『隣から声が聞こえる件』
「こんにちはー! どうも、『第七感チャンネル』のエミルですっ! 今回の依頼を受けるために、今回はここのアパートで依頼を解決していきたいと思います! なんでも、最近妙な現象が部屋で起きてるとか……。では、早速依頼人にお話、聞いてみましょーう!」
私が一息にそう言うと、動画を撮っていた、目の前にいる須川聖がうんと頷く。アパートの前の所で、私たちは投稿するための動画のオープニング部分を撮っていたのだ。端正な顔立ちの彼の、すこしウェーブがかった髪が揺れる。眼鏡の奥の瞳がふっと閉じられ、微笑みに変わった。
「うん。エミル、オープニングは今の感じで良かったんじゃないかな」
「ほんと? それなら良かった」
私がそう返すと、ふぁ、とアパートの階段に勝手に腰掛け欠伸をしていた降井臣がこちらをじとりと横目で見た。彼の睨んだ顔は、男子の割には可愛らしい顔立ちをしているからかあまり怖くないが、その口から出る言葉はいつも強い。
「エミルお前さぁ、よくそんな朝からハイテンションでいられるよな。俺超眠いんだけど」
時刻は朝七時。確かに取材にしても早い時間だ。そうすると、映像を確認していた聖がいやいや、と言った。
「この時間じゃないとね。できれば昼までに決着を付けたいから」
「なんで?」
私が聞くと、聖は真剣な顔をして答える。
「幽霊は朝がいちばん弱いんだよ」
私がピンとこずにいると、それは分かるかもな、と臣。霊感の全くない私にはちっとも分からないのに、常識みたいに言われてもな、と心の中でぼやく。すると、聖がピロンと鳴った携帯を確認して、うん、とこちらに頷きかける。
「レニもあっちでの機材の準備できたって。そろそろ向かおうか」
はーい、と私と臣は聖について行く。まるで私たちは小学生のようだな、と心の中で苦笑した。
『第七感チャンネル』。私の参加している動画投稿チャンネルのことである。簡単に言うと、このチャンネルで依頼人から頼まれた心霊関係の事件を、霊感のあるメンバーたちが解決していく!というコンセプトのチャンネルである。
私を含め全員大学生か専門学校生の、七人のメンバーがいるが、今回は夏休み前ということで、予定が合った四人で撮影していた。
私たちがアパートの階段を登っていると、三階の奥の部屋の方でレニという女子メンバーがこちらに手を振る。ショートボブと猫目が特徴的な華奢な女の子で、本名は冷泉二胡という。が、本人の希望であだ名である「レニ」呼びだ。
「レニ! こっち撮れた!」
私が声をかけると、こくりとレニは静かに頷いた。そしてそのレニの目の前の開いた扉の中にいるのが、今回の依頼人であろう。三十代ほどのかなり細身の男性で、目にくまができている。あるいは、ゲッソリとしている、というようにも見えるだろう。聖がニコッと笑って、その依頼人に握手を求めながら話しかけた。
「初めまして。私、第七感チャンネルの代表を勤めさせて頂いている、須川聖と申します。こちらは右から順に、レニ、エミル、臣です」
呼ばれた私たちが軽くお辞儀と挨拶をすると、ああ、とくたびれた様子の彼が低い声で挨拶をした。
「私……河野と申します。今回は皆さんが私の依頼を聞いてくださるとの事で……」
「ええ。私たちにできることなら解決いたしますよ」
そう言って聖が人の良さそうな笑みを浮かべると、はぁ、とため息をつきながら井川はブツブツと続ける。
「……私だって君たちみたいな胡散臭い子達に頼むつもりはあまり無かったんだけどね……。お金もないし、なんだか藁にもすがる思いで頼んじゃったよ……ま、いいや。とにかくやるならさっさと済ませよう。この動画を見てくれないかな」
なんだか文句や失礼なことを言われている気もするが、一旦スルーする。実際私たちが怪しいのは事実だろうからだ。しかし、聖は穏やかな笑みを絶やさないし、臣はなんだか少し顔が引きつっている気もするが、ご愛嬌だろう。レニの表情は分からなかったが、まあ多分なんて返せばいいかも分からず固まっているだろうとは想像が着いた。
とにかく、私たちは彼__河野氏が見せてくれた動画を覗いた。動画の中で、低い女の、獣のような唸り声が聞こえる。
「……ぅ……たい……いたい……あぁあ……」
