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転生先に断罪後の悪役令嬢しか選べなかった  作者: ふぅみ


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14/14

第14話

 すっかり健康を取り戻してはいたが、大人しく静養を続ける令嬢と誰もが私のことを思っていただろう。

 定期的に家族への手紙の配達を頼み、午後は物語を書いているから…と1人で部屋に過ごしていると見せかけて部屋を抜け出した。転移スキルを使ったので自分の部屋から1キロ先へ一瞬で移動できる。


 アイテムボックスのおかげでかさばる毛布や布団一式すら持ち出せるのだから、このスキルがあって本当に良かった。


 簡易結界を張って、これまで夜中にこっそり作ってきた自作の服と帽子に着替えて変装した。長い髪は小さくまとめてから帽子の中に隠しているので遠目に見たら少年のように見えるだろう。今世では初めてズボンを履いたが、前世ではスカートとジーンズが半々だったように思う。


 転移を繰り返したので、あっという間に港町へ到着した。パスポートに相当するものはないし侯爵令嬢であることを示す身分証を持っていても、それは使えないから海外渡航は出来ない。

 しばらくは国内を転々とするしかないが、取り急ぎ行けるところまで逃げなければ。


 森の中で手と顔を汚し、念のために爪のなかにも少し土汚れを付けて偽装してある。さらに化粧道具で眉を太くしてそばかすも頬に散らすという変装をしていたので侯爵令嬢だとは誰も気が付かなかったと思う。

 港町で着替えの古着と鞄を買い、パンと果物も少し買う。

 私の聖魔法では簡易結界が張れる。普通は透明なままだがノベルズを参考にして周囲と同じ景色を投影することに成功していたから街中の路地の隅でこっそり着替えることもできた。


 あとは港からすぐに出発する船に乗り込むだけ。幸いにも国際港行きの船のチケットが買えたので2等客室のチケットを1枚買った。2等だと相部屋になるが運よく満室ではなかったらしく、船が出港しても誰も来なかった。


 第一関門を無事突破した。部屋に使用人向けの置手紙を残して来てあるから、誰かに誘拐されたわけではないと分かってもらえるし家族向けに送った手紙にも自分の意思で旅に出ますと書いたから、使用人たちが責任を取らされることもないだろう。


ないよね?


「…ふぅ」

 誰もいない。誰にも守ってもらえない。だけど、誰の目も気にすることがない。好きなことを好きなようにできるんだ。そう思ったら心が嬉しさで震えた。


 王都を離れてから一年ほどは静養先で静かに暮らせるかもしれないと思っていたが、逃げ出すタイミングを冬以外にしたかったから逃げ出す日を今日、決行した。今後は野宿も増えるだろうし、慣れない市井での暮らしになるから屋外活動がしにくい冬までに自立できるだけの経験を積んでおきたかったのだ。


 国際港行きだからか舟は行きに乗ったよりも大きく、船内でも買い物ができた。多くは船に乗り合わせた行商人や小売りをしている店の小遣い稼ぎのようだが塩や胡椒といった調味料に木製の器など、これから野営をするなら必要となるものを船内で買うことが出来たのは嬉しい誤算だ。

 食堂へ行くと多くの人の目に触れることになるため、売店でパンとジュース、量り売りのスープを買って部屋に戻って食べた。


 そうか、1人旅ではなく連れがいるふりをすれば2回分の食料が買える。そう気が付いてカップとスープ皿を買い足し、売店で2人分のパンと飲み物を買った。

 トラブルもなく船は航行し、予定通りの時間に国際港に到着した。船に乗り込むときはチケット確認されたが、降りる際にはノーチェックだった。


 急いで雑踏に紛れるようにして船から離れ、町の中で買い物をする。必要なものは解体ナイフや採取用の袋など冒険者が必要とするものが多いため、冒険者向けの店へ向かう。

 ここで初心者用の弓と背負い袋、食事用ナイフ、簡易テント、目につくもののなかで必要になりそうなものをまとめ買いする。これだけ一気に買えば不審がられるかもしれないと思ったが、「自分用ではなく坊ちゃん用に初心者セットを探している」と初めに説明したことで、裕福な商人の坊ちゃんが冒険者のマネごとをしたいと言い出したために、店の者が買いに来たのだろうと思ってくれたようだ。


