第22話 ノウ③
「どうぞ、入ってください」
メリシェの家はアパートの一室で、部屋の中はところどころ可愛いらしいオブジェが置いてあり、見た目の大人っぽい雰囲気とは少し違っていた。
「失礼いたします」
「あっ、セイヤさん、そこの椅子に座ってください。何を飲みますか?コーヒーでもいいですか?」
メリシェが忙しなく動き回る中、セイヤは部屋の中央にある小さなテーブルにある椅子に、ゆっくりと腰掛ける。
椅子に座るとなぜか不思議なことに、既視感を覚え気持ちが落ち着かなくなる。
「はいっ、どうぞ」
目の前に置かれたコーヒーに、その横にはミルクが入った小さなポットが置かれていた。
「ありがとうございます」
セイヤは小さなポットを指で掴もうとしたが、気持ちが落ち着かないせいか指が微かに震え、ポットを横に倒してしまった。
「あ、すみません…!」
そのときに、また体中に静電気のようなものが走り、目の前が真っ暗になる。
その瞬間、目の前には髪を1つに結んだ女性が現れ、笑いながらテーブルを拭いていた。女性は小さいポットを持つと、少し振って見せて白い歯を見せて笑う。
「大丈夫ですか?」
ハッとしたセイヤは、目の前に現れたメリシェに驚いて言葉が出ない。
「すごい汗ですよ…大丈夫ですか?」
「あ…ああ…はい…」
目の前には先程の1つしばりの女性はおらず、メリシェが心配そうに、こちらを見ているだけだった。
「このタオルを使ってください」
メリシェが差し出したタオルを受け取ったとき、手にも汗がびっしょりで、セイヤ自身もそんなことは初めてで動揺する。
「ミルクは、私が入れちゃいますねー」
メリシェが、コーヒーのカップの中にミルクを直接注ぐ。
コーヒーの中のミルクが渦を巻きながら、その濃い色の中に溶け込んでいく様が、まるで今の自分の頭の中のようで、余計に眩暈がした。
「…いただきます」
コーヒーとミルクの渦を見たくなくて、一気に飲み干したセイヤは、飲み終わるとソーサーにカシャンと小さく音を立てて置く。
「…少し落ち着きました?」
メリシェが恐る恐るセイヤに尋ねる。
「あ…ああ、大丈夫です。ありがとうございます。…それで、私と話したいことというのは、なんでしょうか」
なぜかこの場が落ち着かなくて、すぐにでもこの部屋から出たいセイヤは、すぐに話を進めようとする。
「私…職場の男性達から陰で悪口言われてるんですけど、それだけじゃなくて…その…実は…」
メリシェは口をギュッと横に結び、両手を太ももの間に入れると俯く。
「すごく言いにくいんですけど、実は私、部屋で自慰行為をしていて、その声が大きいって隣の部屋の人から聞いた職場の男性達に、職場で言いふらされてるんです」
「……え?はい…?」
思いもよらない話に、一瞬固まるセイヤ。
「そうです…か…。隣に住んでいる方は、メリシェさんと同じ職場の方なのですか?」
「いえ…たぶん違うと思います」
「…では、隣の方はどうやって、メリシェさんの職場の方達と知り合ったのですか…?」
「それは私も分からないんですけど、でも、職場の男性達は私の噂が大好きだから、たぶんどうにかして情報を得たんだと思います」
「なるほど…もしそれが本当だとしたら、悪質ですね」
「そうなんです。理由が理由なだけに、職場の人にもこのことは相談できないし、親しい人にも言いにくいし…」
「それで、プロファーン様を頼ったと」
「そうです!だから、ぜひ、よろしくお願いします!」
セイヤの手を急に掴んで握り、真剣な目で見つめるメリシェ。
「…分かりました」
「ありがとうございます!あ!そうだ!話は変わるんですが、まだお話ししたいことがあって、いいですか?」
「え、あ、いいですよ。聞きましょう」
セイヤが笑うと、メリシェは目を輝かせ楽しそうに話し始めた。