しっかりと聞き取れたのはこの位だったが、苦しんでいるような声だ。「痛い」と言っているように聞き取れる。しかし、これで少なくとも河野氏の妄想の類ではないらしいことが証明された。取材をしているとたまにそういうこともあるのだ。河野氏はため息をつきながら言葉を続けた。
「……これが誰もいないはずの隣の部屋から夜中に聞こえてくるんですよ。お陰で寝不足ですよ……」
「それはお辛いですね……」
穏やかな口調で聖は頷く。私も口を挟んだ。
「これって、毎日なんですか?」
ええ、と河野氏は頷く。
「一ヶ月前に引っ越してきてから毎日です。幸い、今のところそれ以外のことはなにもありませんが……安いからと契約したのが馬鹿だった……はあ……」
「隣の部屋には前にどんな人が住んでた、とか知ってますか?」
私が続けて尋ねると、ああ、と河野氏は頷いた。
「前に聞いたことがあるんだけどね……ほんの数年前、若い女の子が住んでいたと。でも、何が理由だったかは少し分からないのですが、亡くなったそうで……」
「そんな……」
それで、と河野氏は続ける。
「その後何人か、その部屋にも住居希望者は出たらしいです。しかし、結局今まで契約者は誰も見つからず……僕の前に住んでいた人も一年ぐらい前にこのアパートを出ていってからそれっきり、暫く希望者は出なかったと。そこで私が安くなっている部屋を見つけて……という形です」
それならさあ、と臣が口を開いた。
「河野サン? の前に住んでた人はその声を聞いてたの? ……んですか?」
敬語が下手くそだ。私が内心苦笑していると、いや、と河野氏は言う。
「そういう話はないな……というか私の部屋に住んでいた人のこととかはあまり知らなくて……」
「そうですよね。ありがとうございます」
聖がにっこりとお礼を言う。その後、撮影の為に少しだけ準備を整えた。先程聞いたことを再構成し、もう一度質問するらしい。聖が準備をしている横で、小声で臣がうーんと唸った。
「これもしかしたら……厄介な案件かもな」
「何が?」
私が聞くと、レニがうん、と頷いて話を始めた。
「この部屋に入った時から……なんだか嫌な感じはしていたの。それでさっきの声を聞いたら『痛い』って言ってたでしょう。エミルもそれは聞こえたよね?」
「うん。動画だったし……河野さんも霊感ないっぽいもんね」
そうだね、とレニが続ける。
「でも、幽霊の声なんか普通聞こえない。河野さんやエミルにも声が聞こえるってことは……それだけ力が強い霊の可能性が高いの。強い霊っていうのは、基本的に現世への未練や恨み、執着が強ければ強いほど強くなる。もしくは、家系的に霊感が強いか……」
家系。例えば寺生まれだとかに霊感……あるいは霊能力が強い者は多いという。しかし、遺伝と同じようなものであり、家系が霊能家系だからといって絶対にその子供もそうだとは限らない。私もそうだった。祖母は霊感が強かったが、私自身はそういう訳でもない。むしろトラブル体質で、悩まされてきたものだ。
それを聞きながら、臣は頷いて言う。
「まぁ家系の線は薄いだろうな。そう考えると、現世への念が強い可能性が高い。それで、あの霊は『痛い』って言ってただろう? 病気や自殺ならそう言うか?」
「……まさか……殺人事件が起こったとか?」
臣は肩をすくめる。
「ま、そういう可能性もあるってコトだよ。大丈夫だろ。いざとなればレニの霊能があるしな」
「……」
話を振られたレニは黙りこくる。ちょっと、と私は声を上げる。
「レニはその、霊能……? ってやつ、使わないって言ってたじゃん。レニに頼る前提なのはどうなの」
「はいはい。まぁ十中八九杞憂だろ。なぁレニ」
話を振られたレニは、臣のことを軽く睨んで口を尖らせた。
「……大丈夫だよエミル。臣のノンデリカシーは今に始まったことじゃないし」
「お前言ったな?!」
「なーにしてんの、三人とも。準備できたよ。進めちゃおう」
そう聖が私たちに呼びかけ、慌てて私たちは撮影に取り掛かった。
こんにちは。お久しぶりです。うららです。前回のSPECIAがなんと完結しなかったという大変申し訳ないことになってしまいました。当時私自身も忙しかったのと、再度筆をとったら、超散らかってしまって収拾がつかなかったというのが正直なところであります。
が、今回は反省しました。もう書き溜めて、ちゃんと完結してからの連載なので最後まで連載できます。やらせてください。
ということなので、ぜひ完結まで楽しく、読んでくれたら嬉しいです〜!




