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『蒼い空に続け』⑤

 琉生……改め、來生が琉生の母親に話しかける。


「久しぶりだね。……お母さん」

「え……?」


 最後の賭けだ。私たちは静かに見守る。琉生の姿を借りた來生は、笑顔で言った。


「よかった……最後に話せて」

「ら、來生……? 來生なのね……?」


 私たちは驚く。名乗っていないのに、その正体を当てて見せた。そう思った直後、わぁっと琉生のお母さんは涙を流し、崩れ落ちた。琉生の手を握って、言う。


「ごめんなさい……! 私、貴方たちに、あんなことをしようとしたのに。琉生のことも……向き合おうともしなかった。私が、私があんなことをしなければ良かったのに__」

「いいんだよ。……僕も琉生も怒ってなんかないよ。それより、僕は今日お別れを言いに来たんだ」

「え……」


 そう言うと、來生は、にこりと琉生のお母さんの手を握り返しながら言った。


「僕、ずっとお礼を言いたかった。苦しめたお母さんに、僕のことをずっと大切に思ってくれていてありがとうって。それで、お母さんを僕から解放したかった__それが僕の最後の未練だよ」

「い、嫌だ。來生! 行かないで。もう二度と、失いたくないの。私から、私たちから離れないでよ……っ」


 琉生のお母さんは、縋り付く。……このままだったら、無理やりにでも引き離す事になってしまう。私たちがその様子を見つめていると、もう一度、來生はぎゅっと彼の母の手を握る。


「……ごめんね。僕は、琉生のこともお母さんのことも、もう傷つけたくない。最後の僕のわがままだよ。……行かなきゃ」

「ら、來生……」


 彼の母の目からは、涙が吹き出す。そうして、暫く経った。琉生のお母さんは、遂に、彼にこう言った。


「……わがままなのは、私よ。あなた達のことを、苦しめて、本当にごめんなさい。……あなたが望んでいることは分かってる。その通り、私は琉生と、二人で、今度こそちゃんと向き合う。……そうして、幸せになるわ。だから、來生も覚えていて」


 そう言って、彼の、彼たちの母親は來生の髪を耳にかけて、優しい母親の顔で微笑んだ。


「私達があなたを愛していたこと。いつでも想っていること。……そして、またいつか会いましょう」


 そう言うと同時に、琉生の体から眩い光が放たれる。同時に、琉生の体は気を失ったように、倒れ込んた。……これは、萩野さんの時と一緒だ、と思い出す。その光は、少しづつ天に向かって登っていく。


「……ありがとう。皆。そして、お母さん。琉生。これからも、僕は、あなた達を__」


 臣が、静かに琉生と來生の母親に向かっていく。そして、彼女の手を握った。その登っていく、美しい光が見えるように。暗雲が、分かれていって、青空が見えてくる。その青空の隙間に、眩い光はゆらりと登っていく。

 來生であった、その最後の光が、天に消えていった。その直前、琉生の目が覚めて、その光に向かって、彼は言った。その頬に、透き通った水が流れ落ちる。


「……今まで、本当にありがとう、兄さん__」


 空は青く、日は私達を眩く照らす。こうして、琉生の兄である來生は成仏し__私たちに、日常が戻ってきた。




「お母さん、どうだって?」


 車を運転していた聖が車に乗り込んできた琉生に尋ねる。あの日から、もう二週間。私たちは普通の生活に戻っていて、買い出しに行っていた私と聖が、病院に通う琉生を迎えに行っているところだった。うん、と琉生が頷く。