 あれこれ親切に…その実いろいろなものを買わされそうになり、背負い袋に入りきらないと断って店を出た。

 背負い袋に初心者用の弓ということで駆け出しの冒険者のようになった私はそのまま防具を取り扱う店に向かった。ここでは長居せずに既製品をササっと買って立ち去ることにした。男の子のようにズボンを履いていても、女性であることがすぐにバレると思ったのだ。

 しかし、これは杞憂だった。店を出たところで女性冒険者たちを目にすることになり、ズボンを履いた女性は珍しくないし防具や武器を身に着けたまま闊歩している姿はあたりまえのことだと気付かされた。


 まだまだ私の常識は貴族だけのものに縛られている。苦笑いしてから、そういえばこんな表情も令嬢時代にはできなかったなと思った。

 大きく口を開けて笑うこともできなかったけれど、今日からは笑い声をあげることすら自由なのだ。

 

   *


 少しでも遠くへ、少しでも早く…そんな思いに急かされるように、その日のうちに国際港の町を後にした。乗合馬車に乗ることで移動の痕跡が残る可能性があるため、まだ明るいうちに歩いて町の門を出た。出る際には身分証は求められないが、次の町に行けば問われるかもしれない。出来れば中規模の大きさの町で冒険者登録をしたいが、すぐに登録することでも足跡を残すことになる。しばらくは小さな村を渡り歩くことにしよう。


 初日は寝不足のまま初野宿を経験した。しかし、簡易結界は5時間張り続けていられることが分かったから、少なくとも5時間は安眠できる。女性の1人旅だと分かれば不埒な考えをする男に目を付けられる可能性がある。毎日化粧で眉を太くして男の子のフリは継続することにした。


 パンと果物は2日で食べきってしまったが、弓に風魔法の支援をすることで鳥やウサギなどの小さな獲物を狩ることは難なくできた。3日目にたどり着いた村でウサギを売り、パンと果物、木の実を買った。金貨や銀貨はまだいっぱいあるが、銭貨や銅貨が残り少なくなってきた。


 両替できるところがあればいいが、村では無理だ。金貨は街の商業ギルドへでも行って崩すしかないだろう。


 浅い森や街道沿いの平原を選んで野宿していたからか、それとも馬がいないからか峠越えの前に遭遇したフォレストウルフの群れに襲われるようなことはなかった。そうか、結界のおかげで人間の匂いに気が付かれなかったのかもしれない。夜に襲われることなく朝を迎えている。


 そろそろ塩が残り少なくなってきて、少し大きめの村に立ち寄るか街へ向かうべきかと迷いながら森の中を移動しているとムクロジの木を発見した。石鹸を節約するためにここで収穫しておきたいがさて、どうするか。

 風刃で切り落としてみると落下の衝撃で割れてしまった。ここには誰もいないし、私が令嬢らしからぬことをしても眉を顰める人はいない。よし、木登りに初チャレンジだ。


 一つ目の枝には背伸びをしても手が届かない。こういう時は身体強化すると良かったはず。ラノベの異世界物を教科書代わりにしている私だが、意外とこれが役に立っていたりする。

 足の筋肉に魔力を纏わせるイメージでジャンプしてみるといつもより高くジャンプできた気がする。しばらく練習してみて一つ目の枝に手が届きそうなくらいジャンプ力が増した。本番では足の他に腕も強化するイメージで魔力を纏わせる。ジャンプして掴んだ枝を引き寄せるようにして身体を持ち上げ、足を引っかけてからよじ登ることに成功。


 こんな姿、誰にも見せられないわと恥ずかしく思いながらも、思い描いたとおりにうまくいったことが嬉しい。


 最初の枝に上ってしまえば次の枝は腕を伸ばすだけでよかった。慎重に実を付けた枝まで移動してムクロジの実を引っ張る。手の中に入ればしめたもの。あとはアイテムボックスの中にどんどん入れていけばいい。


