第12話 ヒメごと③
「村長、客人ですよ」
プルーニに続いてセイヤが中に入ると、小綺麗な小さな部屋の中には、雑然と物が置かれていて、小さな部屋を更に狭く見せていた。
そして、部屋前方中央で、書類を持ち後ろ向きに立っていた男性が振り向く。
「なんだね、突然誰だ…ああ、なんだ、プルーニか」
僅かにだが、村長とプルーニの間に緊張がはしった気がしたが、村長は穏やかな笑みを浮かべセイヤに視線を移す。
「客人というのは、そこの青年かな」
「はい、セイヤと申します」
「ふむ…」
村長は書類を机の上に置くと、セイヤの前へと来て、その金色に輝く瞳でセイヤの全身に目を配る。
村長は上下に白い衣服を身に纏っており、髪は短髪で筋肉はほどよくついており、見た目からは歳は若過ぎてもなく、かといって老いてもなく見えたが、村長と言われるだけあり威厳はあった。
「話は何かな」
「はい、この村を市街化させる計画について、お話をお伺いいたしたく、こちらに参りました」
「そうか…」
村長は顔をあげ、プルーニを見つめる。
「プルーニ、君も同席するか」
「はっ。私はそんな暇じゃあないよ。やめておくれ」
「そうか」
「ふんっ。セイヤさん、用が終わったら、また私の所へ来るといいよ。食事や泊まれるよう、場所を用意するからさ」
「分かりました。ありがとうございます」
ドアを開け、村長の家を出ようとするプルーニ。セイヤが頭を下げると、振り返ったプルーニが微かに笑った。だが、その微笑みは、日の光に照らされたせいか、どこか儚げに見えた。
「自己紹介がまだだったね。私の名前はアンドレだ。それで、話とはなんだね」
椅子に座ったセイヤと村長。村長は、組み合わせた両手を目の前の小さな木のテーブルの上に置き、セイヤをじっと見据える。
「なぜこの村を変えようとしているのか、村長からお聞きしたいのです」
「なるほど。理由など明白だと思うが」
村長は目を伏せた後、静かに口を開く。
「君も見ただろう。子ども達はまともな衣服を着ることができず、学校に通うこともできずにこの村の中を走り回っている。それだけではない、幼くして亡くなることが日常茶飯事だ。その辺に死体が転がっていても、誰も気にも留めないんだ。それ程までに、この村にとって、死が特別なものではなく、日常の、空気と変わらない存在になっている。それは異常だろう?」
「そうですね…」
セイヤはここに来る前に見た、子どもの死体を思い出す。
「だから、私はこの街を変えたいのだ。子ども達が他国の人々と同じように暮らせるよう、最低限の生活水準に、そして最低限のライフラインを確保したい。そのためには、まずはこの村を変えなければならない。村のままでは、どうしても収入に限度がある。街に変えるためには、自然を壊さなければならない。それは仕方がないことだろう」
村長は立ち上がると、窓の前へ行き外の景色を見つめる。
「とはいえ、私はこの雄大な自然と景色が大好きでね、壊すことになんの躊躇いもないわけではない。この自然のありのままの姿、生き生きとした自然に惹かれて移住したのだよ」
「移住ということは、村長様はもともとこの村のご出身ではないのですか?」
「私は他国の人間、いわばこの村からしたら外国人だ」
「そうなのですか!外国の方が村長をされているのは、凄いことです」
「ははっ。ありがとう。まあ、これもそれもプルーニのおかげだよ」
「プルーニさんですか?」
「ああ、そうだよ。私とプルーニは元夫婦なんだ。彼女から、聞いていないのかい?」
セイヤはプルーニが村長の家を睨んでいた、あの顔を思い出して押し黙った。
「プルーニは、この村の前村長の娘なんだよ。私がこの村に初めてやって来たときに、前村長とプルーニにとても世話になってね。それがきっかけで結婚したんだが…まあ結果、うまくいかなかったがね」
村長は苦笑いをしたが、その後すぐに節目がちになり笑みは顔から消えた。
「私の話はこんなところだが、もうこれでいいかな。この後、市街化計画の外国の担当者と電話会議があってね」
村長はスマホを振って見せる。
「はい、貴重なお時間をありがとうございました」
セイヤは椅子から立ち上がり、お辞儀をしてドアへと向かう。
「そうだ、君…!」
「はい」
ドアの前で村長から呼び止められ、振り向くセイヤ。
「プルーニに…何か必要なことがあれば、私に言ってくれと、伝えておいてくれないか」
「分かりました」
セイヤの返答に安心したような笑みを浮かべた村長だったが、その表情はどこか寂しそうで、なぜかセイヤは少し胸がざわめいたのだった。