「体調、少しづつ良くなってるって。この分だとあとちょっとしたら退院できるって」

「そう。それならよかった」


 聖はほっと息をついた。私も琉生に話しかけた。

「よかったぁ、元気になって。琉生ももう大丈夫?」

「うん。……色々心配かけてごめん」


 琉生が軽く頭をかく。その表情は、相変わらず薄いけれど、なんだかあれ以降、少しだけ表情が読み取りやすくなったように思う。



あまり変わらない日常を送りながらも、変わったことはいくつかあった。


 一つは琉生のこと。それから少しの間、なんとなく元気がなかった琉生だったが、徐々にいつも通りを取り戻していた。そしてなんと、琉生の霊感は來生がいなくなったことで収まる、というわけではなかった。來生の力が体に残っているのかなんなのか、霊も見えるという。そして驚くことに、私も含め周りの、チャンネルの皆の霊感や霊能がぐんと強くなったのだ。聖はなるほど、と言った。


「……來生さんの力が琉生のものになったことで霊能の性質も変わった、とかなのかな……? いや、わかんないごめん」


 そう言って聖は笑う。そして、こう続けていた。


「でも、きっと悪い物じゃないよ」


 その言葉の通り、琉生が霊をパワーアップさせる!ような体質はなくなっているようだ。私たちはほっと安心した。私はもとの霊感がほぼゼロだったからか、組紐がまだ必要だが、それを付けているとはっきりとした霊の姿が見えるように変わった。その他も皆少しづつ変わったところがあるみたいだけど、それはとりあえず割愛しようと思う。


 次に、チャンネル。琉生の一連の流れは、どうやら一応カメラには収めておいたらしい。琉生は出してもいいと言っていたけれど、結局出さないことにした……はずだったのだが、なぜか琉生自身がうまいこと編集してアップしてしまった。何でだよ!となったのだが、本人曰く「どうせなら利用しよう」という聖の精神のリスペクトらしい。


 その一連の動画はまたネット上で話題になって、そのストーリー性からやらせだのなんだのも言われているらしいが、登録者数はだいぶ増えることとなった。琉生の言う通りになった聖は、なんとも言えない苦々しい顔をしていた。


 そして、琉生の暴走は止んだが、とりあえずと言うことでシェアハウスも続けることになった。みんな、私も含め、なんとなく寂しかったのかもしれない。

 かくして、私たちは、まぁ比較的今まで通り生活を送ることになったのだ。



「たっだいまー……あづい……」


 私がその言葉と共に玄関に入ると、レニが近くまで来てくれた。


「買い物ありがとう。お荷物、持つね」

「うーん……ありがとう……」


 私がその言葉に甘え半分買い出しのものを渡す。二人でそのまま廊下を歩いていると、レニはふわりと微笑む。


「……エミルって、すごいよね」

「何が?」


 私が驚いていると、レニは続けた。


「私にない力を持ってる感じがする。……私がもしエミルみたいな立場だったら、何もできてないかもしれないのに」

「そんな……」


 私が首を横に振ると、レニはふふっとまた笑った。


「まあ、私の友達はすごいってことだね」

 その笑顔に、私も答えて笑う。


 そうしていると、リビングにいたであろう紀介がすっ飛んできた。何事かと思うと、スマホを見せてくる。その画面には、臣、と書いてあった。


「お前ら! ちょっと来てくれ! 俺らだけじゃどうにもできない!」

「私からもお願いしますわ! 知恵を貸してください!」


 緋姫の声も聞こえる。二人はたしか今取材に言っていたはずだった。その様子に、私たちは目を合わせて、ふっと息をつく。


「……行くしかないか!」


 今日も、チャンネルは続いていく。私たちは家族ではない。血の繋がりのない、不安定な仲間。だから、もしかしたら、いつか離れ離れになるかもしれないけれど、それでも今日を過ごす。できるだけ長く、この日々が続くように、祈りながら。


 『第七感チャンネル』は続いていくのだ。


以上で一旦完結です!ありがとうございました!

もしかしたら続きを書くかも……?なのでもし続きを書いたら応援してくれると嬉しいです!評価もくださると励みになります〜

ちゃんと一応完結させれてよかったです!ではまた次投稿する時に〜

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