 こんな風に森の中で収穫をすることも楽しかった。野生のベリーは酸味が強かったが、町に行ったときにでも砂糖を買ってきてジャムにするとパンにつけて食べる楽しみが増える。



   *



 ある日の夜のことだった。思いがけず森の中で迷ってしまい、野営地になりそうな場所を探して薄暗い森の中を歩いていた。簡易結界を張るにしても安全に過ごすためには後方に大きな岩か大木があった方が気持ちが落ち着く。いい場所がないかと探し回っていたら、なにやらバタバタという羽音がする。そっと木の陰から様子をうかがうと細長い蛇に巻きつかれたカラスのような黒い鳥がもがいている。


 カラスは苦手だが、蛇はもっと苦手だ。私が来た時から勝負は一方的で蛇は毒持ちだったのか鳥の抵抗が弱ってきた。蛇もそれが分かるのだろう、締め付けていた鳥を放すと近くの木に向かって移動し、するりするりと上り始めた。食べるためにカラスを襲ったのではなく、襲われたために反撃して蛇は逃げた…ということなのかもしれない。

 もう死んだのかと思っていた鳥が悲し気に木の上を見上げて鳴き声を上げたことでカラスではないと分かった。よく見るとナイトホークだった。


 鷹の種類ではあるが成鳥になっても中型のまま。ナイトというだけあって夜目が効く鳥であり、長距離移動も可能なことから夜間の伝聞鳥として人気が高い。


「なんだかこの鳥、上を気にしているような…」

 蛇の行方を目で追っているようにも見えるが、敵がいなくなったら普通はいつまでも木の上を見上げることなどしないはず。


「あ、もしかしたら…」

 木の枝と葉で隠れているが巣があるのかもしれない。そう思ったら蛇を見逃せない気になった。思わず風刃で4つに切り裂くとぼとぼとと木の下に落ちた。ナイトホークは賢い鳥だと聞いたことがあったが、蛇の脅威がなくなったことに気づいたのか顔の向きをこちらへと変えた。


 やはり、守りたい巣があるのね。

 安心したのかゆっくり頭が地面に落ち、親鳥はピクリとも動かなくなった。どうするか迷ったが卵だけが巣に残されているなら、別の蛇に狙われる可能性がある。確認のために木登りして探してみると予想した通り巣があり、卵がひとつ残されていた。


 番で子育てしているなら、片親がもどってくる可能性もある。だけど片親だけで卵を育てるのは大変だろう。

 私は少し迷ってから、卵を持ち帰って育てることにした。ナイトホークは魔鳥だがとても賢く、人に懐いて働いてくれることから益鳥に分類されている。卵から育て躾けることで伝聞鳥として利用されているのだ。


 貴族の身分を捨て自由になったのはいいが、人との交流を避けて隠れるように移動する生活に心が少しすり減ってきた。

 異世界転移ものでも、よくもふもふの従魔が冒険のお供についてきてくれていたし家族のように思える動物がいる生活にも憧れる。


「ねぇ、ここにいたら危ないわ。私と一緒に行きましょう」

 そんな言葉を卵に掛けた。


 アイテムボックスには入れられないため、タオルで卵を包んでから背負い鞄に入れる。両手が空いたことで木から降りるのも簡単になった。

 片親のナイトホークが戻ってくると私としても困るため、急いでその場から離れる。方角が分かっていたわけではないが植生が変わってきて、森の浅いところまで戻ってこられたのが分かった。


「ここならいいかも…」

 小さな段差を利用して簡易結界を張る。これでようやく夕食の準備に取り掛かれる。不思議なことに結界内の匂いが外へ漏れることがないようで、焚火をして肉を焼いていてもオオカミやほかの獣をおびき寄せることはなかった。


 遅い夕食を摂りホッと一息つくと、背負い鞄から卵を取り出す。

 普通の鳥なら温めることで卵が孵る。だがこの鳥は魔鳥だ。親から魔力も与えられて育つのではないだろうか。


 試しにほんの少しの魔力を放出してみると卵の中に吸い取られるような気がした。殻に両手を当ててみると気のせいかもしれないが魔力を催促されてちょっぴり吸い取られている気がした。

