ぐらいしかまともに読んだことがない。あっでもゾロリは挿し絵がついてたっけか。あとは、小学校の図書室にあった「はだしのゲン」や「キャプテン」といった漫画しか読んでいない。思い出してみれば、僕は文字だけの本を読んだことがなかった。

 持ってきた小説も、姉の部屋の本棚に並べてあった書物の中から、グロテスクなタイトルに引かれて持ち出してきた推理小説だった。僕は鞄に手を突っ込み、その小説を取り出した。

 読みはじめると、やっぱりつまらない。一行をかなり時間をかけて読む。というか、読み慣れていないから、必然的に時間がかかる。

 次の行に進むと、先程読んだばかりのことばが全く同じ順番で綴られている。僕はこの本に、印刷ミスなのかと一瞬疑問を抱いたが、それはただ、次の行に進んだつもりの自分が、さっきの行をまた読んでしまっただけだということに気付いた。

 このような失敗を何回か繰り返して、ようやく一頁読み終えたころには、精神的エネルギーを大量に消費していた。

 ニ頁目にして、もう読む気が完全に無くなっていたところに、「面白そうな本読んでるね」と先程見渡した時に友達と話していたうちの一人が僕に話しかけてきた。

「あっ・・・えっと・・・」

「おれ日村翔吾。君のうしろの席なんだ。よろしくな!えーっと、林くん!」日村くんは僕の名札を見ながら、微笑みかけてきた。

 この時、僕が犬だったら、さぞシッポがブンブンと揺れ踊っていたことだろう。

「こ、こちらこそ、よろしく!」

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