 どれほど与えればいいのか。また多く与えすぎることになってもいいのかと心配になったが、卵の反応が消えた。


「もしかして、お腹いっぱいになったの?」

 返事はないが、独り言ではなく話しかける相手がいるということが嬉しくなった。羽化してから焦ることがないように名前を先に決めようとあれこれ考えるうちに…眠ってしまっていた。


 その日に見た夢はとても暖かくて楽しかったという印象だけを残して……目が覚めた。



 初めは気のせいかと思ったが、3日もすると卵が大きく成長しているのは明らかだった。朝、昼、晩と自分の食事を摂った後に少しずつ魔力を与えている。


「あ、動いた…」

 4日目の夜。とうとう卵にひびが入り始めた。中からコツコツとくちばしでつつく音がしている。頑張れ、頑張れと心の中で声援を送っていると10分近くかけてヒナが卵を蹴散らすようにして出てきた。


 可愛い…。羽化したばかりで全身がべっとりしたように濡れているが、つぶらな丸い瞳はラピスラズリのように深い青で、鷹の鋭いくちばしがなければフィンチのようだ。


「私の名前はエリザベスで、あなたの名前はニクスよ」

 ギリシャ神話の夜と闇を司る女神のニュクスから音感を少し変えた。鳥のオスとメスの違いなど分からないからオスなのに女神の名前をそのまま付けるのはかわいそうだと思ったのだ。


「体の汚れをきれいにするわね」

 クリーンを掛けると吃驚したようだが、驚いて逃げるようなことはなかった。

「綺麗になったわ! 羽がふかふかよ」

 濡れていた時には黒に近い濃紺一色に見えた羽だが、よく見ると羽の内側の一部が青銀色になっているし、びょこんと飛び出した羽冠も青銀色が混じっている。


「とても綺麗な色ね。瞳のラピスラズリのような色も素敵だわ。あら、もしかしたら名前はラピスの方がいいかしら?」

 尋ねられたのが分かるのか、首を縦に振るではないか。


「ニクス? ラピス? そう、ラピスの方がいいのね」

 ニクスと呼ばれても反応しないのに、ラピスと呼ぶと頷くのだ。

「あなた、私の言葉が分かるのね。嬉しいわ」


 食事は何を与えればいいのだろう? 迷って生肉を細かくしたものを出してみたが食べようとはしない。私の指先をちょこんとつついてくるから魔力を与えればいいのかしら。

 ためしに指先に魔力を集めて放出してみると、すっと飲み込むような仕草をするではないか。ヒナの間の離乳食なのか、それとも成鳥になっても魔力のみかは分からない。


 少し大きめの町へ行き、冒険者登録をするとともに従魔登録もしてこよう。そしてナイトホークの育て方を聞いてこよう。

 私が飼い主と分かるように、足にリボンを邪魔にならないように巻いておこう。街に着いたら足環のようなものがギルドで買えるだろう。…多分。




 冬に追いかけられるように私は南下を続けた。真冬でもほとんど雪が降らず、魔物が多く生息する大森林を擁した辺境を目指していた私とラビスが目的地に辿り着いたのは、年が明けてからの1月半ばだった。


 冒険者が多いこの町を拠点に選んだのは、そろそろランクを上げようと思ったからだ。冒険者登録してからもずっと旅を続けていたので私のランクは一番下のままだった。Cランクまで上げれば海外渡航しても受け入れられるはずだ。


 ここでひと冬を過ごしてから国外脱出すれば、もう追っ手を気にすることはないだろう。

 移動しながらあの手この手で居場所を特定されないように偽装して、無事を知らせる手紙を送ってきた。ラピスが伝聞鳥として離れた町のギルドへも手紙を届けてくれるようになったことが大きい。


 辺境に来てまで魔獣狩りをしている冒険者には魔法が使える者も多い。私も魔法が使えることを隠さず狩りをして、明日から本格的にランク上げをしよう。



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